閑話⑱ 8 〝銀〟の殺戮人形
風呂場でのんびりするつもりが、男湯に次々と乱入者が現れていた。
人形娘達にディリーとアトリに続いて、天井を突き破り、銀髪の女性が姿を現した。
この人は裸ではなく、銀色を強調した衣装を身に付けている。
この女性はシルヴァラという、人形娘達のリーダー格のアウルムを補佐するサブリーダー的存在だ。
サフィルス達は少女という外見だが、この人はアイラ姉のような少し大人びたお姉さんって感じだな。
どうやら他に連れはいなく、単独で来たっぽいが。
[シルヴァラ] レベル―――
〈体力〉――――/――――
〈力〉650000〈敏捷〉828000〈魔力〉976000
〈スキル〉
――――Unknown――――
以前は鑑定魔法を弾かれたが、今回は表示された。とは言っても、レベルとスキルは見えないが。
かろうじて、ステータスの数値だけは表示されているな。
他の人形娘達と比べて、桁違いに高い数値だ。
(超越者)のスキルを得る前のオレでは、とても敵わなかっただろう。
今のオレならステータス数値だけは上回っているが、見えないだけで、おそらくは特殊なスキルも持っているはず。
戦いは避けたい相手だな。
「――――――アーテル、アルブス。勝手な行動はここまでだ。共に帰還するぞ」
シルヴァラは、どうやら二人を連れ戻しに来ただけのようだ。
穏便に済ませられればいいのだけど、二人は首を横に振っている。
「――――――シルヴァラ、それは横暴」
「――――――サフィルスとヴェルデも、この場にいます。アタシ達だけ強制送還はズルいです」
まあ、二人の言う事も一理ある。
だが、一応、サフィルス達はトゥーレミシアから許可をもらって、ここにいるんだけど。
このまま二人が拒否し続けて、シルヴァラが実力行使に出ても困るから、オレから助け舟を出すか。
「えっと、シルヴァラさん、でいいんだよね? 二人もまだ来たばかりだし、ここは······」
「――――――っっ!!?」
オレが二人の前に立ち、そう言ったら、シルヴァラは突然慌てたように視線を横に逸らした。
何か様子が変だな? どうしたんだろうか?
「――――――ち、近寄るなっ! そんな格好で我に迫り、な、何をしようというのだ!?」
シルヴァラにそう言われて、オレは自分が裸だということを思い出した。
男に対する免疫がないのか、シルヴァラは手で目を隠し、赤面しながらも、チラチラとこちらを見ている。
他の人形娘達は男の裸を見ても、大した反応を見せなかったのだが、彼女の反応はなんだか初々しい。
オレも恥ずかしくなってきたので、タオルを巻いて、とりあえず下を隠した。
「――――――ぐ、創造主の言う通り、やはり貴様は危険人物のようだな! 無垢なサフィルス達を裸に引ん剥き、ここで酒池肉林を催していたのだろう! 創造主に代わり、我が貴様を殲滅してくれる!」
いやいや、酒池肉林って······。
冷静なお姉さんタイプかと思ったら、目をグルグルさせて、テンパった様子でそんなことを言い出した。
なんだか見た目とのギャップが可愛らしい······なんて言ってる場合じゃないか。
「――――――シルヴァラ、主人への手出しはさせません」
「――――――主人は悪い人じゃない!」
サフィルスとヴェルデがオレを庇うように前に出てきた。
「マスターはディリーが守るですです!」
「マスター様、お下がりください」
ディリーとアトリも同じくオレを庇ってくれている。けど、今の状況で言うのもなんだけど、皆バスタオルくらい巻いて、身体を隠してほしい。
「――――――邪魔立てするな! 全員、おとなしくしていろ」
シルヴァラの両眼が怪しく光ると、オレ以外の全員が倒れ込んでしまった。
オレの前に立っていた四人だけでなく、アーテルとアルブスも同様だ。
〈(魔眼)の効果を抵抗しました〉
〈(邪眼)の効果を抵抗しました〉
オレのステータス画面にそんな表示が出ていた。
これはシルヴァラのスキルの効果か。
オレには(全状態異常無効)スキルがあるので効果ないが、他の皆は身体が麻痺したり、一部が石化したりで、行動不能にされていた。
命に別状はなさそうだが、レベル900を超える人形娘達やディリーとアトリを一瞬で無力化するとは······。
「――――――やはり、貴様には効果ないのか。ならば、これならどうだ!」
再び、シルヴァラの両眼が光る。
先ほどとは光の強さが違う気がするな。
別のスキルを使ったのか?
〈(死眼)の効果を抵抗しました〉
〈(呪眼)の効果を抵抗しました〉
新たにそんな表示が出てきた。
無効化したから、どんな効果かわからないけど、名前からしてヤバそうなスキルだ。
「――――――これすらも効果ないとはな。搦め手は通用しないと見るべきか」
シルヴァラの両眼から放たれていた光が消えた。これで諦めてくれたらよかったんだけど、そう簡単にはいかないようだ。
どうやら本気になってしまったみたいだな。