閑話⑳ 6 怪盗を尋問中
逃したはずの怪盗が何故かウチにいたので、とりあえず捕獲することに成功した。
ちょっとハプニングがあったため、かなり不機嫌そうにしているが、逃げようとする様子もないので、聞きたいこともあるから話をすることにしよう。
「えっと、ローウルでいいんだよな? ウチで一体何をしていたのかな?」
「··················」
ローウルがオレの質問に答えずに、仏頂面をしながら睨みつけてきた。
さっきまで着けていた狐のお面は外れているので、今はローウルの素顔は露わになっている。
正直、実年齢は知らないが、ローウルは年下の女の子にしか見えないので、睨みつけられても可愛らしいだけで怖くはない。
「マスターの質問に答えるですです!」
「尋問代わりましょうか、マスター? 死なない程度に溶かして、必要情報を吐かせます」
口を開かないローウルに、ディリーとアトリが問い詰める。
特にアトリが物騒なことを言っているが、そんな手荒な真似をするつもりはない。
ローウルはそんな二人を気にせず、オレを睨み続けている。
「そういうお前こそ、なんでこの国にいるんだよ? 冒険者かと思っていたら、別の国にこんな別荘まで持ってる貴族だったのかよ」
ようやく口を開いたと思ったら、質問で返してきた。
「いや、冒険者であってるよ。オレは貴族でもなんでもない、平民だ」
「こんな屋敷を持って、メイドまで侍らせている平民がいるか!!」
正直に答えたのに、なんか思い切り否定された。
言いたいことはわかるが、本当のことなので否定されるのは心外だ。
「まあ、貴族とか平民とかはどうでもいいだろ? それよりも、こっちの国でも泥棒なんてやってるのか」
「泥棒じゃない、私は誇り高き怪盗だ!」
やってることはただのコソ泥だと思うが。
「そのアルフィーネ王国の王都を騒がせていた怪盗が、なんでこっちの国に?」
「それは、仕方無いだろう。あっちには変態的に強いヒーローがいたからな。いずれ、アイツも負かしてやるつもりだが、今の私では実力不足と判断して、活動の場を変えたのだ」
ローウルは何かを思い出したのか、頬を赤く染めてそう言った。
そのヒーローとは、ひょっとしなくても仮面の男のことだろうか?
以前、うっかり例のマスクを着けてしまい、その姿で怪盗ローウルと対決する流れになってしまったことがあった。
それを思い出すと、オレもなんだか気まずい気持ちになってきてしまった。
「お、お前からすれば、そんなことはどうでもいいことだろう!」
気まずい空気を振り払うように、ローウルが言った。確かに気まずかったから、ちょっと助かった。
それにしても、この子をどうするべきだろうか?
町の警備兵などに突き出そうにも、まだオレも仲間だと誤解されている可能性がある。
それに前に捕らえた時も最後には逃げられてしまったから、通常の拘束では同じことになりそうだし。
「なら質問を変えるけど、この町の領主の屋敷で何を盗もうとしていたんだ?」
ちょっと疑問に思ったので聞いてみた。
普通に考えたら、領主の屋敷の宝石類や金目の物を狙っての犯行だと思うが、警備の人達が王女の私物を狙うとはとか言ってるのが聞こえたんだよな。
王女といえばミューニィのことだろう。
ミューニィはこの町に滞在している内は、領主の屋敷に泊まっているというから、その点は不思議なことじゃない。
そして、王女の持ち物で怪盗が目をつけそうなのに心当たりがある。
「王女の持つペンダントが狙いだったんじゃないか?」
「············!? お、お前······なんでそのことを!」
どうやら図星だったようだ。
見た目にも珍しい宝石がついていたし、王女の持ち物を盗るなんて、怪盗的にも良いシチュエーションなのだろう。
だが盗むのに失敗して、逃げようとしたところでオレと鉢合わせたってところか。
「王女の私物を盗るために領主の屋敷に侵入するとか、大胆というか、考えなしというか」
「ちょっと、しくじっただけだ! こんな辺境の田舎町の警備と思い、つい油断してしまってだな······」
呆れて思わず口走ったら、ローウルが言い訳っぽい言葉を並べた。
まあ、領主の屋敷で王女が滞在しているとあっては、普段よりも警備に力を入れているだろうしな。
「もしかして、ウチに居たのも王女の私物を狙ってか?」
「············そうだ。領主の屋敷に侵入したはいいが、肝心の王女が町に出ているため留守だったのだ。入手した情報によると、何故か王女はこの屋敷に入り浸っているらしくてな。念の為、確認していたのだ」
観念したのか、ローウルは素直に口を開いた。
留守だったってことは、王女は領主の屋敷にまっすぐ帰ったわけではなく、町を見て回っているのかな?
ここの果実を気に入り、視察そっちのけで入り浸っていたみたいだし、ようやく本格的に視察を始めたとか。まあ、それはいいや。
「言っておくが、今回は怪盗としての行いではない。あの王女の持つペンダントは、もともとは私の物だ。それを取り返そうとしただけだからな······!」
おや? あの他人を洗脳するペンダントは、もともとはローウルの物だと?
口から出任せか、それとも本当に?
どちらにせよ、ちょっと気になるな。