閑話⑳ 7 協力
王女の持つペンダントが、元は怪盗の持ち物ってのはどういうことだ?
王女ミューニィは確か、この町のフリーマーケット的な店で見つけたと言っていたはずだが。
「それなら、なんで今は王女が持っているんだ?」
「············落としたのだ。華麗な振る舞いを見せるのに集中し過ぎて、気が付いたら懐からなくなっていたんだ」
聞くところによると、どうやら盗みを働いて逃げていた時に落としたようだ。
この子、自称凄腕の怪盗だがドジっ子属性も持っていたっけ。
落としたペンダントが巡り巡って店に流れ、王女の手に渡ったってことか。
そして、どうにかなくしたペンダントを行方を知ったローウルは、領主の屋敷に侵入して、王女から取り戻そうとしたのか。
「·····················」
「なんだ、その目は!? 華麗な怪盗といえど、たまに失敗くらいはするんだ! 本当にたまにだぞ!」
ちょっと呆れた目線を向けたら、ローウルが慌てたように弁解した。
まあ、この際そんなことはどうでもいいのだが。
この話が本当だとしたら、あのペンダントはもともとはローウルの物だということだ。
相手を(洗脳)する効果を持つペンダントをだ。
「あのペンダントには特殊な効果があるはず。お前はそれを使って、何か企んでいたのか?」
「まさか、ペンダントの効果のことまで知っているのか!?」
この反応、王女はペンダントの効果について知らないようだったが、ローウルは知っていたか。
「怪盗を自称する奴に、洗脳効果のあるペンダントを持たせるわけにはいかないよな」
「自称って言うな!? それと、私は魔道具の力に頼るつもりはない。私の華麗な行いに、人々を心より魅了するのが目的なのだからな。洗脳など無粋な真似はせぬ」
あれ、そうなの?
警備の人達とかを洗脳すれば盗みもやりやすいだろうし、それでなんとか取り戻そうとしてると思ってたんだけど。
「じゃあ、何のためにあんな物騒な効果のペンダントを持っていたんだよ?」
「あれは、我が吸血鬼族に伝わるいわくつきの呪われた魔道具でな。私ではない、別のドジな吸血鬼が人族に奪われてしまい、泣きついてきたから私が取り返してやったのだ」
自分が吸血鬼族だと、ずいぶんあっさりバラすんだな。
そういえば今は出していないけど、人目を気にせずに背中から翼を出していたっけ。
この世界の吸血鬼族がどういう立ち位置か知らないけど、そんなに珍しい種族でもないのかな?
まあ、それはいいか。
それよりもその話が本当だとしたら、もしかしてローウル以外にも怪盗を自称する、はた迷惑な奴がいるのか?
なんか、色々情報が多くて混乱してきたな。
まあ、まずは一つ一つ整理しよう。
あの洗脳効果のあるペンダントは、もともとは吸血鬼族の物で、それをどこかの人族に奪われた。
そしてローウルは自らの怪盗の能力を駆使してペンダントを取り戻したが、調子に乗っていたようで、どこかで誤って落としてしまった。
それがクラントールまで流れて、王女の手に渡ったと。
単純なのか複雑なのか、よくわからない事態だな。
「じゃあ、あれを悪用するつもりはないと?」
「当たり前だ。私は華麗な怪盗にして誇り高き吸血鬼だ。そんな姑息な真似はしない。あれは我が都に持ち帰り、厳重に封印するつもりだ」
本当か? それにコソ泥は姑息じゃないのか。
それを指摘すると、ややこしくなりそうなので突っ込まないでおくか。
それよりも、あのまま王女の手に持たしていると、その内ペンダントの効果を知ってしまうかもしれない。
もし悪用されれば、どんなことになるかわからないからな。
「なら、オレもペンダントを取り返すのに協力しようか?」
「は? 正気かお前? 何故お前がそこまでしてくれるのだ?」
「このまま王女の手にあると、どんな悪影響があるかわからないからだ」
オレは簡潔にローウルに事情を話した。
初めは怪訝な表情を見せていたが、事情を知るとなるほどと頷いていた。
「確かに我ら吸血鬼族ならいざ知らず、ろくに魔力を持たない人族が持ったままだと暴走の恐れがあるからな。その懸念は正しいだろう」
ちなみにローウルのレベルは65だ。
オレ達と比べると低く感じるが、このレベルはベテラン冒険者や騎士隊長クラスに匹敵、もしくは上回る。
それにローウルは見た目は年下の少女だが、吸血鬼という種族特性なのか、全体的にステータスも高く、少なくとも並の人族よりは強い。
多少、大口を叩くだけはある。
まあ本音を言えば、オレが協力を申し出たのはローウルを逃さないように監視するためでもあるのだが。
今回は自分の物を取り戻すのが目的とはいえ、泥棒には変わりないし。
まだ、この子の素性も性格も完全に把握してるわけじゃないから、共に行動することで見極めようと思う。