閑話⑳ 11 正義のヒーロー参上(※)
※(注)変態男が登場します。
(ミューニィside)
「ミューニィ様、危険ではありませんの? 相手は犯罪者なのですわよ」
「心配いらないわよ、マレット。私の専属騎士団は、そこらの警備兵とは練度が違うのだから」
マレットの言葉に私は笑って答えた。
騎士隊長のミゼルは酔い潰れてしまったから頼れないけど、たかだか怪盗の一人二人捕まえるのにミゼルを動かすまでもないわ。
「お気を付けください、ミューニィ様、マレット殿。例の怪盗は様々な手段で撹乱してくるため、何をしてくるかわかりません」
ミゼルに代わって、数人の騎士団員が私とマレットの護衛として守りの体制に入る。
残りの団員は怪盗を捕らえるべく、部屋の外へと出た。
怪盗は珍しい宝石を盗み出すと聞くし、もしかしたら私のペンダントも狙ってくるのかしら?
それなら私の前に現れるだろうから、好都合なのだけど。
――――――――――!!!!!
突然、部屋の中が霧に覆われた。
この霧からは魔力を感じる······これは(眠り)効果の魔法のものだわ。
どうやらこの部屋だけでなく、屋敷全体を包んでいるみたいね。
これで屋敷にいる者を全員眠らせて、その内に盗みを働くつもりかしら?
これだけ大規模な魔法を使えるなんて、怪盗は思ったよりも手練れのようね。
でも残念ながら、私はそういった類の魔法を無効化する魔道具を持っているから効果はないわよ。
王女という立場上、誘拐などから身を守るためにそういう小細工は通用しないのよ。
魔道具の効果で催眠作用を封じ、私やマレット、それと護衛騎士達は眠ることなく周囲を警戒する。
「マレット、大丈夫?」
「はい、ミューニィ様。この程度のことで動じたりしませんわよ」
言葉通り、マレットはこの状況でも冷静みたいね。
催眠効果は封じたのだけど、霧はまだ消えることなく私達の視界を封じている。
もっとも、そんなに濃い霧でもないから、誰か近付いてきたとしてもすぐにわかるし、しばらくすれば消えるでしょう。
――――――――――ムニュッ
あら? 何かしら、この感触?
一応、霧が晴れるまで壁側に退避しようと手を付いたら、柔らかいモノに触れたわ。
この部屋の壁に、こんな触り心地のモノがあったかしら?
「手を離してもらえますかな? それは私の大事な所です」
だ、誰!?
不意に男の声が聞こえてきた。
まさか、例の怪盗!?
だんだんと霧が晴れ、目の前のモノがはっきり見えてきた。
「聞こえませんでしたかな、手を離してもらいたいのですが?」
「えっ······い、いやあああああっ!!!???」
思わず悲鳴をあげてしまった。
私の前に立っていたのは、黒いマスクで顔を隠した人物だった。
犯罪者が顔を隠すのは普通のことで、それで驚いたりはしないわ。問題なのは、この人物の格好よ。
何故か衣服を身につけておらず、かろうじて大事な所を隠す下着だけを履いて、ほとんど裸のように格好をしていた。
そして、私が触れていたのはこの男の······。
いやあああっ、思い切り握っちゃったわよ!!?
すぐに護衛騎士達が間に入り、私を男から引き離した。突然の裸の男の出現に、騎士達も少し動揺しているわ。
「まあ、正義の仮面様!? 何故、ここにいるのですか?」
そんな中、マレットは平然としていた。
というより、この男のことを知っているの?
例の怪盗······じゃないわよね?
聞いていた容姿と違い過ぎるわ。
(ローウルside)
領主の屋敷に侵入したのはいいが、隠密魔法が簡単に見破られ、警備の者に追われている。
なんとかやり過ごそうと、レイが近くの部屋に入ったのだが運悪く屋敷のメイドの更衣室だったようで、着替え中のメイドの叫びで、さらに騒ぎが大きくなってしまった。
「何をしているんだ!? 騒ぎを大きくしてどうする!」
「わ、悪い······」
思わず怒鳴ったが、実は私もその部屋に侵入しようとしていた。
レイが先に入らなければ、私が同じことをしてしまっていただろう。
華麗な怪盗として、そんな失敗を見せずに済み、よかったというべきか。
それよりも、今ので警備の者達がさらに集まってきてしまっている。
逃げ道を失い、追い詰められるのも時間の問題だ。
「レイよ、しばらく息を止めよ! この者達を眠らせる」
華麗な怪盗としてこれは使いたくはなかったが、この状況では仕方無いか。
私はとっておきの魔道具を取り出し、起動させた。
――――――――――!!!!!
魔道具から薄い煙が吹き出し、周囲を覆っていく。これは強力な催眠作用のある霧を発生させる魔道具で、少しでも吸い込めば一瞬で意識を失う効果がある。
「うっ······なん、だ」
「急に······眠気が」
警備の者達が次々と倒れていく。
眠らせるだけで身体に悪影響を残す物ではないが、効果は抜群だ。
相手を眠らせてしまうから、私の華麗な活躍を見せつけることが出来ないため、よほど追い詰められない限り使わないのだがな。
当然、私自身には催眠作用が効かないように反転魔道具を使用している。
催眠効果を受ける前に、レイにも渡してやらないとな。
「レイ、これを使え。早くしないと意識を失ってしまうぞ」
そう言ってレイに魔道具を差し出したのだが、何やら様子がおかしい。
霧で姿が見えにくく、何をしているかよくわからないが、まさか霧を吸い込んでしまったか?
「おい、聞いているのか? 早く受け取······」
「ご心配なく、この霧の効果は私には効きません」
「え······?」
今のはレイの声か?
口調がレイと違うし、雰囲気も変わっているが。
「なかなかに便利なアイテムをお持ちですね。さあ、今の内に王女のもとに急ぎましょう」
「へ······うわあああああっっ!!??」
ようやく姿を確認出来たのだが、そこにいたのはレイではなかった。
以前、私の前に現れた正義のヒーローを名乗る変態男だ。
ど、どういうことだ!?
何故、この男がここにいる!?