516 規格外の勇者
(フィーネside)
アタイはフィーネ。
妖精族ではないが、とある理由で妖精女王の城で世話になっている身だ。
そんなアタイの部屋に、いきなり何者かが入ってきたから何事かと思えば、来客は妖精族と人族のお子様達だった。
妖精女王によって厳重に封印されている、この部屋に入ってきたってことは、ただのお子様じゃないのだろうけどね。
来客は六人。
「風」の妖精のエアリィ、シルファン。
「水」の妖精のミスティ。
そしてお子様達はシノブ、スミレ、メリッサと名乗る三人だ。
妖精達の方は女王のような大妖精じゃない、ごく一般の妖精族みたいだ。
けど、お子様達の方は、およそお子様とは思えない程の力を感じ取れる。
特にシノブは他の二人と比べて、桁違いだ。
どうやらシノブは今代の勇者だったようだ。
だが、覚醒している様子がないにも関わらず、先代勇者に匹敵······いや、それ以上の力を感じる。
スミレとメリッサも、勇者の仲間と考えても異常な力を持っているようだ。
まさか勇者がアタイを退治しに来たのかと警戒したが、そんな雰囲気でもない。
妖精女王の城を探検していて、たまたまここを訪れたらしい。
確かに感じ取れる力は異常だが、見た目も言動も、ただのお子様だ。
この子達を見極めるために、アタイは勝負を持ちかけた。
先代勇者が残した遊技用魔道具を、アタイ流に改造したものだ。
本来はただ楽しむためのアイテムだが、これは戦闘訓練にも使えるようにしている。
お題のほとんどが、アタイが作り出した幻影魔物との戦闘だからね。
命の危険はないけど、それなりに緊張感を持てる作りになっている。
妖精もお子様達も、楽しそうだと喜んで乗ってきた。
そうして、すごろくと称した戦闘遊戯を始めた。
出てくる魔物は、そこそこ強いのを用意していたから、妖精達は何度かお題をパスする内にリタイアとなった。
けど、お子様達は三人とも苦戦することなく次々とクリアしていった。
シノブはともかく、スミレとメリッサは人族とは違う気配を感じる。
スミレは獣人······いや、ひょっとして幻獣人族か?
ずいぶん前に幻獣人族と関わったことがあったが、波長が奴らと同じだ。
まあ、幻獣人族は先代勇者の庇護下にいたはずだから、今代勇者のシノブの仲間にいても不思議じゃないか。
だが······メリッサは何族だ?
およそアタイの知っている、どの種族の気配とも当てはまらない。
けど、雰囲気にどこか懐かしさも感じる。
まさか、この子······?
まあ、それよりもゲームは大詰めだ。
とうとう三人がゴール近くまでやってきた。
でも、最後のお題は簡単にはクリア出来ないよ?
最後は自己像幻視との戦いだ。
この魔物は相手とまったく同じ強さ、姿となる最上位の魔物だ。
ま、通常の魔物はある程度の強さの相手には化けれないけど、用意したのはアタイが最大限に魔改造した奴だ。
たとえ勇者であっても、そっくりそのまま強さをコピー出来るはずだ。
さすがに、ここに来るまでに消耗していたのもあって、スミレとメリッサが脱落した。
魔物は万全の状態の相手をコピーする。体力や魔力を消耗していたら、それだけで不利になるからね。
メリッサは全然消耗していなかったのか、なかなか粘ったけど、それでも魔物には勝つことが出来なかった。
ま、引き分けただけ大したものだけど。
さて、残るはシノブだけだ。
ここまでの魔物との戦闘では、まるで本気を出してなかったから、シノブの力はイマイチ測りがたい。
魔物とどう戦うのか、見ものだな。
「最後のお題、挑戦するでござるよ!」
他の二人同様に、シノブもやる気満々だ。
先代勇者と比べて、どれくらい違うのか見せてもらうよ。
――――――――――!!!!!
そうして魔物を召喚したのだが、様子がおかしい。
「こ、これが拙者でござるか······?」
魔物を見て、シノブが困惑している。
アタイにも予想外だったから、咄嗟に言葉を出せなかった。
召喚した魔物は、かろうじて人の姿をしているだけで、シノブとはまるで似つかない様だったからだ。
幻影とはいえ、魔物を召喚するには結構な魔力を消費するから、確かに今のアタイは、すでにかなりの魔力を消耗している。
だが、まともな魔物も召喚出来なくなるほどじゃないはず。
まさか、シノブが強すぎるから魔物でもコピー出来ずにバグを起こしているのか?
魔物は徐々に形が崩れ、戦わずに消滅した。
「えっと、拙者の勝ちでござるか?」
「ちょ、ちょっと待ってね」
拍子抜けしたようなシノブの問いに、アタイも慌ててしまった。
さすがに不戦勝はちょっとね。
まだ戦っていなかったのだから、お題も始まっていなかったのだ。
············という苦しい言い訳を心の中でして、アタイは新たな魔物を召喚することにした。
まさかアタイの魔物がコピー出来ないほどとは思わなかった。
そうなると生半可な魔物では相手にならない。
それならば、先代勇者も倒すことが出来なかったあの魔物を出すとしようか。