閑話⑳ 2 王女のお願い?
クラントールの町に作った屋敷と果樹園の様子を見に来たら、騎士達に占拠(?)されていた。
オレが騎士達にどう対応しようか考えていると、屋敷の中から、豪華なドレス姿の女性が出てきた。
どうやらこの女性が話に聞いていた王女様で、騎士達は王女様の護衛騎士団らしい。
騎士達は10人くらいいて、全員女性の女騎士団だ。隊長と思われる人は、オレより年上っぽい二十代くらいの年齢でレベルは40ある、なかなかの美人さんだ。
他の女騎士達も平均レベル25くらいか。
よほど規格外な強力な魔物が現れない限り、護衛としては充分過ぎる戦力と言えるだろう。
「あなたがこの土地の所有者なのね。私はミューニィ。この国の第四王女よ」
ドレス姿の女性がそう名乗った。
やはりこの人が王女様か。
年はオレと同じくらいで、ちょっとキツめの目付きだが、美人の部類に入る顔立ちだ。
[ミューニィ] レベル15
〈体力〉155/155
〈力〉25〈敏捷〉60〈魔力〉75
これが王女ミューニィのステータスだ。
特質したスキルもなく、数値も至って平凡かな。
リイネさん達と違って戦う王女様ってわけじゃなく、守られるタイプの王女様って感じだな。
「オレの名前はレイ。この国について、あんまり詳しくないんだけど、王女様がなんでウチに?」
「貴様、ミューニィ様になんて口の聞き方をしている!」
自己紹介ついでに質問したのだが、女騎士の隊長さんが横から口を出してきた。
つい、リイネさん達と同じように接してしまった。まあ、もともと敬語は苦手なんだけど。
そんな隊長さんに、ディリーとアトリが文句を言いそうな雰囲気だったけど、その前に王女様が手で制した。
「良いわよ、ミゼル。年も近そうだし、私も砕けた口調の方が喋りやすいわ」
どうやら王女様より許しが出たようだ。
ミゼルと呼ばれた女騎士の隊長さんは、ミューニィの言葉を聞いて渋々押し黙った。
「この土地を借りたのは別の国の貴族って聞いていたけど、私と同じくらいの人だとは思わなかったわ。どこの国の出身かしら?」
「えーと、アルフィーネ王国ってところだけど」
出身地を聞かれたので、とりあえずリイネさん達の住む国を答えておいた。
貴族ではないのだが、ややこしくなりそうだし、そこはもういいだろう。
「まあ、アルフィーネ王国なんて、あまり良い噂を聞かないわよ? いっそ、ウチに乗り換えた方がいいんじゃないかしら」
良い噂を聞かないって、そんなことないと思うけど。寧ろ、悪いがこっちの国の方が良い話を聞かないぞ。
リイネさん達の国とは仲が良くないみたいだし、悪いイメージがついちゃってるのかな?
「王女様、収穫物をお持ちしました」
「どうぞ、お納めください」
果樹園の管理をしている住人達が、収穫した果物を次々と持ってきた。
「あら、ご苦労さま。ミゼル、そっちへ置いといてくれる?」
「はっ」
隊長のミゼルや他の女騎士達が、住人から果物を受け取り、手慣れたように運んでいく。
ここを占拠してるのかと思ったけど、ちゃんと住人達と協力しているみたいだな。
住人達はニコニコ顔で、イヤイヤ従っている感じではない。
「ここの果実や食物はあなたが植えた物だと聞いたわ。帝都でも食べたことのない、美味しい物ばかりだわ。あなたはアルフィーネ王国出身と言っていたけど、あの国でも見たことないわよ。どうやって作ったのかしら?」
なるほどね。
ミューニィの話を聞くと、視察で町を回っている内にこの場所を知り、果実の味に感動してしまったとのこと。
そのため視察をそっちのけで、ここに入浸っているようだ。
ここに植えているのはオレのいた元の世界のもので、異世界にはないものばかりだからな。
気に入ってくれたのは嬉しいけど、どうやって作ったのかと聞かれると、どう答えようか困るな。
なので、曖昧に濁しておいた。
「あら、見かけによらず口が堅いのね。私がこれだけ頼んでも話してくれないのかしら?」
オレの顔を覗き込むように見ながら、そう言ってくる様子は少し可愛らしく見えた。
〈(洗脳)の効果を抵抗しました〉
不意にオレのメニュー画面にそんな表示が出た。
洗脳? まさか······。
もしやと思い、住人達のステータスを確認すると全員に(状態:洗脳)と表示が出ていた。
ニコニコ顔で王女に従っているのは、洗脳されていたからだったのか。
だけど、ミューニィは(洗脳)のスキルは持っていないはず。
不思議に思い、ミューニィに目を向けると、首の下あたりに着けているブローチから不穏な気配を感じた。
(支配の魔石〈アイテムランク5〉)
身に着けた状態で対象を見つめると、心と身体を支配出来る。
そこそこアイテムランクの高い、物騒な効果のあるアイテムだ。
何やら、きな臭くなってきたな。