勇者(候補)ユウの冒険章➇ 4 魔人族と妖精族
――――――(side off)――――――――
襲撃してきた魔人族は撤退していったので、今は周囲に敵の気配はない。
ユウ達は少し拓けた場所に霊獣を降り立たせた。
「ご苦労だったな。少し休むといい」
ジャネンが霊獣を労う。
ユウ達も霊獣の背から降りて、周囲の様子を伺う。
「ユウさん、エレナさん、皆さんも、状況がわからない内は不用意に突っ走らないでくださいね」
遅れてやってきた聖女の専属護衛騎士のリンが、ユウ達に苦言を呈する。
ユウ達の実力を知っているリンだが、やはりそれでも心配だったようだ。
聖女セーラや他の神殿騎士達も、(竜化)した龍人族の戦士達の背に乗り、続々とやってきた。
龍王や一部の戦士達は地上に残って、新たな襲撃に備えているとのことだ。
「ここが妖精族の住む浮島ですか。しかし、妖精族の姿は見えませんね」
セーラもユウ達同様に周囲を見回し、状況を確認する。ユウ達は先ほど、魔人族の襲撃を受け、そしてそれを撃退したことを話した。
「妖精族を利用して、龍人族に戦いを仕掛けてきたわけか。魔人族め、姑息で卑劣な真似を······!」
「落ち着くのじゃ、リュガントよ」
龍人族の戦士長リュガントが、ユウ達の話を聞いて怒りを露わにする。
シャルルアはそんなリュガントを冷静に宥めた。
「遠くに見える、あの大きな城に魔人族と妖精族がいるのかな?」
ユウが指摘したように、少し離れた場所に、全体的に石造り物と思われる城のような建物が見えた。
先ほどの魔人族も、あの方向に逃げて行ったので、そこに魔人族の親玉がいる可能性が高い。
「おそらくは、そうだろうな。あそこは妖精族を束ねる妖精女王の住む城だろうが、中は魔人族の気配で溢れている。妖精女王は奴らに捕らえられたか、すでに殺されたのかはわからぬが」
ジャネンが(千里眼)の力を使い、確認する。
不思議な力が働いているため、完全には城の中を把握出来なかったようだが、すでに魔人族の巣窟になっているのは間違いないらしい。
「その妖精女王って人が生きているなら、尚更、早く助けに行かないとね」
「だったら早く行って、元凶をぶちのめしちゃいましょうよぉ、ユウ様ぁ」
ミリィはまだ暴れ足りないのか、そんなことを言っている。
――――――――――!!!
そんな時、突然、周囲が霧に覆われた。
かなり濃い霧で、目の前にいる人物すら、姿が朧気になるほどである。
「侵入者、侵入者」「立ち去れ、立ち去れ」
「じゃないと迷い死んじゃうヨ〜」
方向感覚すら掴めなくなってきたところで、どこからともなく、そんな声が響いてきた。
「この声は······妖精族か?」
ジャネンのつぶやきが聞こえた。
――――――――――!!!!!
今度は突風が巻き起こり、その場にいた全員を包み込んだ。
凄まじい風が吹いているにも関わらず、霧が晴れる様子はない。
視界も定まらないまま、ユウ達はそれぞれ風に吹き飛ばされてしまった。
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ユウはなんとか風を振り払い、体勢を整えた。
まだ霧は晴れていないため、仲間の姿は確認出来ず、どのくらい飛ばされたかわからないが。
「ユウよ、無事か!?」
「その声は······ルル?」
霧の中からの声にユウが答える。
声の主はシャルルアのものだと、ユウはすぐに気付いた。
「――――――はいは〜い、そうだよルルだよ、だよ!」
シャルルアのシルエットの後ろから、別の声が響いてきた。
二人が近くまで来たので、ようやく姿が確認出来た。
「プルルスも一緒だったんだね。他の皆は?」
「残念じゃが、妾と此奴以外は確認出来ぬ。皆、バラバラに飛ばされたようじゃ」
この場にいるのはユウ、シャルルア、プルルスの三人だけで、他の皆とは離ればなれになってしまったようだ。
「まあ、テリア達なら大丈夫だと思うけどね。ぼく達は最初の予定通り、妖精女王の城に向かおう。他の皆も、きっとそこを目指すはずだよ」
かなりの勢いで飛ばされたが、ユウ達は特に怪我は負っていないので、他の皆も無事だろうと考えた。
「――――――この霧や、さっきの風は多分妖精族の仕業だね、だね。妖精族は力は弱いけど、幻覚を見せてきたり、魔法関連は厄介だから気を付けろって創造主に言われたことあったんだったよ。忘れてた、忘れてた」
プルルスがあっけらかんとそう言った。
確かに高レベルのユウ達には、大抵の攻撃は通用しないはずだが、先ほどの突風には為す術もなく飛ばされてしまった。
普通の風ではなく、特殊な魔力を秘めたものだったのかもしれない。
「どうして妖精族が、ぼく達を攻撃してきたのかな?」
「わからぬ。魔人族に脅されて、奴らに手を貸しているのか、それとも妖精族と魔人族は手を組んでおるのか······」
ユウの疑問にシャルルアも首を傾げる。
現状では、情報が少な過ぎるので答えが出ない。
「――――――じゃあ妖精族も敵ってことで、殲滅してもいいのかな、かな?」
「敵かはまだわからないし、殲滅するのはかわいそうだから、死なない程度にしてあげてね、プルルス」
無邪気な笑みをうかべながら、物騒なことを言うプルルスにユウが一応、釘を刺していた。
とりあえずは、ユウ達は妖精女王の城を目指し、進むことにした。