510 簡単に開いた開かずの間
(シノブside)
妖精達に城の中を案内してもらっていたら、開かずの間と呼ばれる部屋の扉を見つけたでござる。
封印が施されているようで、妖精達も中に何があるのか知らないらしいでござる。
封印が解けていないということは、一時は妖精の城を乗っ取っていた魔人達も手を付けなかったのでござるか。
しかし、興味を持ったメリッサ殿が扉に触れると、封印はあっさりと解かれてしまったようでござる。
「ねぇねぇ、封印が解けたし、鍵もかかってないみたいだから、入ってもいいかな?」
「ちょっ、ちょっと待つんダヨ!? 女王様の許可無しに、そんなこと出来ないんダヨ!」
扉を開けようとするメリッサ殿を、慌てて止めているでござる。
封印されていたということは、何か危険な物がある可能性が高いわけで、やはり勝手に入るのはマズいでござるよな。
封印を解いてしまったことが、そもそもマズいことでござるが。
「一体何をしたんデスか? 開かずの間の封印は強力で、私達では触ること自体が危険なはずなのデスけど」
ミスティ殿がメリッサ殿に質問するでござる。
拙者には、メリッサ殿はただ扉に触れただけにしか見えなかったでござるが。
「触っただけだよ? 魔力も込めてないし、アチシは特別なことはしてないよ、本当だよ?」
とぼけているわけでもなさそうでござるし、どうやら何故封印が解けたのかは、メリッサ殿自身にもわかってないようでござるな。
どうして封印が解けたのか考えるのは後にするとして、どう行動するべきかの方が先でござるな。
封印を元に戻すやり方などわからないでござるし、やはり妖精女王や師匠達に報告した方が良いでござるかな。
――――――――――!!!!!
そう考えていたら、突然扉が開いたでござる。
何事かと思う間もなく、何らかの力が働き、まるでブラックホールのように拙者達を引き寄せようとしているでござる。
「ちょっ、ちょっと······吸い込まれるノヨーーッ!!?」
エアリィ殿や身体の軽い妖精達は、その力に抗えずに部屋の中に吸い込まれてしまったでござる。
スミレ殿も吸い込まれるエアリィ殿を掴んで、一緒に吸い込まれ、メリッサ殿は楽しそうに、吸い込んでくる力に抗わずに入っていったでござる。
その気になれば、吸い込む力に抗えるでござるが、部屋に取り込まれてしまった皆を見捨てるわけにはいかないでござるから、拙者も開かずの間へと飛び込んだでござる。
開かずの間の中は、どんな様子なのかと警戒していたでござるが、拙者の目に映ったのは、ごく普通の光景でござった。
少し広めの個室といった感じで、ベッドや机などがあるでござる。
床や棚の上には色々な種類のぬいぐるみが無造作に置かれており、他にも全体的にピンク色の小物が多いでござるな。
女性······というより、幼い女の子の部屋みたいでござるかな。
部屋に窓などはなく、出入り口は今拙者達が入ってきた扉だけでござるが、特に妙な所はないでござるな。
いや、封印されていた扉の中が、ごく普通の部屋というのは、それだけで妙でござるか。
「思ったより普通だね? トゥーレの屋敷にも、似たような部屋がいくつもあるよ」
メリッサ殿が部屋を見回し、そんな感想を漏らしているでござる。
「············開かない」
スミレ殿は入口の扉をガチャガチャさせているでござる。
無理矢理に取り込まれはしたものの、とりあえずは全員無事でござるが、部屋の唯一の出入り口である扉は閉まってしまい、閉じ込められてしまったようでござる。
「エアリィ殿、この部屋はなんでござるか?」
「知らないノヨ、開かずの間なんてアタシも初めて入ったノヨ」
「オイラにもさっぱりなんダヨ〜」
「私もわからないのデスよ」
当然ながら、エアリィ殿達にもわからないようでござる。もしかしたら、妖精女王の寝室かとも思ったでござるが、寝室は別にあるようでござるし、わざわざ入口を封印する意味はないでござるよな。
「騒がしいわね。誰よ、女王? もうそんなに時間が経ったのかしら?」
部屋にあったベッドの布団がモゾモゾ動き、声が聞こえてきたでござる。
誰かが寝ていたみたいでござるな。
「女王······じゃないわね、誰? 妖精、それに人族、獣人? よくわからないのもいるし、どういう組み合わせよ?」
声の主がベッドから起き上がり、拙者達を見るなり、怪訝な表情をうかべたでござる。
出てきたのは、拙者と同じくらいの身長で、年齢も同じくらいと思われる女性でござった。
妖精族······とは気配が違う気がするでござるな。
一体何者ござるかな?