506 エアリィの帰郷
テリアはもう心配なさそうだが、まだ目を覚まさないので、ユウ達が戻ってくるまでの時間潰しに、妖精族の城を見て回るかな。
とは言っても、RPGゲームの主人公じゃあるまいし、勝手に城の中を探索するのはマズいかな?
「新たな来客だと聞いたが、そこの者達カヤ?」
医療室から出ると、前から何人かの妖精を引き連れて、美しい大人の女性がやってきた。
妖精と同じ羽を生やしているが、他の妖精は30〜40センチくらいの小柄なサイズに対して、この女性は人族と同じくらいの長身で、オレよりも背が高いくらいだ。
――――――――――!!
「我の情報を覗き見ようとは、感心せぬカヤ?」
鑑定魔法でステータスを見ようとしたら、表示が出る前に閉じてしまった。
妨害魔法かスキルか、それとも専用のアイテムを持っているのか。
それはわからないけど、この人結構高レベルなのは間違いないな。
女性がオレを軽く睨んできた。
「えっと、ごめんなさい」
オレはとりあえず謝罪した。
確かに、自分の情報を盗み見られるのは気分悪いよな。鑑定魔法を使うのが普通になっていたので、その辺の配慮を考えていなかった。
「まあ、よいカヤ。なるほど、この者がもう一人の勇者カヤ。過去の勇者とよく似ておるカヤ」
過去の勇者?
そういえば、前にエアリィに当時の勇者が妖精族の国で色々やっていたとか聞いた覚えがあるな。
「我は妖精族を束ねる女王である。勇者の来訪、妖精族の代表として歓迎するカヤ」
女性が優雅な振る舞いで、そう言った。
この人が妖精族の女王だったのか。
この人も魔人の操る魔虫に寄生されていたと聞いていたが、テリアと違い、特に影響は残ってなさそうだ。
「オレはレイ、です。過去の勇者とは、あんまり関係はないですけど」
オレも一応、自己紹介をした。
相手は女王様なので、言葉遣いには気を付けたつもりだが、やっぱり敬語は苦手だ。
それとユウと違って、オレは勇者のスキルは持っていないけど、否定するべきだろうか?
妖精族の女王は当時の勇者を知ってるみたいだけど、何百年も生きているのだろうか?
それとも、勇者に関する文献が残っていて、その情報によるものだろうか?
妖精族って何年くらい生きるのかな?
妖精族の寿命を知らないから、わからないな。
さすがに年を聞くのは失礼だろうし。
「や、やめるんダヨ!? 何するんダヨ!」
「へ〜、これが妖精族なんだ。トゥーレから話には聞いていたけど、実際見るのは初めてなんだよね〜」
騒がしい声が聞こえてきたと思ったら、メリッサが妖精の男の子を捕まえて、珍しい虫を見るかのように弄りまくっていた。
プルルスとは話し終わって、おとなしくしてるかと思ったら、今度は目についた妖精に興味を持ったのか。
「············メリッサ、嫌がってるからやめた方がいい」
「だって〜、珍しいし面白いんだよ? スミレもやってみない?」
スミレが止めているが、メリッサは完全に新しいオモチャを手に入れたように妖精を離さない。
今も妖精の男の子の頬をグニ〜ッと伸ばして遊んでいる。一応、怪我をさせない程度には加減しているみたいだが。
「······勇者レイよ、あの幼子は主の子供カヤ?」
妖精女王がその様子を見て、ため息混じりに聞いてきた。メリッサが妖精を害する気はないだろうと思っているようで、止めようとはしない。
オレの子供だというのは否定しつつ、仲間だと頷いた。
「女王様、助けてなんダヨ〜!」
「あ〜、逃げないでよ。アチシは怖くないよ?」
メリッサの手から逃れて、妖精の男の子が女王の後ろに隠れる。
メリッサは笑みをうかべて怖くないアピールをするが、普通に怖いと思うぞ。
ただでさえ、妖精族は臆病だと聞いているのに、そんな様子では近寄ろうとはしないだろう。
「確かに女王様のお城なノヨ! もう帰って来るつもりはなかったけど、改めて見るとやっぱり懐かしいノヨ!」
そんな時、さらに騒がしい声をあげる妖精が現れた。風の妖精を名乗るエアリィだ。
「師匠、言われた通りエアリィ殿を連れて来たでござる」
「ああ、ご苦労さん、シノブ」
さっきシノブに、転移魔法でアルネージュの町に行ってエアリィに故郷が見つかったことを教えに行くよう、頼んでおいたんだ。
エアリィは、もう故郷に帰れなくてもいいとか言っていたけど、やっぱり戻れたら戻れたで嬉しそうだ。
「あーっ、エアリィ!? お前、今までどこに行ってたんダヨ! 散々、心配したんダヨ!?」
「なんだ、シルファンなノヨ。この超絶可愛らしいエアリィ様にまた会えて、嬉しいノヨ?」
妖精の男の子がエアリィを見て、驚きの声をあげているが、当のエアリィは普段通りのふてぶてしさだ。
「エアリィ? 数カ月前に島を飛び出して、行方不明になっていたお前が、何故ここにいるカヤ? 今まで、どこで何をしていたカヤ?」
「げっ、女王様なノヨ!? こ、これには深〜いわけがあるノヨ!」
妖精女王がエアリィに厳しい視線を向けた。
これは、行方がわからなかったエアリィを心配していたのかな?
エアリィは女王の前では、ふてぶてしさが鳴りを潜め、何やら言い訳を始めていた。