勇者(候補)ユウの冒険章➇ 5 幻影使い
――――――(side off)――――――――
妖精族が起こしたと思われる霧と突風で、ユウは仲間とはぐれてしまった。
現在、ユウと共にいるのはシャルルアとプルルスだけだ。
「まだ霧が晴れる様子はないね。妖精女王の城は、こっちの方角だっけ?」
「おそらくは、そうじゃな。ただの霧ではないようじゃし、方向感覚が狂いそうじゃが······」
「――――――鬱陶しい霧だよね、ね。いっそのこと、一気に吹き飛ばしちゃおうかな、かな?」
さすがのユウ達も、霧で視界がハッキリしない状態に苦労していた。
妖精族が起こした特殊な霧のため、「風」魔法などで吹き飛ばそうとしても、簡単には消えない。
「テリア達も、きっと妖精女王の城を目指していると思うから、その内合流できるよ」
「そうじゃな。リュガントや戦士達も歴戦の猛者ばかりじゃ。皆、心配いらぬじゃろう」
ユウとシャルルアが言う。
ユウ達は仲間の無事を信じて、先に進むことにした。
「それにしても、妖精族と魔人族はどういう関係なのか······。プルルスは何か知らぬのかや? お主も、一応は魔人族の関係者じゃろ?」
「――――――そんなこと言われたって、ボクは知らないかな、かな。妖精族のことだって、創造主に少し聞いてるだけで、実際に見たことはないし〜」
霧が立ち込める中、はぐれないように会話をしながら歩いていく。
「魔人達がゲーエルって名前を出していたね。ジャネンが魔王軍幹部のことだって言っていたけど、プルルスはそいつについて、何か知ってる?」
「――――――ん〜、ボクは魔王軍ってのとは関係ないから、わからないかな、かな。創造主も、今の魔王は最低な奴だ〜って言って、あんまり関わるなってボク達に言っていたし」
「プルルスの主人は神将の一人なのじゃろう? それなのに魔王軍と関係がないとは、魔人族とは一体どういう組織体制になっておるのじゃ?」
「――――――難しい話はボクにはわからないよ。ボクが従うのは創造主の言葉だけだからね、ね。もちろん楽しいことなら、何でも歓迎するけどね、ね!」
「魔人族も、一枚岩ではないということかの」
話を聞く限り、プルルスは魔人族に関する情報はあまり持っていないようだ。
プルルスの能天気な言葉にシャルルアはため息をついた。
「グルルルッ······」
しばらく進むと、ユウ達は無数の影に囲まれていた。小型のものから大型のものまで様々だ。
「魔物?」
「妙じゃの、気配をまるで感じなかったのじゃが······」
ユウとシャルルアがすぐに戦闘態勢に入る。
霧で姿はハッキリしないが、かなりの数に囲まれている。
「――――――ここはボクに任せてよ、ユウ君、シャルちゃん。さっき暴れられなかったから、活躍するよ、するよ!」
プルルスが前に出て、魔力を集中する。
そして無邪気な笑みをうかべながら、攻撃を仕掛けた。
「――――――そ〜れ、アースクエイク!!」
プルルスが魔法で激しい地震を起こした。
これだけの揺れにも関わらず、ユウやシャルルアの周囲には何故か影響が出ていない。
プルルスが二人を巻き添えにしないように配慮しているようだ。
ユウ達の周囲とは裏腹に、激しい振動で魔物達の足下が地割れを起こし、崩れた。
「グアアアッ!!!」
「――――――あれ? 効いていないのかな、かな? だったら、これならどうかな、かな!」
揺れを物ともせずに、魔物がプルルスに襲いかかってきた。
プルルスはすぐに新たな魔法を放ち、魔物を撃退しようとする。
「まるで煙みたいだね。こっちの攻撃が効いていないのかな?」
「いや、この魔物達はただの幻影のようじゃ」
プルルスの魔法をすり抜け、襲いかかってくるが、魔物の攻撃もこちらをすり抜けていた。
シャルルアの言うように、周囲の魔物は本物ではなく幻影のようだ。
「――――――な〜んだ、ただの幻影なんだね、だね。幻影破りはフラウムの得意分野で、ボクの役目じゃないんだけどな〜」
見た目は恐ろしい魔物だが無害な幻影と知り、プルルスが残念そうにしている。
しかし幻影とはいえ、それを見せている者が近くにいるということであり、何を企んでいるか分からない以上、まだ油断は出来ない。
「見つけたよ、そっちの方に特殊な魔力を放ってる奴がいるみたいだ」
「妾に任せよ、ユウ! 幻影使いよ、姿を現せ!」
ユウが魔物の影の先を指差す。
それに応え、シャルルアが龍神の神子としての力を解き放った。
――――――――――!!!!!
シャルルアの力が元凶に直撃して、それによって周囲に変化が起きる。
魔物の幻影はすべて消滅し、視界を遮っていた霧も徐々に晴れていった。
「あーーっ!!? オイラの幻影が消えちゃったんダヨ」
そして大きな声をあげながら、体長30センチくらいの虫のような羽を生やした小人が姿を現した。