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勇者(候補)ユウの冒険章➇ 12 恐怖

――――――(side off)――――――――


 妖精女王に寄生した魔虫を排除し、一件落着かと思われたが、魔王軍幹部ゲーエル率いる魔人達が玉座の間に押し寄せ、ユウ達を取り囲んだ。


「お前が魔王軍幹部のゲーエルってやつなんだね。気持ち悪い魔虫を使って妖精達を操って、龍人族の町にまで攻撃してくるなんて、どういうつもりなのさ?」


 ユウが聖剣を構えながら、ゲーエルに問う。

 対するゲーエルは笑みをうかべる。


「フフフッ、勇者がノコノコとやってくるとは好都合だ。ナークヴァイティニア様を奇跡的に討ち破ったものの、瀕死の重傷を受けていたという報告を受けている。涼しい顔をして誤魔化しているが、まだ完全には傷は癒えていないはず······」


 確かにユウは神将とほぼ相討ちとなり、生死の境を彷徨っていたが、()()()()特殊な薬を与えてもらったことで、すでに回復している。

 それが無ければ命を落としていた可能性も高い。

 そのことを知らないゲーエルは、ユウが無理をして、この場に立っているのだと誤解していた。


「それがどうしたのさ? 妖精達も女王さんも、魔虫から解放した。お前が何を企んでいるか知らないけど、そうそう思い通りにはいかせないよ」

「ダルクローア様よりお借りした魔虫を、容易く排除する実力は認めるが、その程度で優位に立ったと思っているのなら甘いぞ!」

「それはどうかな?」


 ユウが一瞬の隙を突いて、ゲーエルの懐に潜り込み、聖剣で斬りつけた。

 ゲーエルはユウの剣を避けられず、肩を斬られて出血した。


「き、貴様······!?」

「あれ? 魔王軍幹部って言うから、もう少し強いかと思ってたんだけど、今の攻撃も避けられないんだ」


 ゲーエルが表情を歪め、ユウは心底意外そうな反応を見せた。

 ユウとしても、今のは牽制のつもりで斬っただけでダメージを与えられるとは思っていなかった。

 実際、魔王軍幹部は魔人族の中でも強い方なのだが、ユウが討ち倒した神将に比べれば、大した相手ではなかった。



「ゲーエル様······!?」「小僧、おのれっ」

「おっと、そうはさせぬぞ、魔人族共よ」


 ゲーエルが斬られたのを見て、周囲の魔人達が動こうとするが、シャルルアが威嚇して止めた。


「······朧気だが、思い出してきたカヤ。我が国で、ずいぶんと好き勝手してくれたものカヤ」


 妖精女王も状況を把握して、シャルルアの味方をしてくれていた。

 他の妖精達も魔人達を警戒しつつ、女王の下に集まる。


「ちぃっ、勇者や妖精風情が······! それならばもう一度、魔虫の苗床となるがいい!」


 ゲーエルが手をかざすと、天井から魔虫が無数に降りそそいできた。

 あまりに数が多すぎるため、すべてを防ぐのは難しい。


「――――――これくらい問題ないない。そ〜れ、アースバリアー!!」


 プルルスが床を盛り上がらせ、「土」の壁を作り、天井からの魔虫を防ぐ。

 しかし、ほとんどの魔虫は弾けたが、数匹が壁を抜けてプルルスの身体に張り付いた。

 そのままプルルスの身体を這い、耳から体内に侵入した。


「フッ、ハハハ! かなりの魔法の使い手のようだが好都合だ! 高い魔力を秘めた者に寄生した魔虫は、進化して性能を大きく上げる。一度体内に入ってしまえば、もう抗うことなど出来ぬぞ!」


 ゲーエルが勝利を確信して高笑いをあげる。

 シルファンなどの一般妖精に寄生した魔虫は簡単に排除出来たが、妖精女王に寄生していた魔虫は、それなりの力を持っていた。

 プルルスの魔力は、妖精女王も上回るくらいに強力なので、ゲーエルの目論見通りに行けば確かにマズイ。


「――――――あ〜もう、鬱陶しいな〜。頭の中をカサカサ動くのやめてよね、ね。虫はアウルムのゲテモノプールでいっぱいいっぱいなんだからさ〜」


 まったく緊張感のない声色でそう言って、プルルスが軽く頭を振る。

 そして、口の中をモゴモゴさせたと思うと、ペッと体内に侵入した魔虫を吐き出した。


「は? そ、そんなバカな······!? 魔虫を自力で吐き出すなど······」

「――――――創造主(グランドマスター)に命を与えてもらった存在のボクに、そんなの通用するわけないでしょ、でしょ」


 ゲーエルが狼狽えているのを見ながら、プルルスは得意気にそう言った。


「グ、グランドマスター······? ま、まさか」

「ゲーエル様······」

「あれはもしや、トゥーレミシア様の殺戮人形(キラードール)では······?」


 その言葉を聞いて、魔人達がプルルスの正体に気付いたようだ。

 ゲーエル含む、魔人達がプルルスを見て、怯えた反応を見せる。


「な、何故、トゥーレミシア様の殺戮人形(キラードール)が勇者と行動を共にしているんだ······!?」

「――――――そんなにおかしなことかな、かな? ボクはユウ君と遊ぶために一緒にいただけだよ、だよ」

「遊び······はっ!? そ、そうか、トゥーレミシア様も勇者抹殺のために殺戮人形(キラードール)を差し向けて······」


 プルルスは正直に話しただけなのだが、ゲーエルはその言葉から、そう誤解していた。

 状況を考えたら、ゲーエルの推測は正しいように思える。実際はプルルスの気まぐれで行動しているだけで、彼女の主である神将(トゥーレミシア)はまったく干渉していないのだが。


「お、お待ちください。我らは魔虫を使い、妖精族と龍人族の支配を狙っていただけで、トゥーレミシア様の邪魔をするつもりは······」

「――――――? 一体何を言ってるのかな、かな?」


 自分の行動が神将(トゥーレミシア)の思惑の邪魔しているかもしれないと考え、ゲーエルは勝手に焦り出していた。

 人形使い(ドールマスター)トゥーレミシアの人形は並の魔人族では手も足も出ないほどに強く、その中でも殺戮人形(キラードール)は桁違いの戦闘能力を誇っている。

 殺戮人形(キラードール)に目をつけられ、殲滅された魔人も数多くいるため、それだけ恐れられていた。

 魔王軍幹部ほどの魔人から見ても、殺戮人形(キラードール)は恐怖の対象であった。


 ちなみに当のプルルスはゲーエルが何のことを言っているかわからず、首を傾げていた。




――――――――――!!!!!



 そうこうしている内に、玉座の間の外が騒がしくなっていた。

 戦闘音が響き、ドタドタと多数の足音がこちらに向かってきている。

 そして、玉座の間の扉が勢いよく開かれた。



「魔人族共よ、貴様らの蛮行もここまでであるぞ!」


 そう言って入ってきたのは戦士長リュガント率いる、龍人族の戦士達だった。





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