514 自己像幻視
(シノブside)
多少のトラブルは起きたでござるが、すごろくもいよいよゴールが近付いてきたでござる。
ただ、メリッサ殿とスミレ殿は順調に進めているでござるが、妖精組が魔物だけでなく、落石やらトリモチやらの罠マスに何度も嵌ってしまい、ルーレットを回す残り回数が危なくなっているでござる。
「大丈夫なノヨ! 高い数字を出して、一気にゴールまで······」
「あ、そのマスは突風に飛ばされてスタートに戻る、だね」
「なんでなノヨーーーーッ!!?」
意気揚々とルーレットを回したエアリィ殿でござるが、マスに入った瞬間、強い風に吹かれてスタート地点まで戻されてしまったでござる。
残り回数から、ゴールにたどり着くのは最早不可能でござるな。
「〝風〟の妖精が風に飛ばされるなんて、情けないんダヨ。じゃあ、オイラは······」
「ああ、そこは罠マスだね。回避しないと、実質ゲームオーバーだよ」
「わあああ、なんダヨーーッ!!?」
シルファン殿がマスに止まると同時に、周囲から矢や剣が次々と飛んできたでござる。
罠を回避出来ずに、シルファン殿はまたもお休みをくらい、ルーレットを回せる回数が0になったでござる。(ちなみに矢や剣は幻影のようで、シルファン殿は無傷でござる)
「うう〜、私ももう終わりなんデスよ」
そして、ミスティ殿も残り回数が尽きてしまったようでござる。
妖精組はリタイアしてしまい、これで残るは拙者とスミレ殿とメリッサ殿の三人でござるな。
「さて、いよいよ大詰めだね。三人とも、残り回数は余裕あるみたいだけど、最後の方は罠も魔物も強力になってるからね。果たしてゴールまでたどり着けるかな?」
フィーネ殿が不敵な笑みをうかべているでござる。拙者達の残り回数は、まだ10回以上あるので、お休みさえ受けなければ余裕でござる。
「にししっ、強力な魔物か〜。それは楽しみだね」
「············どんな魔物が現れても、倒すだけ」
メリッサ殿とスミレ殿もやる気充分でござる。
スミレ殿は先ほどの罠を受けて、未だに下着姿で武器の使用も不可の状態でござるが、全然気にしていないでござるな。
この場は異性の目がないとはいえ、半裸の姿をまったく気にしないのもどうかと思うでござるが。
いや、スミレ殿の場合、異性の目があっても同じかもしれないでござるな。
拙者は······師匠やユーリ殿に見られていたと考えたら、さすがに抵抗あるでござるよ。
その後も、拙者達は罠やお題をクリアし続けて、ついにゴール目前までたどり着いたでござる。
スミレ殿の番なのでルーレットを回し、マスを進めていくと、途中で足を止めたでござる。
「そこは強制停止マスだ。ゴール前の最後のお題だね。正直、ここまで来れるとは思ってなかったよ」
最後のお題でござるか。
最後だからか、今までと違い、フィーネ殿が何やら詠唱を始めたでござる。
そうしてスミレ殿の前に魔法陣が現れたでござる。あれは······召喚陣でござるな。
ということは最後のお題も魔物討伐でござるか。
一体、どんな魔物が現れるのか······。
おや? あれは······。
「············ボク?」
召喚陣から現れた者を見て、スミレ殿が首を傾げているでござる。
何故なら出てきたのは、魔物ではなくスミレ殿そっくりの人物だったからでござる。
「そいつはドッペルゲンガーという魔物の一種だよ。相手と同じ姿、同じ強さになって姿を見せる奴だ」
フィーネ殿が現れた魔物を指差し、言ったでござる。自己像幻視でござるか。
影のように、少々身体の色が黒いでござるが、スミレ殿とまるで変わらない姿でござるな。
ただ、今のスミレ殿は装備品のない下着姿でござるが、魔物の方は普段のスミレ殿の格好で、武器の精霊剣まで持っているでござる。
装備品までコピーしてくるとは、なかなかに厄介でござるな。(奈落の剣は師匠が壊してしまったため、今のスミレ殿は一刀でござる)
「ドッペルゲンガーは万全の状態の相手をコピーする。ここに来るまでに消耗した今のキミに、果たして勝てるかな?」
すでに何度も魔物と戦い、先ほどの罠で装備品まで失った状態では、確かに厳しそうでござる。
ここまで、まったく消耗せずに来ることなど不可能でござるし、最後なだけに、かなり意地が悪いお題でござるな。
「············問題ない。全力でボコす」
スミレ殿がファイティングポーズを取り、自信満々に言ったでござるが、下着姿のせいでイマイチ決まってないでござる。
魔物も無言で武器を構えたでござる。魔物はまるで感情のこもっていない顔付きでござるが、スミレ殿も基本、無表情でござるから、魔物だから感情がないのか、単にスミレ殿をコピーしただけなのかわからないでござる。
ともかく、ここはスミレ殿を応援するでござるよ。