閑話③ 1 ノギナの依頼
(シノブside)
「珍しいお酒が欲しいでござるか?」
「そうっす! シノブさん達は珍しい鉱石持ってるっすからお酒も何か持っていないかって親方が言ってたっす!」
ある日ノギナ殿が訪ねて来てそう聞いてきたでござる。親方とはノギナ殿の父親のドルフ殿のことでござるな。
それにしてもお酒でござるか。
師匠の(素材召喚)はさすがにお酒は出せないと思うでござるが············。
ん? そういえば酒は百薬の長という言葉があったでござるな。
試しに拙者のスキル(薬物錬成)の作成可能な薬の欄を見てみると酒類の表示があったでござる。
これはおそらく拙者達の世界のお酒でござるな。
「あるにはあるでござるな」
お酒など飲んだことないでござるから名前を見ても何が何やらわからぬでござるが。
「本当っすか!? だったら譲って欲しいっす! お願いっすシノブさん!」
「ノギナ殿も飲むのでござるか?」
「もちろんっす! ウチはもう17っすよ。お酒を飲める年っす!」
元の世界では17では飲めないはずでござるが。
こちらの世界では酒を飲める年齢が違うようでござるな。
「わかったでござる。用意に時間がかかるので後で取りに来て欲しいでござる」
「わかったっす! 親方にはそう伝えておくっすから楽しみにしてるっす!」
ノギナ殿がうれしそうに出ていったでござる。
ドワーフ族というのは酒好きな種族でござったか?
まあ期待されている以上それなりの物を用意するでござるか。
さっそくスキルで作ろうと思っていたら、どうやら素材が足りないようでござる。
困ったでござるな。
ちょうど師匠はアイラ殿と出かけていて、いつ帰るかわからないでござる。
自力で集めるしかないでござるな。
幸いにも足りない素材は簡単に手に入りそうなものばかりでござるし問題ないでござる。
「シノブ······ボクも手伝う」
スミレ殿がそう申し出てくれたので二人で冒険者ギルドに向かったでござる。
ギルドの依頼をこなしながら素材を集めるでござる。
ちなみにスミレ殿もこの前冒険者として登録を済ませているでござる。
「シノブさんにスミレさん、今日はお二人だけですか?」
「師匠とアイラ殿はお出かけしているでござるよ
ミャオ殿」
受付に対応してくれたのはお馴染みのミャオ殿でござる。
いつもミャオ殿の猫耳に触りたいと思ってしまうのは内緒でござる。
「それよりもこの素材が欲しいのでござるが」
「この素材なら近くの森で採れる物ばかりですね。それならついでにこの依頼を受けてもらえませんか?」
ミャオ殿が出した依頼は魔物退治の依頼でござった。
〝ゴブリンリーダーの討伐〟
どうやら町の近くの森にゴブリンが大量に集まっているようでござる。
ゴブリンリーダーはゴブリンの上位種でござるな。
欲しい素材は森で手に入る物ばかりでござるし、ついでに受けてもよさそうでござるな。
「すでに何組かの冒険者が受けていますが予想以上にゴブリンの数が多いらしく手を焼いているそうなんです。なのでお願いできないでしょうか?」
「わかったでござる、受けるでござるよ」
「······ボクも問題ない······」
スミレ殿も賛成のようなので依頼を受けることにしたでござる。
さっそく近くの森に向かったでござる。
話に聞いていた通り森にはたくさんのゴブリンがいるでござる。
「ゲギャオオッ!!」
「邪魔······」
襲ってきたゴブリンを拙者とスミレ殿で次々と倒していったでござる。
拙者のレベルは今は350になっているでござるし、スミレ殿もレベル110でござる。
ゴブリン程度には遅れを取らないでござるよ。
ゴブリンを倒しながら必要な素材を集めていくでござる。奥の方まで進むとたくさんのゴブリンに囲まれている冒険者達がいたでござる。
男性二人、女性二人の四人パーティーの冒険者のようでござるな。
「くそっ! ゴブリンの数が多すぎるっ」
「アラト! このままじゃセニカが······」
どうやらまずい状況のようでござる。
セニカと呼ばれた女性のお腹にゴブリンの短剣が突き刺さっているでござる。
まだ息はあるようでござるがこのままでは命が危ないでござる。
男性二人も死ぬような傷ではないでござるが深手を負っているでござる。
「ゲギャギャッ!!」
一番大きく強そうなゴブリンが他のゴブリンに指示を出して冒険者達を追い詰めているでござる。
大きいゴブリンのレベルは35。
こいつがゴブリンリーダーのようでござる。
他のゴブリンはレベル10~20でござるが数が多いでござる。
「スミレ殿、助けるでござるよ!」
「······了解······」
拙者はオリハルコンの小太刀、スミレ殿は
大地の精霊剣を構えてゴブリン達に斬りかかったでござる。
