閑話⑳ 4 怪盗再び
王女ミューニィは騎士達と共に帰っていき、洗脳されていた住人もディリーとアトリによって正気に戻された。
洗脳されていた住人達は夢を見ていた感覚だったようで、自分が何をしていたかは理解しているが、何故王女の命令を聞いていたかはわからないらしい。
「いきなり騎士団を引き連れて来たかと思ったら、町でウワサの果実を渡せと言ってきてな」
「帝都の王女様とはいえ、横暴過ぎると文句を言おうとしたんだが······」
住人達が口々に言う。
今でこそ多少マシになっているが、この町の住人は貴族などに、あまり良い印象を持っていないので、横暴な振る舞いをされれば反発する。
だが王女に目を向けられたら、言う事に逆らえなくなったということか。
「さあ、皆で片付けるですです」
「わたし達も手伝うので、全員でキレイに掃除しましょう」
「「「はい、姐さん方!!」」」
ディリーとアトリの指示で、住人達がミューニィや騎士達の食べ残しと思われる、果実の残骸や食器を片付けていく。
二人に指示された住人達は、ミューニィに洗脳されていた時のようなニコニコ顔で従っている。
今回は状態表示に(洗脳)とは出ていないので、本心からの行動だろう。
やはりディリーとアトリは、住人達と良好な関係を築けているようだな。
屋敷や果樹園のことはディリー達に任せて、オレは冒険者ギルドなどに行き、町の様子を見ながら情報を集めることにした。
王女達が町に来て、どんな影響があったのか気になるからね。
「数日前くらいにやって来て、騎士を引き連れながら町を回っていたな。王女様よりも女騎士の上から目線の言動が目に触ったが、王女様がその都度取り成していたから、特に騒動らしきことは起きていないな」
というような話を聞けた。
女騎士というのはミゼルって呼ばれていた隊長さんや、他の隊員のことだな。
確かに、あの隊長さんは自身が王女を護衛する選ばれた人物だと誇り、一般人を見下していそうな雰囲気があった。
その振る舞いに、反発しそうになった住人や冒険者達もいたそうだが、王女に見つめられると怒りを収めたそうだ。
多分、(洗脳)の魔道具の効果だろうな。
住人達のステータスを一通り見ておいたが、状態に(洗脳)と表示されている人はいなかった。
状態異常表示が出ないだけで、エルフの里の時のような潜在的に(洗脳)効果が残っているとか、そういうこともなさそうだった。
おそらくは(洗脳)は一時的なもので、時間経過で解かれるタイプなのだろう。
やはりエルフの里の件に比べたら、大した影響はないな。
王女自身、あのペンダントが(洗脳)の効果を付与された魔道具だとは気付いていなかったが、もし気付いたら、どうするだろうか?
危険な魔道具だと思い処分するのか、それとも悪用してしまうのか。
現状、どっちに転ぶかわからないな。
こっちの国にはあまり縁が無いが、だからといってオレには関係ないことだと、放って置くのもアレだしな。
情報収集をしながら、どうしようか考えたが、結局良い案は浮かばなかった。
一応、王女達が泊まっているという、クラントールの領主の屋敷の前まで来てみたのだが、じゃあどうするかって話だしな。
忍び込んで、ペンダントだけでも盗み出そうかと、そんなバカなことを考えてしまったが、さすがにそれはただの犯罪だしな。
まあ、ミューニィはオレ達の作った果実などを気に入っていたし、おそらくはまた訪ねて来るだろうから、その時にそれとなく探ってみるかな。
そう思って、帰ろうとしたら······。
――――――――――!!!!!
領主の屋敷の2階付近の窓ガラスが割れて、誰かが飛び出してきた。
黒装束で全身を覆い、顔は狐と思われるお面で隠した、小柄な人物だ。
黒装束の人物は、丁度オレの目の前の位置に着地した。もう少し位置がズレていたら、ぶつかっていたかもしれない。
というか、それよりもこの人物、見覚えがあるぞ。
「お前はローウルとかいう、あの時の怪盗か?」
「······ん? げっ、お前は以前、アルフィーネ王国の私の屋敷に侵入してきた男······!?」
顔は隠しているが、姿が前に見た時と同じだから一発でわかったぞ。
向こうもオレを覚えていたようだ。
この人物は怪盗ローウルと名乗り、アルフィーネ王国の王都で宝石類を中心に盗みを働いていた奴だ。(閑話⑰参照)
厨二病のような言動をするが、素顔は結構可愛らしい女の子だったんだよな。
向こうでは結局取り逃してしまい、その後音沙汰無いと思っていたら、こっちの国まで来ていたのか。
この様子を見るに、こっちでも盗みを働いているようだ。
「いたぞ、あそこだ!!」
「もう一人、誰かいるぞ! 仲間か!?」
怪盗ローウルを追って、領主の屋敷から警備の人達が出てきた。
ちょっと待て。
もしかして、オレまで怪盗の仲間だと思われている?