502 龍人と妖精
リンからの念話を受け、オレは龍人族の国に向かうことにした。
テリアが魔虫に寄生された影響で意識不明になっていて、聖女の治癒魔法も効果がないという話なので、シノブの(薬物錬成)で作り出せる薬を頼りたいと言っていた。
シノブが作り出せる薬は一通り、もしもの時のためにオレやアイラ姉のアイテムボックスの中にも複数個、常備している。
けど、やはりシノブにもついて来てもらった方がいいだろうな。
「龍人族の国にいるテリア殿が意識不明でござるか? それは、すぐに向かうべきでござるな!」
シノブに事情を説明したら、二つ返事でそう言った。エルフの里の復興作業を手伝っていたところだったので、疲れているかと思ったが、問題ないようだ。
「レイおにーさんとシノブ、龍人族の町に行くの? アチシも行きた〜い!」
「············ボクも行く」
一緒に話を聞いていたメリッサとスミレも、オレ達について行きたいと言い出した。
二人はテリアとは面識はないはずなので、彼女が心配だというより、単に龍人族の国に遊びに行きたいだけっぽいな。
マティアって子とは仲良くなっていたし、会いたいとすれば、そっちだろう。
まあ、魔人族が攻めて来ていたという話だが、すでに撃退済みのようだし、連れて行っても問題ないかな?
とりあえずはアイラ姉にも確認を取ってから、龍人族の国に向かうことにしよう。
「フム、龍人族の国でも、そんなことが起きていたのか」
アイラ姉にリンからの念話の内容を話した。
オレも魔人族が攻めて来て、撃退したくらいしか聞いておらず、まだ詳しいことはわからないけど。
「くかかっ、ワシがマスターに呼ばれて離れていたところで、そんな事態になっておるとはのう」
一緒にいたエンジェも、ついでに話を聞いていた。つい最近まではエンジェも龍人族の国にいたからな。
「というわけで、オレはシノブ達を連れて龍人族の国に行ってくるよ。アイラ姉達はどうする?」
「攻めて来たという魔人達は撃退済みなのだろう? なら私が行っても、やれることはなさそうだから遠慮しておこう。私はまだ、エルフの里でやることが残っているしな」
アイラ姉は復興作業を手伝ったり、エルフ達と色々と話すことがあるらしく、ついて来ないようだ。
「ワシもまだ、こちらに残っておるわ。勇者の従者のあの娘ならば心配いらぬだろうし、マスター達が行けば充分じゃろ」
エンジェも来ないのか。
エンジェはテリアの実力を高く評価しているようだ。
ま、テリアの容態を見て、すんなり回復してくれれば、それで役目は終わりだしな。
特に騒動が起きたりはしないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
というわけで、転移魔法を使って龍人族の国にまでやってきた。あっという間に着くから、別の国に来たという気がしないな。
転移先は人に見られないように町中ではなく、入口から少し離れた場所だ。
「あれは、空に浮かぶ島でござるか? 前に来た時にはなかったものでござるな」
シノブの言う通り、龍人族の住む町の上空に巨大な島が浮いているのが見えた。
前に来た時は間違いなく、あんなモノはなかったはずだ。
「あれって、ひょっとしたら妖精族の住む浮島じゃないかな? トゥーレにそんな話を聞いた覚えがあるよ」
メリッサが言う。
妖精族の住む浮島?
そういえばオレも、アルネージュの町に滞在中の妖精族エアリィに聞いた記憶があるな。
結界に隠された空を漂う島に、妖精族の国があると。あれが、その島だってのか?
けど、どう見ても隠されておらず、はっきり視認出来るのだが。
「············エアリィの故郷? なら、エアリィも連れて来る?」
スミレの言うように、エアリィを連れて来た方がいいかな?
いや、それは後で考えよう。
それよりも、なんで龍人族の町の上に、妖精族の住む島があるんだ?
龍人族の国に、魔人族が攻めて来ていたと聞いていたのに、妖精族の島まであるとか、意味がわからん。
一体、どんな状況なんだ?
わからないことを考えても仕方無いので、とりあえずは龍人族の町に向かうとしよう。
「レイさん、来てくれたんですね!」
龍人族の町の入口でリンが出迎えてくれた。
まずはリンから詳しい話を聞いて、現状把握しないとな。