「助太刀するでござる!」
「キ、キミ達は!?」「え、子供!?」「この子って確か······」
冒険者達は突然現れた拙者達に驚いているようでござる。
「ボクに任せて······一人で充分」
スミレ殿がそう言うと目にも止まらぬ(拙者には見えているでござるが)速さで次々とゴブリン達を倒していったでござる。
「ゲギャアアッ!!?」
ゴブリンリーダーがスミレ殿に斬られて倒れたでござる。
100体近くいたゴブリンもすべてスミレ殿だけで倒したでござる。
ゴブリンの脅威はなくなったので次は傷ついた冒険者達の治療でござるな。
「これでその女性を治すでござるよ」
「い、いいのか? これって上級ポーションじゃ······」
「そんなことを言っている場合じゃないでござる、早くしないと死んじゃうでござるよ!」
拙者が少し強く言うと冒険者は薬を受け取り、女性に飲ませたでござる。
女性の傷はあっという間に治ったでござる。
「そちらの方もこれを使うでござる」
深手を負っている男性二人には中級ポーションを渡したでござる。
もう一人の女性は特に傷は負っていなさそうなので問題ないでござるな。
これで四人ともすっかり回復したでござる。
「すまない助かった。俺はアラト、冒険者ランクはDだ」
男性の一人が拙者に頭を下げたでござる。
どうやらこのアラトという男性がこの冒険者達のリーダーのようでござるな。
もう一人の男性は名はケルトという剣士風の方でござる。
重傷を負っていた女性はセニカ。
もう一人の魔術師風の女性はファミイというらしいでござる。
「······手応えがない············」
すべてのゴブリンを倒したスミレ殿が戻ってきたでござる。
「これが噂の英雄の力か······本当にすごいな」
「こんなに小さくて可愛いのに強いなんて反則ね」
ケルト殿とファミイ殿が感嘆するように言っているでござる。
「あなた達は命の恩人よ。ありがとう······私のために貴重な上級ポーションを使ってくれて」
すっかり元気になったようでござるなセニカ殿。
年はアイラ殿と同じか少し上くらいでござるか?
優しそうなお姉さんでござる。
「悪いが上級ポーションと中級ポーション2本を支払う程の金は持ち合わせていない······必ず払うから少し待ってくれないか?」
アラト殿が真剣な口調でそう言ったでござる。
そういえば上級ポーションは貴重で金貨何十枚もの価値があるのでござったな。
拙者と師匠のスキルを合わせればいくらでも作れるので忘れていたでござる。
無償の施しは出来る限りしないようにとアイラ殿に言われているでござるが、さすがにそんな大金を受け取るつもりはないでござる。
うーむ、どうしようでござるか?
あ、そうでござる。
「緊急だったのでお金はいらないでござる。それよりもこの素材を持っていたら譲って欲しいのでござるが」
「あ、ああ······その素材なら持っているから全部渡してもいいが······これ全部売っても薬の代金には全然足りないぞ?」
おお、必要な素材を全部持っているようでござる。
こちらとしてはそれで充分でござる。
「それで構わないでござるよ」
アラト殿から素材を受け取ったでござる。
これで素材は全部揃ったでござるし、討伐依頼のゴブリンリーダーも倒したでござる。
これで依頼は終了でござるな。
そう思った時······。
――――――オオオオオッ!!!!!
突然すごい唸り声が響いたでござる。
森の木々を倒しながら魔物が現れたでござる。
先程のゴブリンリーダーよりもさらに一回り大きなゴブリンでござる。
[ゴブリンキング] レベル68
〈体力〉3500/3500
〈力〉880〈敏捷〉380〈魔力〉320
〈スキル〉
(身体強化〈小〉)(雄叫び〈強〉)
(王の威厳)
どうやらゴブリンの王様のようでござるな。
ゴブリンが異常に多いのはこいつが原因でござるか。
オークキングよりはステータスは低めでござるがグレートオークよりは強いでござるな。
さらにゴブリンキングの後ろからは100体以上のゴブリンが現れたでござる。
レベルが平均30くらいで普通のゴブリンよりも強いでござる。
「ゴ、ゴブリンキング!?」
「ウソだろ!? なんでこんな奴がいるんだ!」
アラト殿達が驚きの声をあげているでござる。
アラト殿のレベルは37。
ケルト殿が31。ファミイ殿は28。
セニカ殿は30でござる。
確かにアラト殿達ではこのゴブリンの群れを相手にするのは危険でござるな。
「············シノブはその人達を守ってあげて······あのでかい奴はボクが倒す」
スミレ殿がすでに戦闘態勢に入っているでござる。
ゴブリンキングはスミレ殿に任せて拙者はアラト殿達を守ることに専念するでござるか。