60 アルケミアの錯乱?(※)
※(注)引き続き変態男が登場しています。
(アルケミアside)
······恐ろしい目に合いました。
女神様、私は汚れてしまいましたわ。
「さあアルケミア殿、セーラ殿のことをよく見ておくことです。聖女にふさわしい方かどうかその目で見極めるのです」
「わ、わかっていますわ············!」
反射的に男の言葉に答えます。
しかし、横に裸同然の男がいると思うと集中できませんわ。
ついさっき私はこの男の············。
いえ、今はそんなこと忘れましょう!
セーラさんの舞に集中するのです。
空には3つの月が輝いています。
セーラさんが聖なる舞を始めました。
女神様の祝福をこの地に呼び込む儀式。
聖なる舞は聖女候補のみが行える特別な舞です。
普段はどこか頼りなく見えるセーラさんが、今はとても凛々しく見えます。
······確かに私の目は曇っていたかもしれません。
彼女も私と同じく女神様に選ばれし者。
今のセーラさんにはその覚悟が備わっているように見え、今朝の弱々しい感じがありません。
聖なる舞も私の目から見ても美しい。
天から幻想的な光が降りそそぎ、セーラさんを照らします。
どうやら試練は無事に果たされたようです。
セーラさんの聖女専用スキルのレベルが上がりましたわ。
「おめでとうございます、セーラ様!」
「ええ、ありがとう、リン」
リンとセーラさんが抱き合い喜んでいます。
そしてセーラさんが今度は私の方を向きましたわ。
「アルケミアさん、やはり私は聖女を目指します。もう何を言われようと曲げるつもりはありません」
覚悟を決めた表情でセーラさんが言います。
私が送る言葉は一つです。
「とても美しい舞でしたわ、セーラさん」
認めましょうセーラさん、あなたとその覚悟を。
しかしあくまでも同じ聖女としてです。
対等と認めますが負けるつもりはありませんよ。
「············アルケミアさん」
私の想いが伝わったようですね。
セーラさんも良い笑顔をしていますわ。
リンは私がセーラさんを認めたことに驚いているようですけど。
「どうやら無事に和解できたようですな。これ以上、私が口をはさむ必要はないでしょう」
「正義の仮面さんも、ありがとうございます」
セーラさんが男に頭を下げます。
正義の仮面············本当に何者でしょうか?
「ちょっと待ちなさい、変態男! セーラ様の手助けをしてくれたことは認めますがこのまま去るつもりですか!?」
リンが男に向かって叫ぶように言います。
「そうでしたな、町までお送りしましょう。転移」
男がそう言うと次の瞬間、私達はアルネージュの町の入口付近に立っていました。
転移魔法············。
この方はレイさん達と同じように異世界人なのでしょうか?
「では私はこれで、さらば!」
「あ、コラァーッ!! 待てぇーっ! 待ちなさいっ!!」
リンの言葉を待たずに、男は一瞬で去っていってしまいました。
「ぬぐぐっ······あの男、今度会ったら絶対にボッコボコにして取っ捕まえてやります!」
リンが怒り心頭で言います。
「リン、少し落ち着いて下さい」
「わたしだけでなくアルケミア様にもあんなことをしたんですよ! 野放しにしては危険です!」
そ、そうでしたわね············。
私はあの方の······。
いけませんわ、思い出しただけで顔が熱くなってきますわ。
あのたくましい身体にもう一度············。
「ああ、正義の仮面様······♡」
「「様っ!!?」」
ついつぶやいた言葉に二人が大げさに反応しましたわ。
「ア、アルケミアさん······?」
「アルケミア様がおかしくなってしまいました!?」
失礼ですわねリン、私はおかしくなんてありませんわよ?
「大丈夫ですわよセーラさん、リン。今回のことは私が悪かったのですからあの方がしたことを責めるつもりはありませんわ」
私は本心を言っただけなのですが、何故かリンは怪訝な表情をしていますわ。
「······絶対におかしいです。まさかあの男、アルケミア様に洗脳魔法を······?」
「リン、失礼ですわよ? 私は正気ですわ。あなたこそ何故あの方をそこまで敵視するのです?」
「そ、それは······」
リンが言い淀みます。
言ってから思い出しましたがそういえばリンは男性が嫌いでしたわね。
「あ、あの男のことはこの際······今はいいです! それよりも早く神殿に戻って状況の報告をしましょう! お二人がいなくて大騒ぎになっているかもしれませんから!」
話しを逸らしましたね。
けど確かにリンの言う通りですわね。
セーラさんもどうやって言い訳するか悩んでいますわ。神殿の騎士達に黙って試練を達成してしまったのですからね。
私からもうまくフォローしてあげることにしましょう。