521 天使族の遺跡
本編再開です。
妖精族の国での出来事も解決し、現在オレはエルフの里に戻り、平穏な日常を送っている。
妖精族の国のことは、聖女セーラ達が上手くやってくれそうなので、これ以上オレに出来ることはないだろう。
シノブ達お子様組も妖精族の国が気に入ったのか、ちょくちょく行き来しているようだ。
妖精女王や他の妖精達、それと勇者一行と交流を深めているみたいなので、その内何か進展があるかもしれない。
エルフの里の方でも、色々と進展があった。
まずはフルフル達幽体組と元傀儡兵達について。
そもそもフルフル達がエルフに協力してくれたのは、特殊な儀式で魔力を込めた世界樹の枝を手に入れるためだ。
そして、エルフの長老直々に儀式を行い、注文通りの世界樹の枝を渡され、フルフルもご満悦だった。
「この世界樹の枝なら、きっとテュサ様も満足するわね。ようやくこれで冥界に帰れるのよ!」
フルフル達冥界の住人にとって、エルフの里のように森に囲まれ、澄んだ空気が溢れる環境はあまり居心地が良くないらしい。
騒がしい性格のフルフルが、里にいる間は特に何かするわけでもなく、おとなしくしていたからな。
目的の世界樹の枝を手に入れたフルフルは同族の幽体達、そして冥王の新たな配下に加わった元傀儡兵と共に、すぐに冥界に帰るつもりのようだ。
そこにはエイミとミールの両親である、メアルさんとデューラさんも入っている。
「お別れね、エイミ、ミール。ま、今生の別れってわけでもないんだから、辛気臭くするのはやめておこうか。リプ、お前さんも元気でな」
メアルさんが娘達と学園長に別れを告げる。
本当ならもっとエイミとミールの側にいたいのだろうが、幽体となったことでメアルさん達も、フルフル同様に里の空気は長く居ると厳しいものらしい。
「お前達はもう充分に強い。俺やメアルがいなくても、心配いらないだろう。それは嬉しくもあり、寂しくもあるがな」
デューラさんも二人にそんな言葉をかけていた。
ま、エルフの里にいる間は娘達とずっと一緒にいて、色々と話せていたみたいだし、失った五年分を少しは取り戻せたのかな?
「うん、お父さんとお母さんも元気でね」
「ワタシ達のことは心配いりません」
エイミとミールも別れを悲しまずに、笑顔で二人を見送るようだ。
まあ、もう会えないというわけでもないしな。
メアルさん達は幽体となって実体が無い状態だが、すぐに実体化する方法を見つけて、また会いに来ると言っている。
メアルさんなら、本当に実現させそうだな。
「レイ、アンタも娘達のこと頼んだよ」
最後にオレにもそんな言葉をかけてきた。
まだ、なんだかんだミールの告白に答えていないからな。いい加減、返事を決めないとな。
「エイミ、ミール。本気で男を自分のモノにしたいんなら、少しくらい強引にいくのも手だよ。あたしの場合、裸で迫ってデューラに既成事実を······」
「メアル、その話はやめておけ」
メアルさんの言葉をデューラさんが強引に遮った。なんか、とんでもないことを教えそうな雰囲気だったが。
「はいはい、別れの挨拶はそれくらいにしなさいよ。それじゃあ早く帰ってテュサ様に世界樹の枝を届けるのよ!」
騒がしくなってきたところを、フルフルがそう締めくくり、メアルさん達は幽体系達と共にエルフの里を去っていった。
これで色々と問題も片付いたことだし、しばらくはのんびり出来るかな?
