勇者(候補)ユウの冒険章➇ 18 目覚めぬテリア
――――――(side off)――――――――
妖精女王の魔力によって動きを封じられた魔虫の身体を、ユウが剣技で貫いた。
「グアアアッ!!? オノレ、勇者······!!」
「しつこいね。これでトドメだよ!」
魔虫は身体を貫かれて尚、反撃しようとしたが、ユウが冷静に追撃して、魔虫の身体を斬り刻んだ。
身体をバラバラにされた魔虫は、聖剣の「聖」なる力によって消滅していく。
それでも魔虫は諦めない。
「マ、魔王様······! ダルクローア様······!! 今一度、チャンスヲ············」
「本当にしつこい虫じゃ、消え去れ!!」
「悪しき力を滅せよ、ホーリーブレス!!」
神子シャルルアと聖女セーラの力も加わり、魔虫はもはや為す術もない。
最終的には、肉片一つ残さずに完全消滅した。
「ふう·············おっと」
「············ユウ!」
「ユウ様ぁ!」
魔虫の消滅を確認して、一息ついたユウだったが、少しふらついてバランスを崩した。
すかさず、マティアとミリィがユウを支えた。
「ありがとう、もう大丈夫だよ。魔虫が消滅したから、呪いも消えたみたいだ」
ユウの傷口を蝕んでいた呪いも消え、治癒魔法が効くようになっていた。
すぐにエレナが治療をして、ユウは完全回復した。
「ありがとう、エレナ。プルルス、それにテリアの方は大丈夫?」
「――――――ボクなら心配いらないよ〜。けど、もうちょっと休まないと動けないかな、かな」
まだ少し疲れた様子だが、プルルスに外傷はなく、問題なさそうだ。
問題はテリアの方だが······。
「テリアにも治癒魔法をかけたけど、目を覚ます様子がないのよ······」
エレナが表情を落とし、答える。
テリアも目立つ外傷はないが、まだ意識が戻らない。息はあるので、死んでいるわけではなさそうだが。
「魔虫に寄生され、魔力や生命力を大量に奪われた反動だろう。それだけでなく、魔虫は宿主の魂も徐々に侵食していく。成虫化していたということは、あと一歩遅ければ、魂そのものが消滅していたかもしれない」
「テリアは目を覚まさないの?」
「わからん。すぐに目覚めるかもしれんし、下手をすれば、このまま永遠に目を覚まさない可能性もある」
ユウの質問にジャネンが首を横に振る。
現状では、何とも言えないらしい。
「前にジャーネが使ってた、魂を回復させる薬はないですかぁ?」
「残念だが、ソウル·ポーションはもうストックがない」
以前、昏睡状態だったユウを救うために使用した薬を使えばとミリィが言うが、すでに使い切ってしまっているようだ。
「テリア······」
さすがのユウも表情が曇る。
滅多に表情を崩さないユウにしては、珍し過ぎる反応だ。
「我ら妖精族も力になろう。勇者の従者を死なせはせぬカヤ」
妖精女王も協力を約束してくれて、テリアを治療室へと運ばれた。
魔法の扱いに長けた妖精族ならば、魂や精神の治癒する方法も知っているかもしれない。
「セーラさん、王都の本殿に掛け合って、魂を回復させるような薬を譲ってもらうことは出来ませんか?」
「エレナさん、申し訳ないのですが、そのような薬は本殿にもないと思います」
エレナの言葉にセーラが首を横に振る。
その言葉にエレナは表情を落とすが、すぐにハッとする。
「それなら······レイさんが持ってるかもしれません! 前にユウを助けてくれた時に使っていましたから。なんとか、レイさんと連絡を取って、薬を譲ってもらえれば······」
エレナが以前のことを思い出し、そう提案する。
レイとは、弱々しかったエレナを信じられない早さでレベルアップさせた冒険者のことである。
しばらく顔を合わせていないので、まだ王都にいるのかわからないが、すぐにでも確かめるべきと判断したエレナは、竜の翼で王都に飛ぼうとする。
「お任せください、エレナさん。わたしがレイさんに念話で連絡してみます。念話なら、どこにいても連絡出来ますから」
突っ走りそうなエレナをリンがそう言って止めた。リンは魔道具などを使わなくても直接、連絡を取れるらしい。
「お前は念話が使えるのか? 念話は冥王級の者しか使えない、かなり特殊な技能だったはずだが」
「ええ······まあ、そうですね。使えるのは、レイさんとだけなのですけど」
「レイとは冥王を倒した、あの人族だったな。やはり、何かと規格外な人物なのだな······」
ジャネンの質問に、リンは少し答えづらそうに頷いた。ジャネンはリンの反応には気を留めず、何やら考え込む仕草を見せた。
目を覚まさないテリアは心配だが、打開策も見えてきたので、ひとまずは様子見となった。
魔王軍幹部ゲーエルや魔人族達も全員捕らえられ、城や森の中に放された残りの魔虫も、龍人族や妖精族達によって、地道に退治していく。
こうして、魔人族による妖精族の国の侵攻は、食い止められたのだった。
これで番外編は終わりになります。
次話より、本編に戻ります。