閑話⑱ 9 騒ぎは騒ぎを呼ぶ
変態男は現れませんが、下ネタ要素があります。
突如、来襲してきた銀髪のお姉さん、シルヴァラを相手になんとか穏便に済ませようとしたのだが、本気にさせてしまったようだ。
せめて、服を着させてほしいのだが、とても聞いてくれそうにない。
他の人形娘達やディリーとアトリは、シルヴァラのスキルによって行動不能にさせられているので、今、立っているのはオレとシルヴァラだけだ。
一応、サフィルス達は意識があるみたいだけど、自力で動けるようになるには、しばらくかかりそうだ。
「――――――創造主に代わり、我が貴様を殲滅してくれる!」
シルヴァラが目の前の空間から、武器を取り出した。あれはムチか?
ゲームとかでは、よく見かける武器だが、こっちで使っている人を見るのは初めてだな。
基本、打撃系の武器で、戦いよりも無抵抗の相手を痛めつけるような印象だが。
シルヴァラが手にしたムチを、オレに向かって打ちつけてきた。
咄嗟に躱したが、ムチの当たった場所が鋭利な刃物で切断されたようになっていた。
「――――――覚悟しろ! バラバラに刻んでくれる」
シルヴァラがさらに連続で攻撃を加えてきた。
下手な武器よりも切れ味が鋭いムチだ。
しかも、変則的な動きなので、避けるのが難しい。
オレもアイテムボックスから武器を取り出して、対抗した。
魔剣ヴィオランテはエルフの里での戦いで失ってしまったので、普通のオリハルコン製の剣だ。
アイラ姉にある程度、強化してもらっている物なので、そこそこの性能はある。
「――――――そんなもので、我の女王の鞭に対抗する気か!」
シルヴァラのムチがオレの持つオリハルコンの剣に絡みつき、一瞬にして奪い取られてしまった。
あまりの早業に油断していた。
予備の武器は、まだいくつかあるので問題ないが、気を引き締めないとな。
「ファイア!!」
シルヴァラがさらに追い打ちをかけてきたので、オレは攻撃を避けつつ、下級魔法を撃って牽制した。
しかし、シルヴァラは魔法を避ける素振りは見せず、オレの撃った「炎」はそのままこっちに跳ね返ってきた。
「――――――主人、シルヴァラの身体はあらゆる魔法を反射します」
「――――――サフィ、敵に情報を与えるな!」
そう助言してくれたサフィルスをシルヴァラが一喝する。あらゆる魔法を反射する、か。
あの銀色の衣装にそういう効果があるのか、それともシルヴァラ自身の能力か?
どちらにしろ、魔法攻撃は通用しないと見た方がいいのか。
「――――――蜃気楼の極炎!!」
今度はシルヴァラが「炎」魔法を撃ってきた。
無数の「炎」の塊が縦横無尽にオレに向かってくる。どうやらこの炎は、いくつかはニセモノで、それで相手を惑わす効果のようだ。
本物の炎はかなりの熱量で、まともに受ければオレでもヤバそうだ。
――――――――――!!!!!
オレ自身は直撃を避けたが、周囲の被害がヤバい。この温泉施設の壁が崩れ、このままだと建物自体が崩壊しかねない。
オレはアイテムボックスから、二本目のオリハルコンの剣を取り出し、手にした。
「――――――何度やろうと無駄だ!」
再びシルヴァラがムチをオレの剣に絡みつかせてきた。今回は想定内だから、易々と奪わせたりはしない。
オレはグッと手に力を込めた。
「――――――何? 我が力負けしている、だと?」
シルヴァラのステータスは他の人形娘達と比べても、全体的に高いが、(超越者)のスキルを手に入れたオレはそれ以上の数値だ。
シルヴァラは、なんとか武器を奪おうと力を込めてきているので、オレは逆に力いっぱい引き寄せた。
「――――――なあっ!!?」
オレの力がここまで強いのは予想外だったようだ。シルヴァラはオレの引っ張る力に抗えず、バランスを崩した。
シルヴァラをオレの側まで引き寄せ、手に持つムチを強引に奪った。
「――――――き、貴様!? 離れ······」
「うわっと······!?」
シルヴァラがムチを取り返そうと暴れようとしたので、オレは抑えつけようと身体に触れた。
――――――――――ムニョンッ
オレの手に柔らかい感触が······?
オレは肩を掴もうとしたのだが、暴れたため狙いがズレて、シルヴァラの胸を鷲掴みにしていた。
サフィルス達と違って、シルヴァラの胸は結構なサイズがあり、とても人形とは思えない感触だ。
「――――――ひゃうっ!? やめ······このケダモノがぁーーっ!!!」
シルヴァラの表情が羞恥に染まり、より一層、抵抗してきた。
ステータスはオレの方が上のはずだが、シルヴァラの抵抗する力があまりに強い。
「――――――かつてない危機と判断。リミッター解除······」
なんだ? シルヴァラの全身からヤバそうな雰囲気が漂う。特殊スキルか?
何をするつもりかわからないが、発動させたらマズいとオレの本能が告げている。
オレは咄嗟にそれを止めようと身体を掴み、そのせいでシルヴァラは足を滑らせてしまう。
オレ自身もシルヴァラに巻き込まれる形で、一緒に倒れ込んでしまった。
そのおかげで、なんとかスキルの発動は阻止出来たが。
「――――――ひぃっ!!?」
シルヴァラが顔を真っ赤にして悲鳴をあげた。
倒れ込んだオレは、シルヴァラの身体の上に乗っかっている状態となっていた。
見方によっては、オレが裸で無理やり襲いかかろうとしているような危険な状態だ。
しかも、よりによって今の衝撃で、腰に巻いていたタオルが外れていて、オレの下半身部分がシルヴァラの眼前にある体勢だ。
オレのを目の当たりにしたシルヴァラは、目をグルグル回して、完全に錯乱していた。
「――――――い、いやあああっ!!?」
「うわっ······!!?」
錯乱したシルヴァラは悲鳴をあげて、オレを押しのけようと暴れ出した。
そのせいでオレはバランスを崩し、シルヴァラの上に倒れ込んでしまった。
「――――――っっっ!!!???」
為す術もなく倒れたオレは全体重をかける形で、シルヴァラを下敷きにしてしまう。
さっきまでの裸で押し倒す状態でもマズかったのに、今はさらに体勢がマズい。
最悪なことにオレの下半身部分、つまりはオレのがシルヴァラの顔面を下敷きにしている状態だった。
「――――――はううっ············〜〜〜〜」
オレはすぐに立ち上がり、離れたが、シルヴァラはオーバーヒートしたように顔は熱く真っ赤に染まり、ショックで気を失っていた。
思っていた以上に純情乙女だったようだ。
それにしてもどうしよう、この状況······。
「これは何の騒ぎだ!? ここで何をしてい······」
そんな時、騒ぎを聞きつけたリイネさんが、勢いよく入口の扉を開けて入ってきた。
さすがに、これだけ騒いだのだから戦闘音が外まで響いていたのだろう。
でも、ここは一応、男湯なので入ってくるのは躊躇してほしかった。
突然入ってきたリイネさんに、オレは対応出来ずに立ち尽くしていた。
せめて咄嗟に身体を隠すなり、すればよかった。
何も身に付けていないオレの姿を見て、リイネさんの表情が赤く染まっていく。
「きゃああああっ!!?」
リイネさんの悲鳴が響いて、騒ぎがさらに大きくなってしまった。