勇者(候補)ユウの冒険章➇ 3 魔王軍幹部
――――――(side off)――――――――
「結界よ、消え去れ!」
ジャネンの使役する霊獣に乗り、浮島のすぐ近くまで来たところで、エレナが「聖」魔法で結界を一部分だけ打ち消した。
それにより、結界に霊獣が通れるくらいの穴が開いた。
「さすがエレナだね!」
「ありがとう、ユウ。でも、一部を開けただけだから、しばらくしたら自動的に修復しちゃうと思うわ」
「充分だよ。これで中に入ることが出来るね」
結界はそれなりに強力な物であったが、今では高レベルの部類に入る上に、聖女の力を秘めたエレナならば、砕くのは容易であった。
「一気に突入するぞ。敵の攻撃に警戒しておけ」
ジャネンの指示で霊獣がスピードを上げ、結界の穴を通り抜け、浮島へと侵入した。
結界を抜けた先は一面、大きな木々に囲まれた森が拡がっていた。
空を浮いている島の上とは思えない規模だ。
「自然に囲まれた良い雰囲気ね。ここに妖精族が住んでいるのかしら?」
「まあ、妖精族は自然と共存する種族みたいですからねぇ。イメージ通りって感じですかねぇ」
テリアとミリィが周囲を見渡し言う。
思っていたよりも平和な雰囲気だ。
「妖精族どころか、それらしい敵の姿も見えぬのう? どこかに隠れて様子を伺っているのじゃろうか?」
シャルルアが警戒を解かずに確認するが、今のところは何者かの襲撃してくるような気配はない。
「············いる。ちかくに、いっぱい」
マティアが何かに気付き、周囲に魔力の塊を放った。すると、木々と同化するように身を隠していた者達が次々と姿を現した。
「気付かれたか!?」「ちぃっ、妖精共の役立たずめ!」「面倒だ、やっちまえっ!!」
現れたのは、およそ数十人くらいの人の姿をした集団だった。
それぞれ、角が生えていたり、皮膚が赤黒く変色していたりと、人族ではない特徴が見られる。
これは魔人族と見て、間違いなさそうだ。
「やはり魔人族の仕業じゃったか! 性懲りもなく、またも我が都を狙ってくるとは、しつこい連中じゃ。ということは、妖精族も此奴らの言いなりになっているだけやもしれぬな」
シャルルアが魔人族の姿を確認して言う。
妖精族の姿はまだ確認出来ないが、シャルルアの言う通り、魔人族に脅されている可能性が高いだろう。
「魔人達に妖精族の国が支配されちゃってるんだね。だったら妖精族も助けてあげないとね」
ユウが魔力を集中して戦闘態勢に入る。
それと同時に翼を有した魔人達が、霊獣に乗るユウ達に攻撃を仕掛けてきた。
「アクセルシュート!!」
テリアが(物質具現化)スキルで弓矢を作り出し、襲いくる魔人達に向けて放った。
テリアの矢は、魔人達の翼を的確に貫き、撃退していく。
「ミリィだって負けませんよぉ!!」
ミリィも魔法攻撃で次々と魔人達を撃ち落としていく。この二人の攻撃だけで、ほとんどの魔人が戦闘不能に陥っていた。
「あはははっ、さすがテリアとミリィだね」
「思っていたより、手応えのない連中じゃのう? 以前、神将が引き連れて来た奴らとは比べ物にならぬ弱さじゃ」
ユウとシャルルアもいつでも攻撃出来るように構えていたが、テリアとミリィだけでも充分な様子に、少々、拍子抜けしていた。
「くっ、くそっ······コイツら強いぞ!?」
「ゲーエル様に報告だ、戻るぞ!」
残った魔人達は、そう言い残して逃げていった。
とりあえずは、これで敵の気配はなくなったようである。
「――――――あ〜、面白そうなことになっていたのに、皆逃げちゃった、逃げちゃった! ボクも暴れたかったのにズルいズルい!」
遅れてプルルスも結界を抜けてきた。
とはいえ、すでに魔人達は逃げた後で何も出来なかったため、不満気に膨れている。
プルルスに続いて、リュガント率いる龍人族の戦士達も続々とやってきた。
龍人族の戦士達は何人かは(竜化)していて、背に神殿騎士達を乗せている。
その中には聖女セーラやリンの姿もある。
「ゲーエル様、とか言っていたね、さっきの魔人達。そいつが魔人達の親玉かな?」
「また神将って奴が攻めてきたのかしら?」
ユウとテリアが先ほどの魔人達の捨て台詞から、そう推測する。
しかし、ジャネンが首を横に振った。
「いや、そんな名の神将はいない。ゲーエルとは······確か、魔王軍幹部の名だったはずだ」
「魔王軍の幹部か。ということは、今度は魔王が直接攻めて来たのかな? まあ、魔王だろうと神将だろうと、どっちにしろ倒すべき敵ってことだよね」
ユウにとっては魔王も神将も、大した違いはない。敵対するのならば、倒すべき相手というだけであった。