511 遊戯
(シノブside)
妖精の城の開かずの間の中は、ごく普通の一室であり、そこに一人の女性がいたでござる。
拙者と変わらない年齢に見えるでござるし、女性というより、女の子といった方がしっくり来るでござるかな。
「誰なノヨ、アンタ? 妖精族じゃなさそうだし、アタシはアンタのこと知らないノヨ」
エアリィ殿もこの女の子の正体を知らないようでござる。シルファン殿とミスティ殿も同じみたいでござるな。
「アタイかい? アタイはフィーネ。ま、確かに妖精族じゃないけど、色々あって女王の世話になっている身だね」
女の子はフィーネと名乗ったでござる。
女王とは、妖精族の女王のことでござるよな?
世話になっているといっても、それなら何故に封印された部屋に?
[フィーネ]
妨害魔法の効果で鑑定を弾かれました。
鑑定魔法でフィーネ殿を見たら、そんな表示が出たでござる。
どうやら鑑定魔法を遮断する、かなり強力な妨害魔法かアイテムを使っているようでござる。
拙者のレベルなら、無理矢理にも表示を開くことは出来そうでござるが、どうするでござるかな。
フィーネ殿からは、特に悪意というか敵意は感じないでござるが。
「アンタらはどうやって入って来たんだ? この部屋は、女王以外には開けられないようになってたはずだよ」
「普通に触ったら、勝手に開いたよ」
「いや、そんなはずはないんだがね······」
フィーネ殿の質問にメリッサ殿が答えたでござる。フィーネ殿はそんなはずないと言ってるでござるが、メリッサ殿も嘘はついていないのでござるよな。
「それよりも、フィーネ殿は妖精女王とどのような関係なのでござるか?」
「············ん? ただの人族の子供かと思ったけど、アンタひょっとして勇者か?」
質問には答えず、拙者の顔を見てそんなことを言ってきたでござる。
勇者、と言われると拙者自身にもよくわからないでござるな。
「そうなノヨ! シノブは勇者で、とんでもなく強いんだから、変なことを考えたらボッコボコになるノヨ!」
どう答えるべきか迷っていたら、エアリィ殿が拙者の横からビシッとそう言い放ったでござる。
「アッハハハッ、ずいぶん可愛らしい勇者だね。前の憎たらしい勇者とは大違いだ」
フィーネ殿はそれを聞いて、面白そうに笑い出したでござる。
前の勇者というのは、誰のことでござるかな?
「なら、アタイと退屈しのぎにゲームでもしないか? そっちが勝てば、なんでも質問に答えてあげるよ」
「ゲーム······でござるか?」
「ま、暇つぶしに丁度良いからね」
そう言うとフィーネ殿は、手を前に出して何もない空間から、何かを取り出したでござる。
収納魔法でござるな。
取り出したのは、数字の振られたマスがいくつも書かれている、少し大きめの遊戯盤でござる。
「それはひょっとして、すごろくでござるか?」
「お、やっぱり知っていたか。昔の勇者が住んでいた世界にある遊び道具だそうだ」
フィーネ殿がそう説明したでござる。
昔の勇者というのは、拙者と同じ異世界出身の人物でござるかな?
どうやら、すごろくはこの世界にはない遊びだったようでござる。
「へ〜、面白そう面白そう。シノブ〜、これどうやって遊ぶの?」
「············ボクも興味ある」
「これはスタート地点からルーレットで出た目を進んでいくゲームでござる。最初にゴールに着いた者が勝者でござるな」
メリッサ殿とスミレ殿が説明を求めたので、簡単にルールを教えたでござる。
サイコロではなく、遊戯盤に付いているルーレットで進める数が決まるようでござるな。
ちなみにルーレットは1〜10までの数字があるでござる。
「アタシもすごろくは知ってるノヨ。ま、アタシがいれば負けるわけないノヨ」
「オイラも何度か遊んだことあるんダヨ」
「私もこの遊びは好きなのデスよ」
妖精族の皆さんは、すごろくを知っているみたいでござるな。
なんだかんだ、皆乗り気でござるし、拙者も久しぶりにすごろくで遊びたいでござる。
人数が多ければ盛り上がって、きっと楽しいでござるよ。
「フフッ、皆やる気充分じゃないか。なら、さっそく始めようじゃないか」
――――――――――!!!
フィーネ殿が遊戯盤に触れると、周囲の景色が変わったでござる。
周りには巨大なマスとルーレットが見えるでござる。
いや、これは景色が変わったのではなく、拙者達が遊戯盤の中に取り込まれたのでござるか?
「おお〜、空間を歪めるタイプの魔道具だね。面白そうじゃん!」
拙者達は突然の事態に少し戸惑ったでござるが、メリッサ殿だけは楽しそうに、はしゃいでいるでござる。
つまりはコマを進めるのではなく、ゲームの中に入って直接参加出来るということでござるか。
さすがは異世界。ゲームも特別仕様でござるな。
取り込まれたといっても特に危険はなさそうでござるし、等身大でゲームを楽しめそうでござる。
これは、ワクワクしてきたでござるな。




