525 聖獣
負傷したサフィルスに続いて、巨大な魔物が舞い降りてきた。
赤黒い翼を広げ、鋭い爪を持つ鳥の魔物だ。
「――――――申し訳、ありません主人。撒くことが出来ずに、連れて来てしまい······」
「もういい、サフィルス。無理に喋るな」
サフィルスが途切れ途切れに言う。
サフィルスは人形なので血は出ていないが、目に見えて重傷だ。
[ヘルスガルダ] レベル―――
――――Unknown――――
魔物を鑑定してみたが、名前以外が表示されない。(神眼)のスキルを使っても何もわからないか。
わかることはレベル900を超えるサフィルスでも倒せないくらい、ヤバイ魔物だということだ。
通常の魔物どころか、迷宮に現れる魔物でもそこまでヤバイ奴は滅多にお目にかからないが。
サフィルスは真の主と天使族の遺跡の調査に行っていたはずだが、そこに住み着いていた魔物だろうか?
[ヘルスガルダ]
聖獣王に仕える七聖獣の一体。
魔物の名前をクリックしたら、そんな説明文が出た。聖獣王? 七聖獣?
オレの勝手なイメージだが、聖獣っていうと神々しい特別な存在を想像するが、見た感じただの魔物と大差ないぞ。
冥界の住人であるジャネンが使役していた霊獣とは違うのか?
「!!!!!」
魔物が口を開け、火の球を無数に吐き出してきた。余計なことを考えてる場合じゃないな。
周りの建物に燃え移ったら大変だ。
「ブリザード!!!」
オレが防ぐよりも先に、寮から出てきたミールが「氷」属性魔法で魔物の吐いた火球をかき消してくれた。
「大丈夫ですか、レイさん?」
「ああ助かったよ、ミール」
「そちらはサフィルスさん、ですか。ともかくワタシも力を貸しますよ」
ミールが傷付いたサフィルスと魔物を交互に見て、状況を把握したようだ。
「鳥型の魔物? でも、あんな魔物見たことないよ」
続いて出てきたエイミも魔物を警戒して構える。
寮に住む他の学生や周りの住人達も、何事かと外に出てきている。このままだと大事になるな。
「この王都に魔物の襲撃だと? バカな」
「レイ君、私達も手伝うわよ〜」
オレ達と同じく、学生寮で生活しているリイネさんとキリシェさんも騒ぎを聞き、外に出てきた。
キリシェさんは相変わらずのマイペースな感じだが、リイネさんは王都に魔物が現れたことにかなり驚いている。
「!!!!!」
魔物が凄まじい叫び声をあげた。
その声で起きた衝撃波で、周りの建物のガラスがすべて割れてしまった。
そして魔物は、そのままこちらに向かって急降下してきた。
――――――――――!!!!!
オレは咄嗟にサフィルスを抱えて、魔物の攻撃を避けた。
魔物が降り立った場所には、そこそこ深いクレーターが出来ている。
やはり、かなりヤバイ魔物みたいだな。
「烈風牙突塵!!」
「アルティメット·スコ~ル~!!」
リイネさんとキリシェさんが魔物に向けて攻撃を放った。しかし魔物の強靭な皮膚に阻まれ、まったくダメージを与えられていない。
鑑定魔法で情報が見られないことと、サフィルスでも倒せないことから、この魔物はレベル1000を超えている可能性がある。
そんな魔物とこんな町中で戦えば、どれだけの被害が出るか想像出来ない。
「!!!!!」
魔物はリイネさん達のことは無視して、またこっちに向かってきた。
もしかしてサフィルスを狙っているのか?
「――――――主人、離してください。おそらくはあの魔物の狙いは、私です」
まあ、あの魔物はサフィルスを追ってここまで来たんだろうからな。サフィルスを差し出せば、素直に帰ってくれるのか?
そんな知能があるようには見えないし、仮にそうだったとしても、サフィルスを渡す気はないけど。
「!!!!!」
魔物が口から巨大な火の球を吐き出した。
さっきよりも遥かに大きく、魔物と同等のサイズだ。火の球というより燃え盛る岩と言った方がいいか?
――――――――――!!!!!
燃え盛る岩が爆発して、辺り一帯に飛び散った。
岩の破片が周囲の建物に直撃して被害を出し、中には高熱で燃え上がっているのも見える。
リイネさんやミール達が結界魔法である程度防いでいたので人的被害はないが、戦うにしてもここでは危険だな。
「魔物を誘導する! リイネさん、この場は任せます」
「お、おいっ······レイ!?」
オレはサフィルスを抱えたまま、「風」魔法の応用で飛び上がった。
魔物の狙いがサフィルスなら、追いかけてくるはずだ。魔物さえ引き離せば、燃え上がっている建物や人々の安全などはリイネさん達に任せれば大丈夫だろう。
「!!!!!」
案の定、魔物はこちらに目を向け、飛び上がってきた。このまま王都を出て、周りに人がいない場所まで誘導しよう。