66 結界の町エイダスティア
少女の父親の案内でオレ達は大きな屋敷に着いた。ひょっとしてこの人、かなりの権力者なのかな?
「まさか今日の騒動がユウ君の仕業だったとは············」
少女テリアに事の顛末を聞き男がつぶやくように言う。
彼はルーディル=フランディストという町の権力者だそうだ。
少女はテリア=フランディスト。
ルーディルさんの一人娘だそうだ。
オレ達もそれぞれ名乗った。
「この町には結界が張られていたようだが、一体いつから、何のために張られていたのだ?」
アイラ姉が問う。
まあ当然の疑問だよな。オレも気になるし。
「この町を覆っていた結界は私が生まれるずっと前から、数百年前に張られたものらしい。私自身話に聞いただけのものだが、当時魔王軍の侵略を受けて壊滅的な被害を出したとか。その侵略から逃れるために町全体に結界を張ったそうだ。それ以来、この町は外部から完全に隔離されていた」
ルーディルさんの説明で結界が張られた理由はわかった。魔王軍の侵略か。
この町の名前はエイダスティア。
当時アルネージュはまだなく、エイダスティアがこの辺りの最大の町だったらしい。
ずいぶん強力な結界だったみたいだが寧ろよく、そんなものが数百年もの間効力が持ったものだな。
「でもユウがその結界を壊しちゃったわ············」
テリアが付け足して言う。
「あのユウという少年は何者なのだ? 口ぶりから察するに、あなた方の知り合いのようだが」
アイラ姉が更に問う。
「彼の名はユウ=ロードテイン。この町で数少ない退魔の力を持つ少年だ」
「退魔でござるか?」
ルーディルさんの言葉にシノブが首を捻る。
「退魔とはその名の通り、魔物を退治する者のことだ。当時は町の住人の半数程は退魔の力を持っていたそうだが、数百年の間に退魔の力の使い手はどんどん減ってしまい、まともに魔力を使えるのは私達フランディスト家と、ロードテイン家だけになってしまった」
結界を張って魔王軍の侵略は防ぐことが出来たが魔物の自然発生までは止められないようだ。
そうやって自然発生した魔物を倒す役割の人を退魔士と呼ぶらしい。
「そのロードテイン家も三年前にユウ君の両親が強力な魔物との戦いで相討ちになり、ユウ君一人だけになってしまった············事実上、この町で退魔の力を持つのは私達フランディスト家だけだ」
フランディスト家は娘のテリアとその両親の三人だけ。
お弟子さんみたいな人達もいるらしいが、大した魔力はないようだ。
「ユウの両親は天才と言われる程すごい人達だったわ······。でも、その子供のユウはろくに退魔の力を使えなかった。天才の子供と期待されていただけに町の住人の落胆も大きく············ユウに対する態度は確かにひどいものだったわ」
なんとなくだが事情が見えてきたな。
あの少年は自分は町の人達に必要とされていなかったとか言っていた············。
「······ユウが町の人達を恨んでいても確かに不思議じゃないわ。でも、今のユウは絶対におかしいわ! 急にすごい魔力を持って魔物を操る力を使ったりして············ユウは力を手に入れたからってあんなことをするヤツじゃなかったわ!」
「ユウ君はどうやってそんな力を手に入れたんだ······?」
「そんなこと、わたしにもわからないわ!」
ユウという少年は大した力を持ってはいなかったようだ。
だが、オレ達が見たユウはレベル155のテリアと互角以上に渡り合っていた。
おそらく彼の胸元にあった紫色の宝石が原因だろう。
「ルーディルさん、封魔の呪石って知ってますか?」
「······!? 何故その名を······」
オレの質問に驚いた表情をするルーディルさん。
この反応は知っているみたいだな。
「あのユウって少年が身に付けていたんですが」
「な、なんてことだ······まさかユウ君、禁断の蔵に入ったのか!?」
禁断の蔵とやらが何か知らないけど、心当たりがあるみたいだな。
「禁断の蔵って強力な魔道具を仕舞ってるっていうあの蔵のこと? お父さん」
「ああそうだ。······そうか、ユウ君は悪魔に取り憑かれてしまってるのか」
ルーディルさんに詳しい話を聞くと、禁断の蔵とはロードテイン家の敷地内にある大量の魔道具を納めた蔵のことらしい。
扱いが難しいものが多く、ユウの両親が亡くなってからは誰も使いこなせないらしい。
中には危険な物もあるとか。
「封魔の呪石は数百年前に、勇者が当時の魔王の側近を封印した魔道具だ。封印が解けないよう厳重に仕舞われてたはずだが······」
確かに鑑定でそんなことが書かれていたな。
やはりあれが原因かな。
「じゃあユウからその呪石ってやつを取り上げれば元に戻るのね!?」
そんな簡単にいけばいいけど。
オレ達はそのユウという少年の元の性格を知らないからハッキリはわからない。
「今の話を聞く限り、ユウという少年はその呪石とやらに頼らなければならない程に追い詰められていたのではないか?」
アイラ姉の言う通りそうでなければそんな危険な物に近づくとも思えない。
天才の子供と期待され、期待外れで落胆され······その反動でひどく虐められていたとか?
よく聞くような話だ。
「そうだとするなら、あの少年にこの町を滅ぼされても、それは自業自得なのではないか?」
きっつい言い方だな············アイラ姉。
けど、確かにその通りな気がする。
「それは············だけどわたし達だって何度も町の人達を説得していたのよ······! なのにみんな······」
「いや、彼女の言う通りだ。ユウ君をそこまで追い詰めたのは私達の責任だ······」
テリアが泣きそうな表情で反論したが、ルーディルさんはアイラ姉の言葉を肯定した。
なんだかんだで複雑な感じだな············。
問題の少年ユウはらこの後どんな行動を取るだろうか?
さっきの様子だと素直に諦めるとは思えないんだよな。