勇者(候補)ユウの冒険章➇ 6 寄生虫
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シャルルアの龍神の神子としてのスキルによって、魔物の幻影や、周囲を覆っていた霧が消えていった。
そして、それと同時に体長30センチくらいの虫のような羽を生やした小人が姿を現した。
羽を生やしている以外は、見た目は小さな男の子といったところだ。
「おそらく此奴は妖精族じゃな。妾も実際に見るのは初めてじゃが、聞いていた通りの姿をしておる」
シャルルアが警戒を緩めずに言う。
「ぼくは一度だけ、アルネージュって町で見たことあるよ。確かに、その時見た妖精族と同じような姿だし、気配も同じだね」
ユウは妖精族を見るのは初めてではなかった。
深く関わったわけではないが、アルネージュという町で見かけたことがある。
「なんなんダヨ、お前達は!? なんで魔物を見てもビビらないんダヨ!」
妖精族の少年が憤慨したように叫ぶ。
その言葉から察するに、先ほどの魔物の幻影を見せていたのは、この妖精族に間違いないらしい。
「――――――簡単に自白するなんて良い度胸だね、ね。魔物をけしかけて来る奴は、殲滅しちゃってもいいかな、かな?」
「わーーっ、ま、待つんダヨ!? 脅かすだけで、危害を加えるつもりはなかったんダヨ!!」
プルルスが悪い笑顔をうかべながら、妖精族の少年をつまみ上げた。
プルルスの異様な雰囲気に、妖精族の少年は震え上がっていた。
「プルルス、ちょっと待ってよ。とりあえず、なんでこんなことをしたのか聞いてみよう」
ユウがプルルスを制止して、妖精族の少年に話を聞いてみることにした。
妖精族の少年もプルルスが恐ろしいようで、おとなしくしていた。
「ぼくはユウ。それとルル······シャルルアにプルルスだよ。キミは妖精族だよね?」
「そ、その通りなんダヨ! オイラは風の妖精シルファンなんダヨ!」
ユウの名乗りを聞いて、妖精族の少年も名乗りをあげた。チラッとプルルスを見て怯えているが、ユウやシャルルアは自身に危害を加えるつもりはないらしいことがわかったようだ。
「何故、妾達に魔物の幻影を見せたのじゃ? それに我が龍人族の都に攻撃を仕掛けた理由はなんじゃ?」
「龍人族の都に攻撃!? そんな恐ろしいこと、するわけないんダヨ!」
シャルルアの問いに、妖精族のシルファンは慌てて首を横に振る。
「じゃが、幻影とはいえ、妾達に魔物をけしかけたのは事実じゃろう?」
「それは久しぶりに別種族を見たから、イタズラしたくなったんダヨ。さっきも言ったけど、ただの幻影だから危害を加えるなんて出来ないんダヨ」
「なら、この妖精族の浮島に何故、魔人族がいるのじゃ? 奴らとは、どういう関係なのじゃ?」
「い、意味がわからないんダヨ!? 魔人族なんて恐ろしい奴らが、ここにいるわけないんダヨ!」
シャルルアが立て続けに質問するが、どうも要領を得ない。
シルファンの様子を見るに、ウソをついていたり、しらばっくれているわけでもなさそうだが。
「どういうことじゃ? これでは何もわからぬのと同じじゃ」
「このシルファンって妖精族は、本当に何も知らないだけじゃないかな? 魔人族も、まだ妖精族全体を支配しているわけじゃないとか」
「しかし、たとえ何も知らされていない下っ端だったとしても、我が都をあれだけ大胆に攻撃していたことに気付いてすらいないなんて、いくらなんでも不自然じゃが······」
ユウの推測にシャルルアは納得いかないという様子だ。二人がどうしようかと悩んでいたところに、プルルスが動いた。
プルルスがシルファンの頭を掴み上げる。
「わーーっ!? な、何するんダヨ!?」
「――――――あ〜、この子自身、自覚はないみたいだけど、やっぱり入っているみたいだね、ね」
シルファンがジタバタ暴れるが、プルルスがガッシリ掴んでいるので抜け出せない。
「入っているってどういうこと、プルルス?」
「――――――まあ見ててよ、ユウ君。ボクがこの子に寄生している虫を追い出してあげるからさ」
ユウが首を傾げる。
プルルスは自信満々な笑みをうかべながら、シルファンを掴む手から魔力を流し込んだ。
「わ、わ、殺さないで欲しいんダヨ············にぎゃあああーーーーっっ!!?」
「だ、大丈夫なのかの?」
尋常じゃない叫び声をあげるシルファンを見て、シャルルアが心配そうに言う。
プルルスなら、うっかり殺してしまっても不思議ではないだけに、止めるべきか悩んでいた。
「あああーーっ············げほっ!!?」
叫び声をあげながら、シルファンが何かを吐き出した。それは、小さなミミズのような生物だった。
「何、この虫? シルファンの中に寄生していたの?」
「これはまさか、寄生魔虫ブレインワームか!? 生物の脳に寄生し、操るという最悪の魔虫じゃ」
首を傾げるユウにシャルルアが説明する。
その横でプルルスは「土」魔法で魔虫を押し潰し、退治した。
「――――――やっぱりね〜、そんな気配がしたんだよ。創造主の嫌っている、ダルなんとかって奴が使ってるの見たことあるからね、ね」
プルルスが褒めてほしいと言わんばかりに、ドヤ顔で言う。
「ありがとう、プルルス。ぼくは魔虫を見るのは初めてだったから、寄生されているなんてわからなかったよ」
「――――――ふっふ〜ん。もっと褒めていいんだよ、だよ。ま、それよりも魔虫を追い出したんだから、その妖精君、さっきより話が通じるようになってるんじゃないかな、かな」
まだ少し、苦しそうに咳き込んでいるシルファンだが、だんだんと落ち着いてきていた。
ユウ達はシルファンの回復を待って、改めて話を聞くことにした。