520 お迎え
意識の戻らないテリアのために、外の森に薬草を採りに行っていた、ユウ達が帰ってきた。
シャルルアとジャネンが事の経緯を説明すると、ユウ達はすぐにテリアのいる部屋へと向かった。
どうやら、すでにテリアの意識は戻っていたようで、部屋の中からは喜びの声などで、騒がしくなっていた。
オレが出来ることは終わったし、せっかくの喜びの場面に水を差しちゃ悪いと思い、部屋には入らなかった。
テリアの意識が戻ったのなら、もう心配いらないだろう。
妖精族や龍人族達との話し合いも中断してしまったが、ある程度は今後の方針も決まっていたし、後は聖女セーラ達に任せても大丈夫だろう。
「そういえば、すごろくの勝敗は結局どうなるでござるか?」
「引き分けってことになるかな? 代わりの魔道具を用意しようにも、そこの怖〜い女王様が許してくれなさそうだしね」
フィーネとのゲームでの勝負は、シノブが魔道具を壊したことで、有耶無耶になったようだ。
そんなふうに軽く言うフィーネを、後ろから妖精女王が睨んでいる。
「どうしてもアタイの素性を知りたいのなら、今度改めて訪ねて来た時に教えてあげるよ。隠すようなことじゃないけど、話すと長くなるからね」
何やら込み入った話があるようで、フィーネは妖精女王と龍王にズルズルと引きずられながら、連れて行かれてしまった。
まあ、気になるけど今すぐ知りたいってわけでもないし、フィーネの素性については、次の機会でもいいか。
シノブもそれで納得しているし。
「テリアをたすけてくれて、ありがとう。ユウもよろこんでる」
「············助けたのはシノブとご主人様。ボクは何もしてない」
「にししっ、まあよかったんじゃない? レイおにーさんとシノブなら、これくらいなんてことなかったんだろうし」
向こうではスミレとメリッサが、マティアと和気あいあいと会話していた。
マティアは無表情ではあるが、心なしか嬉しそうにしているように見える。
やはり、仲間のテリアが目覚めたことを喜んでいるんだな。
「レイさん、改めてありがとうございます。ユウさんもエレナさんも、本当に嬉しそうにしていました」
目覚めたテリアの容体を確認している聖女セーラに付き添っていたリンが部屋から出てきて、改めてお礼を言ってきた。
ちなみにセーラは、まだ部屋の中に残っている。
「テリアはどうだった? まだ身体に不具合とかありそうだったりはしない?」
「目覚めたばかりなので、まだ本調子ではないようでしたが、魔虫に寄生されていた後遺症などはなさそうです」
それはよかった。
これで、もうオレがここに残る理由はないな。
妖精の国を少し見て回りたい気はするが、今はそんな雰囲気じゃないし、後日でもいいかな。
慣れない会議に付き合って、疲れたしな。
「えっと、レイさん······もう帰ってしまうんですか?」
「まあ、もう用は済んだからね。残りの妖精族と龍人族との話し合いは、セーラやリン達に任せるよ」
リンが名残惜しそうに言う。
オレとしても、リンともう少しくらい話していたい気もするけどね。
ゆっくり話すのは、お互いの状況が落ち着いたらでいいだろう。
――――――――――!!!!!
そんな感じにそろそろ帰ろうかと思った時、何やら城の警備の妖精達が騒がしくなっていた。
また何か起きたのか?
「何事ですか!?」
リンも表情を引き締め、警戒する。
雑談していたシノブ達も、何が起きてもいいように構えた。
探知魔法で確認すると、どうやら外から何者かが侵入してきたようだ。
というか、反応が物凄いスピードでこっちの方に向かって来ている。
その何者かは、すぐに目の前までやってきた。
「――――――ようやく見つけたの」
そう言ってオレ達の前に現れたのは、黄色い髪と翼を生やした少女だった。
すごく見覚えのある少女なのだが······。
「あれ、フラウムじゃん? なんでプルルスだけじゃなく、フラウムまでここにいるの?」
「――――――そのプルルスを迎えに来たの。でも、メリッサまでここにいるなんて、聞いていないの」
メリッサが声をかけ、少女もそれに応えた。
やはりこの少女、神将トゥーレミシアの使役している殺戮人形の一体だ。
サフィルス達ほど関わったことはないが、前にトゥーレミシアが引き連れてきた時に見たことがある。
「――――――フラウム、何の用かな、かな? ボク、創造主にちゃんと許可もらってここにいるよ、よ」
気配に気付いたようで、プルルスが部屋から出てきた。ちなみに周りの妖精族達は、怯えながら様子を伺っている。
このフラウムって子は殺戮人形と呼ばれるだけあって、レベル920もある実力者だからな。
レベル20〜30の妖精族では太刀打ち出来ないだろう。
「――――――その創造主からの招集なの。天使族の遺跡の調査のため、全員集合なの」
フラウムが拙い口調で、淡々と言った。
そういえば、前にトゥーレミシアが近い内に全員招集させるって言っていたっけ。
どうやら妖精族の国に用があるわけじゃなく、本当に迎えに来ただけみたいだ。
ということは、サフィルス達のいる王都の方にも迎えが行っているのかな?
「――――――ええ〜、ボクまだユウ君達と一緒に居たいかな、かな」
「――――――ダメなの。創造主の命令は絶対なの」
「――――――むぅ〜、わかったよ。だったらユウ君達にお別れ言ってくるから、ちょっと待っててよ、よ」
フラウムの有無を言わせぬ口調に、プルルスが折れた。やはり真の主である創造主の言葉には逆らえないようだ。
「ねぇねぇ、フラウム。アチシはアチシは?」
「――――――メリッサは連れて行かないって聞いているの。おとなしくお留守番なの」
「そんな〜、アチシだけ仲間外れなんてズルいよ!」
フラウムのにべもない言葉に、メリッサが頬を膨らませる。
天使族は詳しいことは何もわかっていない、未知の種族らしいし、仕方無いんじゃないかな。