61 スミレのお願い
······のんびりするはずだったのにずいぶん濃い一日になってしまった。
オレは今日の疲れをとるために風呂に浸かった。
また正義の仮面になって色々してしまった。
幸いなのは正体がオレだということをセーラ達は気付いてないようだということか。
最後はセーラとアルケミアはお互いを認め合っていたようだし、結果だけ見ればよかったのかな······?
そういえばスミレはどうなったのだろう。
勢いで奴隷の首輪を外してしまったが大丈夫だろうか?
自由の身になってどうする気かな。
――――――――ガラッ
前触れもなく入口の扉が開いた。
「············見つけた」
入ってきたのはスミレだった。
噂をすれば影ってやつか?
なんでスミレがここに?
しかも何も身に付けていない。全裸だ。
シノブと同じくらいの子に欲情したりはしないが目のやり場に困る。
「スミレ、何でここに? それに服は?」
「······? ここはお風呂、服は脱いで当然······」
まあそうなんだけど。
この世界はお風呂は一般的じゃなかったはずだけどスミレはマナーを知っているのか?
「スミレ、ここは男湯だ。女湯は隣にあっただろ?」
最初はオレ達三人以外使わないと思ってたから風呂の建物は一つしか作らなかったんだが、今は孤児院関係者をはじめ第三地区の人達も利用することがあるのでもう一つ作って男湯と女湯に分けたのだ。
ちなみに今の時間帯はオレしか入っていなかったが······。
「レイに会いに来た············」
スミレが真っ直ぐにオレを見る。
オレに会いに来た? 何で············。
「レイはボクの自由にしていいって、ボクのしたいことをしていいって言った。············だから来た」
それは正義の仮面の時に言ったセリフだ。
そういえばスミレの目の前で変身したから正義の仮面の正体がオレだとバレてるんだった。
「ボクはレイ達と一緒にいたい······レイの奴隷になってもいい······ボクをここに置いて」
スミレがオレの目の前まで迫ってきた。
表情はあまり変化はないが目は真剣だ。
······本気で言ってるんだろうな。
「ちょっ、待ったスミレ······」
「お願い······レイ、ボクを受け入れて······」
裸でそんなことを言いながら迫ってこられると別の要求をされてるんじゃないかと想像してしまう。
スミレをどうするかはアイラ姉達と相談だ!
スミレを宥め服を着させてオレ達は風呂を出た。
―――――――――――――――――――――――
風呂から上がるとちょうど夕飯の時間帯だったので食卓には全員揃っている。
今この場にいるのはオレにスミレ、アイラ姉、
シノブ、エアリィだ。
「ここに居たいというのは構わぬがスミレは帰る場所はないのか?」
アイラ姉がスミレに問う。
前に帰れないとか言っていたが事情は話してくれなかったんだよな。
話しにくいことなのかな?
「ある······けど帰れない。ボクは里を追放されたから······」
「里を追放? スミレ以外にも幻獣人族っているの?」
「いる······里のみんなはボクと同じ種族」
絶滅したわけじゃなかったってことか。
スミレの話によると幻獣人族の里はここから遠く離れた場所にある森の中にあるらしい。
結界が張られているため外からは里の存在を認識できないらしい。
エアリィの妖精族の里と同じ感じなのかな?
「その里を追放されたと、一体何をしたのだ?」
確かに気になるな。
戦闘能力が高いとはいえこんな小さな子を追放するなんて。スミレが里を追放されるような極悪人には見えないが······。
「············つまみ食い······」
······今スミレは何て言った?
つまみ食いって聞こえたがまさかそんなことで?
「10年に一度の大切な儀式に使う神樹の実を食べた············。たくさんあったから1個くらいいいかと思って······」
神樹の実。名前からして貴重そうな実だな。
でも1個食べたくらいで············。
「とてもおいしく1個食べたら手が止まらなくなって気が付いたら全部なくなってた······」
1個じゃなかった!? 全部食べてた!
何の儀式かは知らないけど大切な儀式に使う貴重な実を全部食べちゃったのか。
追放されるには充分な理由······かな?
それでも厳しすぎる仕打ちだと思うが。
「でも······レイのくれた果実の方がおいしかった」
表情は変わってないがヨダレを垂らしそうな感じでスミレが言う。
「里に帰れなくてもいい······ここにいたい······ここに置いて······お願い······」
その後も詳しく聞いてスミレの大体の事情がわかった。スミレは里を追放されて外の世界をアテもなく歩いた。
その時に出会った奴隷商人に騙されて奴隷にされた。そして奴隷商人は捕まり神殿に保護されたってわけか。
話を聞いてアイラ姉達はスミレをここに住ませることを了承した。
「ただし、働かざる者食うべからずだ。それなりに仕事をやってもらうぞ」
エアリィが来た時にも言った言葉だ。
アイラ姉の言葉にスミレはコクりと頷いた。
ま、エアリィもいるんだし居候が一人増えるくらいなんてことはない。
部屋もいくつか余っているしスミレはそこに······と思ったのだが。
「スミレ殿は拙者と同じ部屋でいいでござるよ。
一人だと少々広すぎると思っていたでござるから」
シノブの言葉でそう決まった。
「仕事のことなら任せなさいなノヨ! この町の主であるこのアタシがしっかり指導してあげるノヨ!」
エアリィ、いつからお前がこの町の主になった?
まあ子供達のリーダー的存在にはなっているし仕事のことはエアリィに任せるか。
こうしてスミレがオレ達の家に住むことになった。
その後リンから念話がきてセーラの聖女の儀式が無事に終わったとの報告をもらった。
正義の仮面として成り行きは見ていたんだがな······。
その時にスミレをウチで預かるということを伝えておいた。