閑話③ 2 一般冒険者から見たシノブとスミレ
(アラトside)
俺の名はアラト。アルネージュの町を拠点に活動している冒険者だ。
ランクはDで自分で言うのもなんだが、それなりに実力には自信がある。
パーティーメンバーは剣士のケルト。
そして魔法支援役の魔術師セニカとファミイだ。
セニカは俺の幼なじみで小さい時からいつも一緒にいた仲だ。
ケルトとファミイは冒険者になってからの付き合いだが、もう何年もパーティーを組んでいる仲間だ。
今回受けた依頼は〝ゴブリンリーダーの討伐〟だ。
町の近くの森にゴブリンが大量発生しているらしい。ゴブリンは大して強くない魔物だが数が集まると厄介だからな。
報酬金額もなかなかいいし受けることにした。
さっそく森に向かいゴブリン退治を始めたが様子がおかしい。
ゴブリンの数も多いが鑑定魔法で見るとレベルが平均20くらいの奴ばかりだ。
ゴブリンのレベルは普通は5~10くらいなんだが······。
俺たち以外の冒険者も何組かゴブリン退治をしているようだ。
俺たちも負けずにゴブリンを倒していくが数が減る様子がない。
森の奥まで進むと目的のゴブリンリーダーを見つけた。レベルは35。
ゴブリンとは思えないくらいステータスの高い奴だ。
「ゲギャッ!!」
「な、しまった!?」
いつの間にか大量のゴブリンに囲まれていた。
まさかこのゴブリンリーダー、俺たちのことを誘い出したのか!?
「ぐっ······」
ケルトがゴブリンの攻撃を受けて苦痛の声を出す。
くそっ······ヤバイ!!
さすがに平均レベル20のこれだけ大量のゴブリンを相手にするのは厳しい。
「ゲギャギャ!!」
「ぐあっ!?」
ゴブリンの短剣で腕を斬られた。
く······、死ぬ程の傷じゃないが血が止まらない。
「アラト、あぶない!!」
さらにゴブリンが追い打ちをかけて俺に短剣を突き出してきた。
そこにセニカが俺の前に出てゴブリンの短剣を受けてしまった。
「うっ······」
「セニカ!? ······てめえよくもセニカを!!」
力を込めてゴブリンを斬ったが、セニカの腹部にはゴブリンの短剣が突き刺さっていた。
「セニカ······! バカ、俺なんかを庇うなっ」
このままじゃセニカが死んじまう!
ケルトも持ちこたえているがかなりの深手を負っている。
ファミイもゴブリンに囲まれてヤバイ状況だ。
くそっ······どうすればいい!?
絶対絶命の状況だったがそこに二人の少女が現れたことで一変する。
「助太刀するでござる!」
「キ、キミ達は!?」
どう見ても12~13才くらいの子供だが見覚えがあった。
ケルトとファミイも驚きの声をあげている。
確かシノブとスミレという名前だったか。
アルネージュで英雄と言われている人物の連れ子だとかいう話だったかな。
英雄と言われているのはレイとアイラという二人でまだ直接話したことはないが色々とすごい噂をよく耳にする。
「ボクに任せて······一人で充分」
スミレという子がそう言うとあっという間に
ゴブリンリーダー含むすべてのゴブリンを倒してしまった。
噂には聞いていたがこれ程とは······。
そうだ、今はそれよりもセニカだ!
まだ意識はあるが危険な状態だ。
「これでその女性を治すでござるよ」
シノブという子がそう言って差し出してきたのは上級ポーションだった。
確かにそれでセニカを治せるがこんな貴重な物を簡単に······。
「い、いいのか? これって上級ポーションじゃ」
「そんなことを言っている場合じゃないでござる、早くしないと死んじゃうでござるよ!」
その通りだった。
俺は礼を言ってセニカにポーションを飲ませた。
セニカはみるみる内に回復した。
よかった······本当にもうダメかと思ったぞ。
シノブはさらに俺とケルトに中級ポーションを渡してくれた。
上級ポーションと中級ポーション2本合わせると相当な金額になるが命が助かったのだから安いものと思おう。
金は必ず払うと言ったのだがシノブは金はいらないからある素材を譲って欲しいと言ってきた。
シノブの言う素材ならちょうど持っているが、全部渡しても金貨1枚にもならないんだが。
「それで構わないでござるよ」
シノブは本当に満足しているようだが、後日改めて何かお礼をした方がいいだろうな。
ゴブリンリーダーも討伐し町まで戻ろうとした時、森の木々を押し倒しながらすごい唸り声をあげて魔物が現れた。
その魔物を見て絶句した。
[ゴブリンキング] レベル68
ステータスの鑑定に失敗しました。
とんでもなくでかいゴブリンだと思ったらまさかのゴブリンキングだった。
冗談じゃねえぞ!?
何で町のすぐ近くの森にこんな魔物がいるんだよ!?
その後ろからは100体くらいのゴブリンも現れた。上位種のゴブリンリーダーも何体か混ざっていやがる。
「············シノブはその人達を守ってあげて。······あのでかい奴はボクが倒す」
スミレが前に出て剣を構えた。
さっきスミレの強さは目にしたがゴブリンキングはゴブリンリーダーの倍くらいのレベルがあるんだぞ?
大丈夫だろうか······。
そんな心配は杞憂······というより無用だった。
「グアアアーーッ!!?」
ゴブリンキングが血飛沫をあげて叫ぶ。
スミレの剣がゴブリンキングを斬り裂いていた。
しかも斬った傷口から石化していき、ゴブリンキングはあっという間に石像のようになってしまった。
スミレの持つ剣は特殊な効果があるようだ。
「············トドメ」
スミレが石化したゴブリンキングを粉々に粉砕した。後にはゴブリンキングの大きな魔石だけが残された。
「終わりでござる!」
周囲のゴブリン達もシノブがあっさり倒していた。
とんでもない強さだな······。
レイとアイラという人物はもっと強いのだろうか?
〈レベルが上がりました。各種ステータスが上がります〉
え、マジか?
俺のレベルが一気に10以上上がったぞ!?
ケルト、セニカ、ファミイのレベルもだ。
ゴブリンキングとゴブリンの群れを倒したといっても上がりすぎだろ。
シノブ達は成長促進させるスキルを持っているという話だったがこれ程とはな······。
「これでもう安心でござる。どうやら今の奴がゴブリン大量発生の原因みたいでござったから依頼は解決でござるな」
「あ、ああ······そうみたいだな」
あれだけのゴブリンを相手にして息一つ切らしていない。スミレも物足りなさそうな感じだ。
これがシノブ達アルネージュの英雄との出会いだった。