閑話⑳ 1 異国の王女様
章タイトルとは関係ない話を挟みます。
今日はスミレとユヅキを連れて、幻獣人族の里に来ていた。こうして、お互いの現状を確認するために、定期的に訪れている。
まあ、それは建て前で、たまにスミレに顔を出させないと長のゲンライさんが寂しがるからな。
あれから幻獣人族の里は、平穏そのものだそうだ。神樹は特に異変はなく、魔人の新たな襲来する様子もないと。
平和に過ごせているのなら、それが何よりだ。
「ただ、ちょっと気になる情報もあったのよね。レイ君は興味あるかわからないけど」
フウゲツさんが何やら気になる言い方をする。
幻獣人族の里は、結界を張って外敵の侵入を遮断しているが、まったく外の世界と交流がないわけではない。
もちろん幻獣人族という身分は隠してだが、物資の調達など、必要に応じて外に出ることもあり、その時に持ち帰ってきた情報のようだ。
「なんでも、クラントールの町に国の王女が視察に来ているそうよ」
クラントールというのは幻獣人族の里を出て、すぐ近くにある町のことだ。
初めて訪れた時は、治安や雰囲気は決して良い町ではなかったが、アイラ姉達が色々やったため、今は大分落ち着いた町となっている。
「王女が、わざわざ視察?」
確か、この国の首都はクラントールからそこそこ離れているから、転移魔法を使えるオレ達と違って気軽に来るような所じゃない。
この国······そういえば名前を知らないな。
アルフィーネ王国やフレンリーズ王国とは仲が悪いと聞いた覚えがあるけど。
「魔物の襲撃とか、色々あったからじゃないかしら? それにレイ君達が色々やって、町の雰囲気も変わったみたいだし、それも関係しているんじゃない?」
まあ、確かに色々あったからな。
それなら王女様直々に様子を見に来ることも珍しくはないかな。
それにしても国の王女か。
どんな人だろう?
フウゲツさんの話だと、オレと同じくらいの年齢の人物らしい。
王女といえば、アルフィーネ王国のリイネさんや、フレンリーズ王国のエネフィーさんなどと交流があるが、二人と同じタイプかな?
リイネさんとエネフィーさんは良い人だったけど、オレの中の王女のイメージって、なんとなく高飛車で平民を見下しているような人物なんだよな。
まあ、漫画やアニメで得たイメージだけど。
ちょっと気になるし、せっかくだからクラントールの町に顔を出してみるかな。
というわけで、クラントールの町までやってきた。
スミレも付いて来たがっていたが、ゲンライさんや他の幻獣人族の人達に引き止められていたので、ユヅキと共に置いてきた。
スミレを連れて来ていたら、ゲンライさん達まで来そうだったからな。
さすがに大人数で、しかもキャラの濃い人達と一緒じゃ、目立ちすぎる。
けど、やはり一人は寂しいので、スミレ達の代わりに転移魔法でアルフィーネ王国の王都に行き、別の付き添いを呼んできた。
「それではマスター、ご一緒するですです」
「お供いたします、マスター様」
連れて来たのはスライムメイド娘のディリーとアトリだ。この二人はオレよりもクラントールの町の住人と交流を深めていたから、一緒に回るにはうってつけだろう。
神樹の迷宮を攻略して王都に帰ることになった時に、呼び寄せたメイドさん達も一緒に撤収したが、この町に建てた屋敷や果樹園はそのままにしている。
オレ達が帰った後も、冒険者ギルドと商業ギルドに話を通していたからな。
まずは屋敷と果樹園を確認してみるかな。
そうして屋敷の前まで着いたのだが、何やら様子がおかしい。
この土地の管理は、商業ギルドや一般の人達に任せていたはずだが、屋敷の周りには鎧を着込んだ騎士達が囲んでいた。
騎士は10人くらい居て、全員女性······つまりは女騎士で、この町の領主お抱えの警備の人達とは、明らかに違う装備をしている。
もしかして話に聞いていた、王女の護衛の騎士団かな?
でも、なんでそんな人達がここに?
「何者だ? この土地は現在、我々が管理している。関係ない者は立ち去れ」
様子を伺っていたら、女騎士の一人に声をかけられた。オレよりも少し年上くらいの年齢かな?
いや、それよりも騎士団の人達がここを管理しているのか?
「えーと、一応オレはこの土地の持ち主なんだけど······」
一応、この土地の所有権はまだオレ達の物になっているはずだけど。
つい、自信なさげに言ってしまったため、騎士の人達が怪訝な表情をする。
「ここはマスターの作った土地ですです。関係なくないですです」
「この場所はマスター様の御慈悲により、解放しています。勝手な独占は寛容していません」
どうしようかと悩んでいたら、ディリーとアトリが前に出て騎士達にそう言った。
「メイド連れ······では本当に、この土地の所有者だという他国の貴族か?」
メイド姿の二人を見て、女騎士さんが改めてオレに問いかけてきた。オレは貴族ではないんだけど、この町ではそういうふうに話が広がっていたな。
さて、どう答えたものか······。
「ちょっと、何か騒がしいわね。一体どうしたのよ?」
そう考えていると、屋敷の扉が開き、中から豪華なドレス姿の女性が出てきた。
年はオレと同じくらいと思われる、少しキツめの目付きをした人だ。
もしかして、この人が話に聞いていた王女様かな?
興味本位でこの町に来ただけなんだが、厄介事の気配がしてきたな。