7 土地を借りよう
異世界で生活を始めて10日が過ぎた。
魔法にも慣れて、威力調整もほぼ自在に出来るようになった。
元の世界に帰る手段は全然手付かずだが、それなりにこちらの生活にも慣れてきた············わけではなかった。
「レイ、シノブ。今日は依頼などはナシだ。我々の自由にできる土地を探すぞ」
「うん、わかったよアイラ姉」
「確かにそろそろキツいでござるな······」
ずっと最初の一般宿で泊まっているが、そろそろ限界であった。
別にこの宿が悪いわけではない。
この世界の生活レベルが元の世界より低いからだ。風呂はない。
トイレも水洗トイレなどあるはずもなく、昔の汲み取り式のようなものだ。
食事も正直味気ないもの。
そんな生活が10日も続くと現代人のオレ達には厳しかった。
オレはもちろん、シノブやアイラ姉ですら限界は近かった。一応風呂の代わりに洗浄魔法というやつで身体や服は綺麗にすることは出来たがやはり風呂には入りたい。
男のオレですらそうなのだから、女性であるアイラ姉とシノブはオレ以上にそう思っているだろう。
だからこの町で自由にできる土地を探して生活を一新したい。
幸いにも土地は商業ギルドという所で紹介してもらえるらしい。
商業ギルドは冒険者ギルドと違い、土地や物の売り買いの権利などを握っているギルドだ。
さっそく都合の良い土地がないか聞きに行くとしよう。やってきた商業ギルドの建物は冒険者ギルドに負けないくらい立派な建物だった。
中に入ると商人だと思われる冒険者とは別のタイプの人たちがほとんどだった。
やはり冒険者ギルドとは雰囲気が違うな。まあ、そんなことはいいや。
それよりも土地だ。
「すまない、ここで土地を借りれるというので話を聞きたいのだが」
アイラ姉が受付の人に話しかける。
「はい、可能ですよ。期間とどのような土地を希望でしょうか?」
受付のお姉さんが笑顔で対応してくれる。
ミャオさんと違い、このお姉さんは普通の人間のようだ。この町には獣人族が二割、人族が八割くらいの割合でいる。
「期間は特に決めていないが、何もないできるだけ広い土地はないだろうか? 広ければ多少荒れた土地でも構わないが」
「無期限で広い土地ですと、第三地区の辺りが空いていますが、広さは保証しますがかなり荒れ果てていますし、治安もあまり良くない場所になりますが······」
お姉さんが地図を出し説明してくれた。
第三地区というのはアルネージュの町でもあまり裕福ではない人達が住んでいる地区らしい。
スラムと呼ばれてもおかしくない場所のようだ。場所は町の隅の方で中心街から離れている。
だが地図を見る限り広さは問題ない。
「フム、そこで問題なさそうだな。その土地を借りたいのだがいいだろうか?」
「実際に見に行かなくてもよろしいのですか?」
お姉さんの指摘はもっともだが地図を見る限りその第三地区以外に空いている広い土地はない。
「ああ、構わない」
「はい、では金額はこれくらいになりますが」
お姉さんの言う金額はそれなりに高い。
でも土地の広さを考えれば安い方だろう。
荒れていて治安も良くないということで少し割り引いてくれたらしい。
それでもこの10日間で稼いだ金額では足りないな。まあこれは予想通りだ。
土地が安いなんて思っていない。
「手持ちでは少々足りないようだ。ここでは武具の素材の買い取りもしてくれると聞いたが、足りない分はそれで埋めてもらえないだろうか?」
「はい、問題ありません。どのような素材をお持ちでしょうか?」
「レイ、出してくれ」
アイラ姉に言われて、オレは大きめの袋を2つカウンターに置いた。
「はい、只今確認を······ええっ!?」
袋の中を見てお姉さんが驚きの声をあげた。
袋の中にはそれぞれ金、銀、白金、そしてミスリルやオリハルコンが大量に入っている。(オリハルコンはさすがに少なめだが、それでも武具の一つや二つは作れる量だ)
これは当然オレが召喚したものだ。
ちなみに今のオレのステータスは······。
[レイ] レベル288
〈体力〉7550/7550
〈力〉6550〈敏捷〉4800〈魔力〉9550
〈スキル〉
(全状態異常無効)(素材召喚)
(獲得経験値10倍)(各種言語習得)
