閑話⑳ 14 洗脳魔道具返上(※)
※(注)引き続き、お見苦しい表現があります。
(ローウルside)
護衛騎士達を無力化し、後は王女だけとなった。無力化した方法はアレだが、この際それはもういい。
もう一人のマレットという貴族令嬢は、戦闘能力はあまり高くなさそうだし、男の邪魔は出来ないだろう。
王女は護衛騎士達がやられ動揺しているが、すぐに表情を引き締め、気丈の振る舞いを見せた。
「わ、私を甘く見ないことね!! あなたは私の〝命令〟に逆らえるかしら!?」
王女はペンダントの力を使って、男を洗脳しようと試みた。ペンダントの力を引き出せるとは、王女というだけあって潜在魔力が高いようだ。
あのペンダントはそこそこ強力な魔道具であり、並の耐性スキルやアイテムでは防ぐのも難しい。
もし男が洗脳されたら、確かにマズイ状況となる。
「無駄です。その力は私には効きませんよ」
王女の持つペンダントが怪しく光っているが、男に異常は見られない。(もともとが異常な姿だが)
あのペンダントの効力を上回るスキルか、魔道具を持っているのか?
「そ、そんな······」
「どうやら貴女にも、お仕置きをする必要がありそうですな」
頼みの洗脳効果も通じず、王女が動揺を隠しきれていない。腰が抜けたのか、ペタリと座り込む王女に男がジリジリと近付いていく。
「ひっ······そ、それ以上近付いて来ないでちょうだい!? まさか騎士達にしたように、私にもその汚らしいモノを近付けるつもり······!!? や、やめなさい!!?」
今のはペンダントの力を使っていないただの言葉であり、男はその言葉に答えることなく王女との距離を詰めていく。
「わ、わかったわ。取り引きをしましょう!? 私は王女という立場にあるから、あなたの望みなら大抵のことは叶えてあげれるわよ」
王女の言葉は取り引きというより命乞いに近いものだが、男は足を止めない。
もう王女の眼前には男のアレが迫ってきている。
「や、やめ······お願いだから待って!? 私は帝国第四王女なのよ!? そんなことをしたら、お父様が黙っていないわよ······!? お父様の手にかかれば、あなたなんて簡単に消せ······」
「さあ、お覚悟を」
「い······いやぁぁぁーーーーっ!!!???」
結局王女の言葉に何一つ答えることなく、無慈悲に男は王女に対して特殊なお仕置きを下した。
相手が王女であろうと容赦無しだな。
「さあ、怪盗ローウル殿。王女殿がこの通り、快くペンダントをお返ししてくれましたよ」
男が王女の持っていたペンダントを手にして、こちらに来た。もう王女も護衛騎士達も無力化しているのだから、隠密魔法を解いても問題なさそうだな。
それにしても、快くか。
「あふっ、ふふふっ······うふふふふっ」
男のお仕置きを受けた王女は放心状態になっており、貴族令嬢に介抱されていた。
つい目を離せず、王女に対する男のお仕置きを一部始終見てしまったが、以前私にしたものよりも過激なものだったように思う。
あんなことをされては、男性経験がないであろう王女が廃人になっていないか、他人事ながら心配にもなる。
「念の為聞いておきますが、本当にこのペンダントを悪用したりはしないのですね? もし、良からぬことを企んでいるのなら、貴女にもお仕置きが必要ですが」
「む、無論だ! 怪盗ローウルの名に賭けて、悪用などしないぞ!?」
男の問いに、私は反射的にそう答えた。
もとより悪用するつもりなどないが、この男を敵に回すことになるのなら、尚更だ。
男は私の言葉に満足したようで、王女から取り返したペンダントを私に手渡した。
「マレット殿。私共は王女より、このペンダントをお返ししてもらいたかっただけであり、これ以上、騒ぎを起こすつもりはありません。王女の介抱と、この屋敷の主である領主への説明をお願いします」
「ええ、承知致しましたわ、正義の仮面様。後のことは、わたくしにお任せくださいませ」
男は王女や護衛騎士達を介抱している令嬢に、そう言った。この状況をどう説明させるのか、無茶振りのような頼みだが、令嬢は嬉しそうに男の言葉に頷いた。
やはりこの令嬢、どこかおかしいのではないか?
男が王女や護衛騎士達にした仕打ちを見ても、何事もなかったように接している。
これは肝が据わっているとか、そんな問題ではない気がする。
まあ、これ以上騒ぎが広がらないのであれば、それでいいか。
「では、私は新たな使命があるので······さらばっ!!」
そう言うと男は部屋から出て、目にも止まらぬ速さで去っていった。
令嬢は、うっとりした表情で男を見送っていた。
「ああ、もっとゆっくりとお話ししたかったですわ」
何故、この令嬢はあのような奇妙な姿の男にここまで惚れ込んでいるのだろうか?
確かに実力はあり紳士的な態度ではあるが、あの格好を見て、そんな感情が湧くものだろうか?
まあ、それよりも私も早くここから脱出しなくてはな。外の警備の者達もそろそろ目覚める頃だろう。
とりあえずは、レイの屋敷に戻っておこう。
あの男の正体がレイなのかどうか、確かめないとな。