閑話⑲ 7 有耶無耶
(ルナシェアside)
「そういえば、エイミ殿とミール殿は王都に戻って、学園には通い続けるのでありますか? 確か学園長殿の口添えで、学園に通っている内は奴隷から解放される条件であると聞いていたでありますが、今回の件で、お二人は正式に奴隷から解放されるという話でありましたが」
レイ殿から色々聞きたいことがあるでありますが、先に言っておくことがあったであります。
もともと、お二人の実家を訪ねに来たのは、この報告をするためでもありました。
お二人の父親であるデューラ殿が起こした事件も、元を正せば、あのダルクローアという魔人が元凶でありました。
エルフの長老との話し合いでは、もう二人を犯罪奴隷に落とす必要はないと言っていたであります。(お二人の母親のメアル殿が、長老や他のエルフ達を脅していたとも言うでありますが)
「そんなこと、話し合っていたんだ······」
「まあ、あくまでも議題の一つでありますが」
エイミ殿が複雑な表情でつぶやいたであります。
小生には、どれほどのことがあったのかは想像するしかないでありますが、理不尽に犯罪奴隷に落とされたお二人は、相応の仕打ちを受けていたのでありましょう。
学園長殿が手を差し伸べなければ、どうなっていたかわからないであります。
「学園には少なくとも、卒業までは通うつもりですよ。その後のことは、まだ考えていませんが」
ミール殿がそう答えたであります。
まあ、お二人は学園に友人もたくさんいるので、突然やめる理由もないでありますな。
「ルナシェアさん、父様と母様が今後どうするかという話は聞いていますか?」
「なんでもフルフル殿と共に一度、冥界とやらに赴くつもりのようでありますが」
デューラ殿とメアル殿は現在、実体を持たない幽体という存在となっているであります。
再び、エルフの里で暮らすというのは難しいかもしれないであります。
冥界にて、冥王と改めて顔合わせをしてから、その後のことを決めるつもりのようなので、まだどうなるかはハッキリ決まったわけではないでありますが。
「冥界······そうだよね、お母さん達が戻ってきたからって、以前のように一緒には暮らせないんだよね」
「まだわかりませんよ、姉さん。母様なら、なんとかしてくれるかもしれません。もしくは、ワタシ達が冥界に行くことも視野に入れるべきでしょう」
「め、冥界って、どんな所なんだろう?」
「さあ? 後でフルフルさんにでも聞いてみましょうか」
小生も話に聞いたことがあるだけで、冥界とやらがどういった場所なのかは、まったくわからないであります。
以前はアンデッドの巣窟というイメージでありましたが、冥王やフルフル殿達を見るに、特殊な種族が住まう、それなりに秩序のある場所のようであります。
とはいえ、気軽に行けるような場所でもないと思うでありますが。
まあ、それは小生が口を挟める問題ではないので、良い方向に話が進むことを願うでありますよ。
「ところで、レイ殿。出掛けていたという話でありましたが、どこに行っていたでありますか?」
「え、ちょっとその辺を散歩というか、特に目的があって外に出ていたわけじゃないけど。なんで、そんなことを?」
お二人への報告は以上にして、小生は改めてレイ殿に問いかけたであります。
特に違和感ない、無難な答えでありますが、腑に落ちないであります。
「いえ、先ほど正義の仮面を名乗る人物が来ていたのでありまして。毎回レイ殿が留守の時に、その人物が現れるのは不自然かと思ったのであります」
ここは単刀直入に言ったであります。
そもそも、あの人物がエルフの里に来ている理由も、よくわからないでありますし。
レイ殿は困惑しているのか、答えに詰まっているでありますな。
「ミール殿は正義の仮面殿と情報交換をしていたということでありましたが、いつの間にあの人物とそんな関係に?」
「王都にいた時からですね。なんだかんだで、何度か顔を合わせている内に、そうなっていました」
小生の問いにミール殿がそう答えたであります。
以前から思っていたでありますが、ミール殿はあの人物の正体を知っているのでは?
「エイミ殿も、正義の仮面殿と情報交換を?」
「わ、わたしは······そういうことはしていない、かな?」
何故、疑問系?
エイミ殿は頬を染めながら、目があちこちに泳いでいるであります。
何か隠しているような、単に恥ずかしがっているだけなのか、わからないでありますな。
「なるほど、つまりルナシェアさんは、あの仮面の人物とレイさんが同一人物なのでは、と考えているわけですね?」
ミール殿が小生の考えを言い当てたであります。
何を思っているのか、ミール殿にしては珍しく、口元が笑っているように見えるであります。
「それなら確かめてみますか? レイさんと仮面の人物の身体付きを比べて、違いを確かめればいいのですよ。というわけで、レイさん。脱いでください」
「ちょっ、ミール······!?」
ミール殿がそう言ってレイ殿の衣服に手を伸ばしたであります。
予想外のことで、レイ殿も慌てているであります。もしやミール殿、適当な理由をつけて、先ほどの続きがしたいだけでは?
エイミ殿も突然の事態に、動けずにいるであります。
結局のところ、すぐにお二人のご両親のメアル殿にデューラ殿、そしてアイラ殿が来訪してきたため、行為には及ばなかったであります。
仮面の人物の件も有耶無耶になってしまったでありますが、それはまた後日、改めてということになりますな。
下ネタ話が続き、申し訳ありません。
次話より、新章開始の予定です。