(トゥーレミシアside)
ありとあらゆる事態を想定しての準備を進め、ついに天使族の遺跡の調査を開始する。
戦闘特化の子達を全員集合させて、最後の確認をする。
「アウルム、シルヴァラ」
「――――――全員準備万端です。いつでも行けます、創造主」
「――――――我も問題ありません」
アウルムが私に向けて敬礼し、シルヴァラも自身の体調をアピールした。
シルヴァラは最近まで、サフィルス達同様にあのレイという男の所に行っていたので色々と不安だったのだけど、特に問題なさそうね。
「アーテル、アルブス」
「――――――あたし達も問題ない」
「――――――アタシ達も問題ありません」
「「――――――いつでも指示を(ください)、創造主」」
この二人も、あの男からの悪影響を心配したけど、大丈夫そうね。
二人も感覚共有を勝手に切っていたから、向こうで何をしていたかまでは把握出来ていないけど、少なくとも身体に異常は見られないわ。
まあ、あの男にはアイラという保護者的な人物が近くにいたから、そういう心配はないわね。
「フラウム、ロセウス」
「――――――準備バッチリなの。いつでも行けるの」
「――――――早く、早く天使と遊びたいよ〜!」
フラウムとロセウスは特に出掛けたりすることはなかったから、久しぶりの外出に張り切っているわね。
「ヴェルデ、パールス」
「――――――いつでも行ける! ヴェルデ頑張る」
「――――――ウチも問題なしやで〜」
ヴェルデは普段通り元気良いし、パールスも身体検査を繰り返し行ったけど、異常は見られなかった。
今回の調査同行に問題はないわ。
「グライス、プルルス」
「――――――はい、行けます。必ず創造主の役に立つ!」
「――――――ボクもいつでも大丈夫だよ、よ! 天使族も面白そうだけど、早く調査を終わらせてユウ君達の所に戻りたいかな、かな」
グライスも問題なさそうね。
プルルスは龍人族の国で会ったという勇者をよほど気に入ったらしく、今回の調査同行をかなり渋っていたのよね。
私と同じ神将の一人である、ナークを倒したという勇者。今度、私も顔を見に行ってみようかしら。
「最後に······サフィルス」
「――――――はい、私も問題ありません。いつでもご指示を」
サフィルスだけは、まだパートナーがいないのよね。そろそろ頃合いだし、天使族の遺跡の調査を終えたら、もう一人新しい子を増やしてもいいかもしれないわね。
全員の点呼を終え、問題ないと再確認出来たわ。
「殺戮人形が全員集合か。魔王軍の奴らが見たら、震え上がりそうな光景だな」
そう言ってきたのは、今回の調査に一緒に行くバルフィーユね。
こんな可愛い子達を見て震え上がるとか、失礼なことを言ってくれるわね。
「何故、私まで調査の共に······。天使族には、あまり興味がないのですが」
研究室にこもりっきりだったのを無理矢理引っ張ってきたものだから、ガストがまだ不満そうにぼやいているわ。
「そう言わないの。今回の調査は未知なる場所なんだから、貴方の解析能力も必要になると思うわ。天使族の遺跡の調査が終わったら、貴方の研究を手伝ってあげるから我慢しなさい」
「もちろん、トゥーレミシア様のご命令なら否はありませんが······」
ガストは戦闘能力は低いけど、その頭脳は期待出来るのよね。たとえ遺跡に危険生物がいたとしても、戦闘特化の子達とバルフィーユもいるんだし、問題ないでしょう。
「そんじゃあトゥーレ、コイツを使って目の前の結界を砕いちまっていいんだな?」
バルフィーユがそう言って取り出したのは、ナークが魔神より授かった神槍イシュヴァランス。
神具の一種であるだけにその力は凄まじく、私やアウルム達ではまともに扱えない。
ナーク以外で使いこなせるのはバルフィーユくらいよ。
「ええ、準備は整ったわ。思い切ってやってちょうだい」
「へっ、天使族がどれほどのものか、楽しみにさせてもらうぜ」
バルフィーユが神槍に力を込め、遺跡を覆う結界に向けて解き放った。
鬼が出るか蛇が出るか、天使族の遺跡の調査開始ね。




