閑話⑳ 3 王女との会話
王女ミューニィは自身の持つ魔道具の力で、オレを(洗脳)しようとしてきた。
もっとも、オレには(全状態異常無効)スキルがあるので、そういった力は通用しない。
「オレや町の住人達を洗脳して、どうするつもり?」
「洗脳? 一体何のことを言っているのかしら?」
オレの言葉に悪びれる様子もなく答える。
ミューニィ自身には相手を洗脳するようなスキルはなかったので、油断していた。
まあ、オレには(全状態異常無効)スキルがあるので効果はなかったけど。
エルフの里の住人を操っていたダルクローアの時と違い、ステータス画面に状態異常としてしっかりと表示されているので、わかりやすいが。
「まあ、洗脳と言われるのも無理はないわね。皆、私の美貌にひれ伏して、従順に動いてくれるのだから」
まあ、確かに可愛いの部類に入ると思うが、無条件で従ってしまうほどの美貌ってのは、さすがに言い過ぎじゃないかな。
それにしてもミューニィの言い方、ちょっと違和感もあるな。
魔道具の力ではなく、住人達は本当に自分の美貌にひれ伏していると思っている感じだ。
とぼけているのかと思ったけど、もしかして魔道具を使って洗脳している自覚がないのでは?
王女として命令すれば、大抵の人は従ってくれるだろうし。
「そのペンダントの石、ずいぶん珍しい輝きをしているね」
少し強引に話を持っていき、遠回しに問題の魔道具について聞いてみた。
「あら、やっぱり見る目があるわね。純度の高い良質の魔石が使われているわ。たまたま手に入ったのだけど、この輝きは私に似合う最高の物なのよね」
「たまたま? 国宝か何かかと思ってたんだけど、もともと王女様が持っていた物じゃないの?」
「そうね。この町に視察に来て、運命的に手に入れた物よ」
ミューニィにウソを言っている感じはないな。
たまたま手に入れたというのは、町のフリーマーケット的な店で流れてきた物を見つけたらしい。
鑑定魔法で効果はわからないのか? と思ったが、問題の魔道具は〈アイテムランク5〉と、そこそこ高ランクのアイテムなので、ミューニィや騎士達のレベルでは効果までは確認出来なかったようだ。
王女が来た帝都とやらに戻ったら、改めて確認するつもりだったのかな?
状況をまとめると、王女ミューニィはここの果実やら食べ物を気に入り、オレ達がアルフィーネ王国に帰っていったため、主不在だった屋敷を我が物顔で使い、たまたま手に入れた洗脳の魔道具で住人達を従えていたわけか。
従えてたと言っても魔道具の効果を知らなく、洗脳している自覚がないみたいだが。
住人を洗脳して、何か企んでいるような様子もないとなると、どうするべきか困るな。
かと言って、そんな物騒な効果を持つ魔道具を放って置いたら、何か問題を起こすかもしれないし。
「それよりも、この果物の秘密、どうしても教えてくれないのかしら?」
ミューニィは純粋に、ここの食物を気に入ってくれたみたいだな。
アルフィーネ王国でも異世界産の食物は大人気になっていたし、こっちの国でも舌の肥えているであろう王族クラスをも虜にしてしまうようだ。
「貴様、ミューニィ様がお優しいからと、あまり調子に乗るな!」
ミゼルと呼ばれていた女騎士の隊長さんが、なかなか口を開かないオレに、剣を突きつけそうな勢いで怒鳴ってきた。美人なのに沸点が低そうな、短気な様子だな。
ちなみに隊長さんや、他の騎士達は(洗脳)状態にはなっていない。
つまりこれが素の状態というわけか。
「いいわよ、ミゼル。それじゃあレイさん、私はしばらくは、この町に滞在する予定だから後日、改めて来るわね」
そう言ってミューニィは憤慨しそうな隊長さんを宥め、他の騎士達を連れて帰っていった。
どうやら王女達は、普段はこの町の領主の屋敷に泊まっているらしい。
ちょっと強引なところはあったけど、思っていたより傲慢さを感じない、良い性格の王女だったかな。
隊長さんの短気なところが目立ったが、それだけミューニィに対して忠誠心が高いということだろう。
それにしても、また来ると言っていた以上、何かしら対応を考えておく必要があるな。
オレが異世界人だと話して、向こうからも情報を得るか?
それはまだ、本当に信用出来るか見極めてからかな。
「ほら、しっかりするですです」
「正気に戻りましたか? あのような無粋者にいいように操られるとは、情けないことです」
「はっ······え、俺達、一体何を······?」
ディリーとアトリが洗脳状態だった住人達を一喝して、正気に戻していた。
洗脳と言っても、やはりダルクローアのようにエルフの里の住人を操っていたのと比べたら、症状はかなり軽いようだな。
正気に戻された住人達は、特に後遺症はなく、夢から醒めたような感覚のようだ。