65 復讐に狂った少年
「ユウ!! ······アンタ自分が何をしたのかわかってるの!?」
テリアという少女が少年に向けて言う。
少女はオレ達の存在に驚いていたが、それよりも目の前の少年の方を優先するようだ。
「今のアンタ絶対におかしいわよ!? 一体何があったのよ! 答えなさい!」
「あはははっ!! 別に何もないよ? そしておかしくもない、ぼくは正気だよ! ぼくはぼくの意思でこの町を······そして世界を破壊し尽くすんだ!」
少女の言葉に少年ユウは笑いながら答えた。
「だってぼくはもう今までのぼくとは違う! それだけの力を手に入れたんだ! ほらっ!」
少年が右手を空に掲げる。
すると空間が歪み、魔物が湧き出してきた。
この町を襲っている魔物はこの少年が呼び出したのか?
「ガアアアッ!!」
湧き出た魔物が少女に襲いかかっていく。
少女は魔物の攻撃を身軽にかわした。
「はっ!!」
少女が手元に魔力を集めると弓矢の形に変わっていく。そして矢を魔物に向けて次々と放った。
湧き出た魔物はすべて倒された。
(物質具現化)
頭の中でイメージしたものを魔力を込めることで具現化させることができる。具現化した物質は一定時間経つと消滅する。
(詠唱破棄)
魔法を使用するのに詠唱の必要が無くなる。
なるほど、このスキルで何もない所から弓矢を作り出したのか。
このテリアという少女、かなり戦い慣れているな。
「あはははっ! さすがだねテリア、今の魔物は結構強かったはずなんだけど」
確かに今の魔物は平均レベル60のヤツが複数現れていた。
「やっぱりアンタおかしいわよ! どうやってそんな力を身に付けたのよ!? それになんで町を攻撃するのよ! ここはわたし達の生まれ育った町じゃない!」
「この町の人間はぼくを必要としていなかった。ぼくが今までどんな目に合ってきたか知らないわけじゃないだろ? ぼくには力がなかった······でも今は強大な力を手に入れたんだ!」
「だからって············こんなこと許されないわよ!?」
「許されない? だからどうしたって言うのさ? 許さないのはぼくの方さ! ぼくを必要としていなかったこの町を······世界を破壊してやる! 必要ないのはぼくじゃない、この町だ! 世界だ! ぼくはそれだけの力を手に入れたんだ! あははっ! あっははははははっ!!!」
少年が狂ったように笑い声をあげる。
事情はわからないがこの少年が騒ぎの元凶に間違いなさそうだな。
「ぼくは何もかも破壊してやる! ぼくは死ぬまで止まらない、止まるものか!!」
少年が両手を広げて魔力の塊を無数に作り出した。
魔力の塊は(物質具現化)で無数の剣に変わった。
「止められるものなら止めてみてよ、テリア!」
無数の剣が少女に向けて一斉に放たれた。
あまりに数が多すぎる。
本気で殺すつもりなのか?
「旋風斬っ!!」
アイラ姉が少女の前に立ち、剣技で少年の放った剣をかき消した。
シノブもアイラ姉の横に立ち少女を守る体勢だ。
「あなた達······どうして?」
「事情は知らぬが黙って見過ごせん。助太刀しよう」
少女の問いにアイラ姉が答える。
まあ確かに放っておくわけにはいかないよな。
オレも二人の横に立った。
「へえ······君たちもぼくの邪魔をするつもりなんだね?」
「何があったのか知らないでござるが、こんなことはやめるでござるよ!」
「あっははは! 嫌だね、邪魔するつもりなら容赦はしないよ!」
少年が再び魔力の塊を作り出した。
魔力の塊は無数の剣へと変わる。
「あはははっ!! くらいなよっ!」
少年がオレ達に向けて剣を放った。
だがオレ達にこんな攻撃は通用しない。
少年の攻撃はすべてかき消した。
「無駄だ。あきらめて降参するのだな」
アイラ姉が少年に言う。
だが少年は笑ったまま表情を崩さない。
「あっははは! 降参なんかしないよ! ぼくは世界を破壊し尽くすんだ! それまでは絶対にあきらめないよ! あははっ! あはははは············っ」
言葉の途中で少年の笑いが止まる。
「ゴフッ······!!?」
突然少年が口から血を吐いた。
ゲホゲホと苦しそうに何度も吐いている。
「ユウッ!!?」
そんな少年の様子を見て、少女が少年の名を叫ぶ。
しかし一体どうしたんだ?
オレ達はまだ攻撃していない。なのに何故?
「ゴフッ······うぐ······はあはあっ······」
少年が息を整える。
だいぶ落ち着いてきたようだ。
ん? 少年の胸元にある紫色の宝石のブローチが怪しいな。
〈封魔の呪石〉
かつて勇者の手によって古の大悪魔を封印した禁断の魔道具。
装備者の精神を支配し、魔力と生命力を吸って復活しようと目論んでいる。
古の大悪魔を封印······何かヤバいものみたいだな。
もしかしてこの少年、その悪魔に操られているだけなのか?
「············どうやら今は分が悪いみたいだね。ここは引かせてもらうよ······テリア、ぼくは死ぬまで止まるつもりはないからね······ぼくを止めたければぼくを殺してよ······」
「ちょっ······待ちなさいユウ!!」
「あっははは! じゃあね!」
そう言い残して少年ユウは姿を消した。
まさか転移魔法か?
そんなのまで使えるのか······。
「ユウ······なんで······こんなことに」
少女がつぶやくように言う。
いまいち事情が掴めない······声もかけづらいな。
「テリア!」
一人の男が駆けつけて少女の名を叫ぶ。
見た目は三十代後半くらいの男性だ。
「······お父さんっ」
少女が言う。どうやらこの少女の父親のようだな。
けど少女はレベル155もあるのに男性は62しかない。
······いや充分高い方か。
「なんとか町を襲っていた魔物はすべて倒したよ。幸い死者は出ていない。こっちは大丈夫だったか?」
「············」
父親の言葉に少女は答えられないでいる。
「そこの君たちは······? 町の住人じゃないな······まさか外の世界から? ······ということはやはり結界が消滅してしまったのか」
男性がオレ達を見て言う。
「たまたまこの近くを訪れていたら突然この町が現れてな。詳しい事情を聞きたいのだが?」
アイラ姉が男性に言う。
「ああ······そうだな。私も君たちから色々聞きたい······一度私の家に来てくれないか? そこで詳しい事情を話そう」
男性の言葉に了承してオレ達は彼の家に向かうことになった。
厄介なことにならなければいいんだがな。