閑話⑳ 8 怪盗活動開始
自分から言い出したこととはいえ、怪盗に協力することになってしまった。
まあ、王女のペンダントをどうするべきか悩んでいたから、ローウルと協力するのは丁度良いかもしれない。
問題は上手く王女の手からペンダントを奪えたとして、それをローウルに渡していいのか、だな。
洗脳効果を持つアイテムを悪用されないように、王女から奪おうとしているのに、ローウルが悪用してしまっては意味がない。
ローウルは悪用しないと言っているが、信用出来るかは共に行動することで見極めよう。
「そういや、お互い自己紹介をしていなかったっけ。オレはレイ。一応、冒険者をやっている」
「では改めて、私は世紀の大怪盗ローウルだ。本来なら私一人でも問題ないのだが、特別に私の助手として働かせてやろうではないか」
とりあえずは今更だが、お互いに自己紹介をした。
ローウルは高笑いでもしそうな、偉そうな口調でそう言った。ドジっ子属性の怪盗なんて初めて聞いたが、それはもういいだろう。
「それで、どうする? また領主の屋敷に忍び込むのか?」
「王女が戻っていればな。お前の話を聞く限りでは、王女は肌見離さずペンダントを身につけているのだろう?」
王女が戻っていなければ、領主の屋敷に行っても意味ないからな。
ちなみに領主の屋敷には、他にローウルの目に止まるような宝はなかったそうだ。
まあ、あったとしても盗ませたりはしないが。
あくまで目的は王女の持つ危険な魔道具だけだ。
「ただいまですです」
「ただいま戻りました、マスター様。例の王女は町を一通り回ったのちに、領主の屋敷に帰ったそうです」
オレがローウルと話している内に、町の様子を見に行ってもらっていたディリーとアトリが帰ってきた。
どうやら王女は領主の屋敷に戻ったようだ。
町を回っている時だと騎士団が常に護衛をしているだろうから、屋敷に戻ってくれたのならやりやすい。
犯罪行為には違いないんだし、こんなことはさっさと終わらせよう。
(ローウルside)
私は華麗な大怪盗ローウル。
そんな私でも、たまには失敗もする。
仲間が人族に取られてしまった呪われし魔道具を、私が華麗に取り戻したのだが、調子に乗ってうっかり落としてしまい、しかもそれがよりにもよって国の王女の手に渡ってしまった。
改めて取り戻そうと領主の屋敷に侵入したが、王女の姿はなく、警備も甘く見ていたため、退散するしかなくなってしまった。
ちょっと失敗が重なっているが、これから華麗に挽回すればいいのだ。
そんな時にレイという名の人族に会った。
この男は以前、アルフィーネ王国で私を捕らえに来た冒険者の一人だ。
とはいえ、私はこの男の実力を知らない。
以前はレイの連れていた、並外れた実力のお子様達に手こずってしまい、この男とは手を合わせていないからだ。
その後は、あの変態的な姿をしたヒーローに敗れ、アルフィーネ王国を一時的に離れたのだが。
まさか、こっちで再会することになるとは思わなかった。
どうやらレイは、王女の持つ魔道具の効果を知っているらしく、そんな危険な物を放って置くわけにはいかないと、私に協力を申し出てきた。
私一人でも取り戻すことは可能だが、協力してくれるというのであれば手を組むのも悪くはないだろう。
連れのお子様があれだけ強かったのだから、レイもそれなりに実力を期待出来るかもしれない。
「ただいまですです」
「ただいま戻りました、マスター様。例の王女は町を一通り回ったのちに、領主の屋敷に帰ったそうです」
そう話がまとまったところで、情報収集に出掛けていたメイド達が帰ってきた。
例の王女は領主の屋敷に戻っているようだ。
レイが二人のメイドに労いの言葉をかけた。
しかし、本当にレイはただの冒険者なのか?
メイドを侍らした平民など聞いたことないが。
それに、このディリーとアトリというメイド、何やら気配が妙なのだが?
人族ではない······別種族だろうか?
レイは人族のようだが、何故そんな二人をメイドとして雇っているのか。
気にはなるが、今は魔道具を取り戻すことに集中しよう。
そうして再び領主の屋敷の近くまでやってきた。
やはりというか、警備が先ほどよりも厳重になっているな。
「ではでは、行ってくるですです」
「陽動はお任せください」
そう言って、メイドの二人が屋敷の入口の警備の者に話しかけに行った。
あの二人は、この町では顔を知られているようで、警備の者達も警戒することなく、二人から差し入れの果実を受け取っていた。
「じゃあ、ディリー達がああやって注意を逸らしている内に侵入しようか」
確かに警備の者が集まり、我先にと果実に手を伸ばしている。私も先ほど少し食べたが、あの果実はなかなか美味な物だったからな。
良い感じに引き付けられているな。
「一応、隠密魔法を使って中に入るか。ローウルも隠密魔法は使えるよな?」
「舐めるな。それくらい容易いわ」
当然それくらいのことは出来る。
本来、怪盗は人目に触れつつ華麗に盗み出すものだがな。まあ、この状況では仕方無い。
レイも隠密魔法を使用したようで、目の前にいるはずなのに気配をほとんど感じなくなった。
やはり、この男も相当な実力者だな。
では、ささっと終わらせることにしよう。