勇者(候補)ユウの冒険章➇ 2 妖精族の住む浮島
――――――(side off)――――――
「リュガント、一体何事じゃ!?」
「はっ、シャルルア様! 空より何者かが魔法攻撃を放ってきたようです」
突然の事態に外に出て、シャルルアが龍人族の戦士長リュガントに状況を問う。
龍人族の戦士達は有能で、すでに迎え撃つ準備は万端となっていた。
「あれは、空に浮かぶ島?」
ユウが空を見上げると、その先には巨大な島が浮かんでいた。
どうやら魔法攻撃は、あの島から放たれたものらしい。幸いにも、大した威力ではなく、龍人族の戦士達によって相殺されたようだが。
「あれは、まさか妖精族の住む隠れ浮島か?」
「知ってるの、ジャネン?」
「ああ、この目で見るのは初めてだがな」
ジャネンのつぶやきにユウが問う。
ジャネンの説明によると、あの空を漂う大きな島には、妖精族という種族がいるそうだ。
「けど、ミリィの聞いた話ですとぉ、妖精族の住む浮島には認識阻害の結界が張られていて、普通は目には見えないようになっているはずですよぉ?」
ミリィがそう付け加えた。
ミリィもある程度、妖精族のことを知っているらしい。
「そもそも、なんでその妖精族が攻撃を仕掛けてきたのかしら? わたしは詳しく知らないんだけど、妖精族って、そんなに野蛮な種族なの?」
「いや、妖精族は滅多に姿を現さず、イタズラ好きだが、基本的に臆病な種族のはずじゃ。我ら龍人族に喧嘩を売るなどの蛮行をするとは思えぬ」
テリアの疑問にシャルルアも懐疑的な様子で答える。妖精族は魔法に長けた種族ではあるが、総合的な戦闘能力は龍人族の方が上であり、戦いを仕掛けるなど無謀なことである。
「――――――こっちも仕返しにバーンッと撃っちゃえばいいんじゃない、じゃない? 龍王のブレス攻撃なら、あの島ごと吹っ飛ばせるんじゃないかな、かな」
プルルスが無邪気な笑顔で物騒なことを言う。
今のところ、魔法攻撃が何発か飛んできただけで、妖精族の姿は確認出来ておらず、本当に妖精族の仕業なのかもわかっていない。
問答無用でそんなことをするのは、早計だ。
しかし、また攻撃を仕掛けてくる可能性もある以上、このまま手をこまねいているわけにもいかないだろう。
「直接、あの浮島に乗り込むのが一番、手っ取り早いかな?」
「簡単に言うわね、ユウ。けど、確かにそれが一番かもしれないわね」
ユウの言葉にテリアが頷く。
浮島はかなり高い位置を飛んでいるが、龍人族は空を飛ぶことが可能であるし、ジャネンの使役する霊獣を使うなど、たどり着く方法はいくつかある。
「待て、そう簡単ではないかもしれぬ。認識阻害はされておらぬが、結界は健在のようじゃ」
シャルルアが指摘したように、浮島の周囲には魔力の膜が張られていて、外部からの侵入を拒んでいるようだ。
結界はかなりの規模で、破るには相応の力が必要のようだ。
今のユウ達なら結界を破ることは可能でも、力加減次第では浮島に致命的な損傷を与えてしまうかもしれない。万が一、墜落させてしまえば、龍人族の都に多大な被害が出てしまう。
「それなら私に任せて、ユウ、シャルルア! 結界の一部に穴を空けるくらいなら出来るわよ」
そう言って駆けつけてきたのは、聖女見習いのエレナだ。他にも聖女セーラ、護衛騎士のリン、そして神殿騎士達も一緒だ。
セーラ達も龍人族の都で活動していたので、何者かの襲撃を聞きつけ、駆けつけてきたのだ。
「妖精族が無意味に戦いを仕掛けてくるとは思えません。何か、良からぬ事情があるのでしょう」
「セーラ様、エレナさん。わたしも全力でサポートしますから、無茶はなされないように」
セーラやリン、そして神殿騎士の面々も龍人族のために力を尽くすつもりだ。
「すまぬな、聖女エレナ、セーラよ。妾も龍人族の神子として尽力を······」
――――――――――!!!!!
作戦会議の最中に、再び浮島から魔法攻撃が放たれた。龍人族の戦士、神殿騎士達が協力して、その攻撃を防いだ。
悠長に考えている状況ではないようだ。
「ユウ、他の者も、乗るなら乗れ!」
「協力してくれるの、ジャネン?」
「ああ、あの浮島から特異点の反応がある。それを回収出来れば、我が神からの任務も達成するからな」
ジャネンが霊獣カオスレイヴンを呼び寄せ、ユウ達に背に乗るよう促す。
ジャネンの言う〝特異点〟とは邪気のことであり、それが発生しているということは、やはり何らかの異常事態が起きているのだろう。
ユウは迷わず霊獣の背に乗り込み、エレナとテリアもそれに続いた。
そうするとミリィやマティアも黙って待っているわけもなく、しがみつくように霊獣に乗り込んでいた。
「――――――やっぱりユウ君達といると退屈しないね、ね! もちろんボクも付いていくよ、いくよ!」
プルルスは自前の翼を広げ、浮島に向けて飛び立った。