閑話⑳ 12 怪盗視点(※)
※(注)変態男が登場しています。
(ローウルside)
突然、私の前に現れたのは正義の仮面を名乗る、ほとんど裸の格好をした男だった。
何故この男がここにいる!?
というか、レイはどこへ行った?
いや······状況的に考えて、まさかこの男の正体が······?
「さあ、催眠効果の霧が消えない内に、王女のもとに急ぎましょう」
混乱する私を急かすように、男がそう言った。
確かに時間が経てば霧の効果も弱まり、眠っている者も目を覚ますだろう。
この魔道具は何度も使えるタイプではないので、警備の者やメイド達が眠っている今が、屋敷内を巡る絶好のチャンスだろう。
「どうしました? さあ、さあ」
「わ、わかったから、あまり近寄ってくるな······!?」
霧で姿が見えにくいが、近距離だと裸同然の男の格好がイヤでも目に入る。
私は男の裸など見慣れてはおらぬし、以前この男にされたことを思い出すと、顔が熱くなってくる。
気になることは山程あるが、今は屋敷内にいる王女からペンダントを取り戻すことを優先しよう。
「では、急ぎ向かいましょう」
戸惑いながらも頷くと、男は前を走り先導し出した。王女がどこにいるのか、わかっているかのように迷いなく進んでいく。
本当にこの男について行って大丈夫なのだろうか?
しばらく進むと、男は屋敷の客室と思われる部屋の扉の前で立ち止まった。
この部屋に王女はいるのか?
「どうやら、中の人物には霧の催眠作用が効いていないようですな。王女は複数の騎士に守られているのが見えます」
「部屋の中を見ずに、そんなことまでわかるのか?」
色々と規格外な男だが、索敵能力まで優秀だとは。もしや(千里眼)の能力でも使えるのだろうか?
男は音を立てずに扉を開け、部屋の中へと入った。私も気配を消しながら、それに続く。
男の言う通り、霧で見えにくいが王女とそれを守る複数の騎士を確認出来た。
騎士は全員女性で、王女を守る専属騎士団の一員のようだな。
騎士達も王女も霧の催眠作用が効いていないようだが、何故か騎士隊長と思われる人物だけ、泥酔状態で寝ていた。これは霧の効果で眠っているわけではなさそうだが、騎士隊長ともあろうものが、どういうつもりだろうか?
それと王女だけでなく、もう一人、身なりの良い貴族令嬢の姿もあるな。領主の娘だろうか?
王女達は周囲を警戒しているものの、まだ私達が入ってきたことに気付いていない。
男がゆっくりと王女の背後に回るが、王女はそれに気付かず後ろに下がり、男の身体に手を触れてしまった。
「手を離してもらえますかな? それは私の大事な所です」
男が王女に向けて声をあげた。
隠密魔法で存在を隠していたのに、自分から声をかけては意味がないぞ!?
「聞こえませんでしたかな、手を離してもらいたいのですが?」
「えっ······い、いやあああああっ!!!???」
状況がわかっていない王女に、男がもう一度声をかけた。王女の手は、よりにもよって男の股間に触れており、それに気付いた王女が悲鳴をあげた。
突然の半裸の男の登場に、王女や騎士達が一斉に警戒を強める。
霧が薄れてきたが、男の存在感があまりに強すぎるため、まだ私の姿は王女達に認識されていない。
下手に動かず、今は様子を見ておくとしよう。
自らの存在を王女達にバラして、男はどうするつもりだろうか?
「まあ、正義の仮面様!? 何故、ここにいるのですか?」
王女ではない、もう一人の貴族令嬢が男を見て、王女とは違う驚きの声をあげた。
この令嬢は、この男のことを知っているのか?
「マレット、この男を知っているの?」
「はい、ミューニィ様。先ほどお話しした、町に現れた正義のヒーローですわ」
「はあ!? こ、この男が!?」
令嬢の言葉に、王女はさらに驚きの声をあげた。
どうやらこの男、この町でも色々活躍していたらしい。
「聞いていた話と違うわよ、マレット!? 紳士的で男らしい、素敵な人物と言っていたじゃない」
「ええ、ですから男らしい姿ではありませんか、ミューニィ様」
令嬢は、まるで恋する乙女のような表情でそう言った。これは王女の反応の方が正しいと思う。
この令嬢、感性がおかしいのではないか?
まあ、鍛え上げた筋肉質な身体を見せつけ、男らしいと言えば男らしい姿だが。
「ま、まあそれはいいわ。それよりも正義のヒーローと呼ばれる貴方が何をしに来たのよ? 怪盗が侵入したと聞いていたけど、貴方は怪盗の仲間なの?」
王女が気を取り直して、男に問う。
周りの護衛騎士達も王女と令嬢を守るよう武器を抜き、男に向けている。
「私の目的はズバリ、貴女の持つそのペンダントです。そのペンダントは危険な効果を秘めているため、回収しに来た次第です」
「あら、やっぱりこのペンダントが狙いなの。見る目があるみたいだけど、渡す気なんてないわよ」
男が自らの目的をあっさりバラすが、王女はペンダントを手放す気はないようだ。
さっきまでは半裸の男の登場に動揺していたが、護衛騎士達に守られているのもあり、強気な態度を取っている。
「危険な効果というのは、精神操作の類の能力が秘められていることでしょう? 安心なさいよ、私が使いこなしてみせるから、余計な心配は無用なのよ。なんなら、貴方の身体で思い知らせてあげるわよ」
王女が得意気に言う。
どうやら王女はペンダントの効果について知っていたようだ。
王女という立場なら、色々と使い道がありそうであるから、効果を知ったのなら簡単には手放したくはないだろう。
だが、生半可な者では使いこなすのは無理だ。
暴走させて取り返しのつかない事態になる前に、取り戻すべきだろうな。