こんな感じでこの世界に来た頃より30以上上がっている。オリハルコンは手の平サイズでも召喚するのに魔力の大半を使う。
もうオレの魔力は一万近くあるのにだ。
他の素材はそこまで消費しないがそれでも数が多ければかなりの魔力が必要になる。
だが魔力は少し休めば回復する。
大体一時間くらいで全快するくらいかな。
だからオレはこの10日間魔力がある限り、暇さえあれば素材の召喚を行った。
この2つの袋はこの量でも召喚した一部である。
やはりオリハルコンはかなり貴重な物のようだ。
オリハルコンには及ばないものの、ミスリルや白金も希少な素材である。
それがこれ程の量出されれば驚くのも無理はないか。
「し、少々お待ちくださいっ」
さすがに自分一人では扱いきれないと判断したらしい。お姉さんが慌てて奥に向かった。
しばらく待つと年配の男性を連れてきた。
「······間違いなくオリハルコンだ。それにミスリルや白金までこんなに」
年配の男性が素材を鑑定していく。
「それで買い取りは可能だろうか?」
「ああ、しかしこれだと土地購入の埋め合わせどころではないな。この数倍の土地を売ってもお釣りが出てしまう」
やっぱりオリハルコンとかにはそれだけの価値があったのか。
「私はこの商業ギルドのギルドマスター、アスレーだ。これだけの素材を一体どこから?」
上役の人だとは思ってたけど、まさかのギルドマスターだった。
このオリハルコンなどはそれだけ衝撃的だったようだ。
「申し訳ないが仕入れ先は教えられない。しかし、犯罪には関わることは絶対にしていないと誓おう」
アイラ姉が言う。オレ達のスキルは極力隠した方がいい。けど仕入れ先不明じゃ買い取りは出来ないのかな?
「まあそれは仕方無いか。これだけの物だ、そうそう教えられることでもないだろうからな」
深く聞かれなくて助かった。
「だが、こちらの確認はしておこう。君たちの目的は? 何のために土地を借りようと思ったのかな?」
「私達はこの町に来て日の浅い冒険者だ。長く滞在することになりそうなので宿を取り続けるより、いっそ土地を借りて家を建てようと思ったからだ」
「なるほど家か。確かに長期的に見れば宿を取り続けるよりいっそ家を建てた方が安くすむかもしれないな。しかし家を建てるだけならばあの土地は少々広すぎると思うが? それに治安もあまり良くない。第一地区のもっと良い土地を紹介できるがそちらはどうだろうか?」
「気遣いは嬉しく思うがあの土地で構わない。色々とやりたいことがあるのでできるだけ広い土地の方がいいのだ」
「そのやりたいことと言うのは?」
「それは土地の様子を見てからその都度決めるつもりだ。この町の害になることはしないと誓う」
「ふむ······」
アイラ姉の話を聞き、ギルドマスターは何やら考え込む。やっぱり何か問題があるのかな?
「わかった、土地のことは認めよう。それと1つ提案なんだが君たち商業ギルドに登録することを勧める」
ギルドマスターが言う。
どうやらオレの心配は杞憂だったようだ。
「私達はすでに冒険者ギルドに登録しているのだが?」
「それは問題ない。両方に登録している者は珍しくはない」
「商業ギルドに登録すると何があるのだ?」
アイラ姉が質問する。
「まずこの町の商売の権利が得られる。何か売る時は私の許可が必要だが。それと商業ギルドでは大金を預けることができる。預けた金額はギルドカードに載るからいつでも確認できる。預けたお金を下ろすのもいつでもできるし、この町以外のギルドでも可能だ」
要は銀行みたいなものか。
オレ達はアイテムボックスがあるから不要かと思ったけど、いきなり大金出すよりギルドを通じて払ったりした方が面倒が少なくすむかもしれないな。
「そうだな、せっかくだからお願いするか。レイ、シノブもいいな?」
アイラ姉の言葉にオレとシノブは頷く。
簡単な手続きで登録は完了した。商業ギルドのギルドカードを受け取る。
冒険者ギルドの物とほとんど同じだがカードにある紋章の形が違うな。
「また珍しい素材があれば持ってきてくれ。良い金額で買い取ろう」
土地も借りられ、ギルドマスターとの挨拶も済ませオレ達は商業ギルドを後にした。
さっそく借りた土地のある第三地区に行ってみることにしよう。