501 リンからの救援要請
エルフの里での、ダルクローアが起こした騒動を解決してから、二週間ほどが過ぎた。
騒動の後始末も大方終わり、エルフの里も徐々に平穏を取り戻していた。
暴走した世界樹もどうなるか心配だったけど、特に問題なく、力を回復してきているとのことだ。
学園長やフェニア達も、まだ王都に戻らずに復興に協力していて、オレやアイラ姉達もその手助けをしていた。
他の人達も、それぞれやるべきことをしている。
エイミとミールの両親である、デューラさんとメアルさんは一度冥界に行き、冥王に改めて顔を合わせてから、今後の方針を決めるつもりだ。
二人は今は幽体という種族(?)になってしまったため、エルフの里で今まで通り生活するには、色々と問題があるのだろう。
冥界などという未知の場所に両親が行くことに、エイミとミールはかなり心配していたが······。
「心配する必要はないさ、エイミ、ミール。冥王も話のわかる人物だったし、私達を悪く扱ったりはしないだろうさ。今はまだ、私もデューラも幽体となっているけど、その内に実体を取り戻して、元の生活を送れるようにしてやるよ」
などとメアルさんは、かなり豪胆なことを言っていた。この人なら、本当に実現しそうだ。
まあ、メアルさん達の一応の主であるフルフルが、まだ世界樹の枝をエルフ達から受け取っていないため、冥界に向かうのは、もう少し先になりそうなので、まだまだ顔を合わせる機会はあるようだが。
どうも、世界樹の枝に必要な魔力を込めるのは、なかなかに手間がかかるらしい。
ちなみにフルフルや幽体、そしてダルクローアの元傀儡兵達は里の一画に住み、特に騒動を起こすことなく、おとなしくしている。
最初は不安がっていたエルフの住人達も、だんだんと慣れていっているようだ。
助っ人として喚び出したメイドさん達は、ある程度復興の目処が立った辺りで、王都の学園に帰している。
学園に残してきたサフィルスやヴェルデ、そして新たにやってきたアーテルとアルブス、そしてシルヴァラの指導をしてもらわないといけないからな。
先に帰しているディリーとアトリだけでは、相手をするのは大変だろうしね。
ちなみにメイド長のグラムとエンジェは、まだエルフの里に残っている。
聖女ルナシェアと神殿騎士達は、もう少し里の復興を手伝ってから、改めて各国の巡礼を再開するらしい。
エルフの里を救ってほしいという女神からの神託も達成したし、巡礼を再開すれば、またルナシェアとはしばらく会えなくなるかもしれないと思うと寂しくなるな。
「師匠、もう少し素材を出してほしいでござる」
「ああ、これくらいでいいかな?」
皆がエルフの里の復興を頑張っている中、当然オレも活躍している。
今もシノブに言われて、復興に必要な素材を出して、エルフ達に提供している。
オレの(素材召喚)スキルは鉱石類や金属類や、その他諸々、大抵の物を出せるので重宝されている。
「フム、これだけあれば充分だろうな」
「ありがとね、レイ君」
アイラ姉や学園長にも、言われた通りの素材を渡した。スキルを使えば魔力を消費するが、今のオレには大した消耗ではない。
エルフの里もほとんど元通りになってきたし、オレ達が出来ることは、もう終わりかな。
もう一段落すれば王都に戻り、学園生活を再開出来るだろう。
さて、少し休憩させてもらおうかな、と考えていたら·······。
―――――レイさん。今、大丈夫でしょうか?
突然、オレの頭の中に声が響いてきた。念話だ。
この声は、龍人族の国にいる聖女セーラの専属護衛騎士のリンだ。
―――――リン? オレの方は大丈夫だけど、何かあったの?
リンの声色は、切羽詰まっているわけではなさそうだが、何かしら問題でも起きているような印象を受けた。
―――――実は、龍人族の国にまた魔人族が攻撃を仕掛けてきまして······。幸いにも、犠牲者を出すことなく撃退出来たのですが、テリアさんが敵の精神攻撃を受けてしまい、未だに目を覚まさないんです。
エルフの里がダルクローアに攻められていた裏で、龍人族の国にまで魔人族の手が伸びていたのか。
世界各国が魔王軍の被害を受けているというのは、本当みたいだな。
それよりも、テリアというと勇者(候補)ユウの幼なじみの子のことだな。
リンの話によると、テリアが魔人族の操る魔虫に精神を乗っ取られてしまったらしい。
なんとか魔虫は退治出来たものの、テリアはその影響で意識不明の昏睡状態となっているという。
聖女セーラやエレナの治癒魔法でも、大した効果は見られないようだ。
魔虫というと、ダルクローアが使っていたブレインワームと同じような型だろうか?
まあ、詳しい話は直接聞けばいいだろう。
アイラ姉やシノブ達に声をかけてから、龍人族の国に向かうとしよう。