閑話③ 3 お酒は適量を守りましょう
(シノブside)
ゴブリン退治を終え、拙者達はアルネージュの町に戻ってきたでござる。
冒険者ギルドにゴブリンキングのことを報告したらえらい騒ぎになっていたでござる。
探知魔法で調べてもゴブリンが発生する気配はなかったのでもう心配はいらないと思うでござるが。
ともかく犠牲者が出ることなく解決できてよかったでござる。
しかし、アラト殿達は依頼達成報酬をすべて拙者達に譲ってくれたでござるがよかったのでござろうか?
断るのも悪いかと思い受け取ったでござるが。
まあそれよりもノギナ殿の依頼を終わらせるでござるか。依頼と言ってもギルドを通していないものでござるが。
アラト殿に必要な素材はもらったので、さっそく拙者のスキルで作るでござる。
といっても拙者お酒のことなど何もわからないでござる。
拙者達の世界とこちらの世界のお酒に違いがあるのかもわからぬでござる。
そもそもこちらにはどんなお酒があるのでござろうか?
向こうの世界の物なら父上が飲んでいた物くらいは見たことあるでござるが。
考えてもわからぬでござるし、とにかく作ってみるでござる。
うーむ、やはり名前だけではさっぱりでござる。
このアルコール度数とやらの数字が大きい程美味しいのでござろうか?
このすぴりたすとやらは数字が96になってるでござるな。
とりあえず数字が大きい物を何種類か用意するでござるか。父上も結構飲む方でござったし量も多い方がいいでござろう。
拙者は手に入れた素材で作れるだけお酒を作ったでござる。
ドワーフ族はお酒好きなようでござるし拙者の作る物で満足してくれるかわからぬでござるが。
「······シノブ、これ飲み物? 飲んでもいい?」
拙者がお酒を作っているところを横で見ていたスミレ殿がそんなことを言い出したでござる。
スミレ殿は年齢的に飲んでは駄目ではないでござるかな?
······そういえばスミレ殿の年を知らないでござるな。拙者と同じくらいだと思ってたでござるが実際はどうなのでござろうか?
「シノブさーん、用意出来たっすか?」
ちょうど用意出来た頃にノギナ殿が来たでござる。
おや? ドルフ殿も一緒でござる。
「おう、珍しい酒があるらしいな。我慢できなくて来ちまったぜ」
珍しいかどうかはわからぬでござるが。
「とりあえず用意したでござるよ。口に合うかはわからぬでござるが」
「ここにあるやつ全部っすか?」
「こりゃ思ってたよりスゲェ量だな」
一応アルコール度数の数字が高い物を10種類ほど一升瓶10本ずつ用意したでござる。
「味見してみてもいいか?」
「構わないでござるよ」
拙者にはお酒の味の良し悪しはわからないでござる。ドルフ殿が瓶1本1本じっくり確認しているでござる。
「聞いたことのねえ名前の酒ばかりだな。まあ1本ずつ見させてもらうぞ」
瓶には一応お酒の名前が書かれたラベルを貼っておいたでござるがドルフ殿も知らないものでござるか。
まあ同じお酒でもこちらの世界と向こうの世界では名前が違うだけかもしれぬでござるが。
ドルフ殿が持参したジョッキにお酒を注いだでござる。
ジョッキを持参してくるとは初めから飲む気満々でござったな。
「············っ」
ドルフ殿が一口飲んで時が止まったかのように固まってしまったでござる。
口に合わなかったでござるか?
「······うめえ············」
違ったようでござる。
ドルフ殿が感動のあまり涙を流したでござる。
············そんなに感動するほどでござったか?
「親方がそんなに褒めるなんて珍しいっすね。ウチも一口もらうっす!」
ノギナ殿も入れ物を持参してきたようでござる。
ドルフ殿が飲んだ物と同じお酒を注いで口に運んだでござる。
「な、なんすかこのお酒!? うまいなんてものじゃないっす! 最高っすよ!」
ノギナ殿がそう言うと今度は並々と注いで遠慮なしに飲み出したでござる。
よほど口に合ったようでござるな。
「バカヤロウ! こんなうまい酒もっと味わって飲みやがれ!」
「そう言う親方だってめちゃくちゃ飲んでるじゃないっすか!」
二人によってお酒が1本、また1本と空になっていくでござる。
味見という話はどこに行ったでござるか?
「············あんまりおいしくない。············けど身体が熱くなる······悪くない」
スミレ殿まで飲み出したでござる。
おいしくないと言ってるでござるが結構グビグビ飲んでいるでござるよ。
拙者も興味が出たので飲んでみたでござるが············やはり拙者にはまだ早かったみたいでござる。
「頭がぐるぐるっす~、気分も良くなってきたっす~!」
「このバカ娘が! ドワーフがそんくれえの酒で酔うんじゃねえ! ガハハハハッ!!!」
もう拙者が用意したお酒が半分近く空になってるでござる。ノギナ殿はもうフラフラでござるな。
ドルフ殿もなんだかんだで出来上がっているようでござる。
············一応ここは拙者の部屋なのでござるが、完全に酒盛り場のようになっているでござる。
「······シノブも飲む······ボクと一緒に······」
スミレ殿まで顔が真っ赤でござる。
状態異常耐性スキルを持っているスミレ殿までかなり酔っているでござる。
「ち、ちょっと待つでござる······スミレ殿······」
「飲まない人は罰ゲーム······。さあシノブ······ボクに身を任せて······」
「意味がわからぬでござるよスミレ殿!?」
まずいでござる。
もはや拙者にはどうしようもない状況になってるでござる! 師匠、アイラ殿······助けてでござる············。
「今帰ったぞ。ずいぶん騒がしいが何をやっているのだ?」
拙者の願いが叶ったでござる!
アイラ殿と師匠が帰ってきたでござる。
アイラ殿が拙者の部屋の惨状を見て表情が険しくなっていくでござる。
「何をやっているのだこの状況は!!?」
アイラ殿の怒声が響き、三人の酔いも醒めてきたようでござる。
ちなみに事の経緯を説明させられ、拙者は酒類の製造は厳禁だとアイラ殿に怒られたでござる。
その後酔いの醒めたドルフ殿とノギナ殿に今後もお酒を譲って欲しいと土下座する勢いでお願いされたでござる。
アイラ殿の許可が降りたらというのを条件に了承したでござるが············もう酔っぱらいの介抱は勘弁でござる。