閑話⑱ 7 新たな殺戮人形の来襲
とりあえず、王都の観光に向かう前にアーテルとアルブスを学園の入浴施設に連れて来た。
散々、魔法合戦をやり合っていたので、グラウンドの土や砂埃を被って結構汚れていたからな。
洗浄魔法である程度キレイに出来るけど、せっかくお風呂があるんだから、そっちで洗い流した方がいいだろう。
そもそも、オレもエルフの里での疲れを癒すために入りたいと思っていたし。
「それじゃあ、ディリー、アトリ、頼んだよ」
「はいですです!」
「お任せください、マスター様」
男湯に入れるわけにはいかないし、かと言ってオレは女湯には行けないので、ディリーとアトリに二人にお風呂の入り方を教えるようにお願いした。
ついでにサフィルスとヴェルデも少し汚れていたので、一緒に向かわせた。
あの二人はもう何度も入っているので、ディリー達と一緒に教えてあげられるだろうしね。
こうやって、アーテルとアルブスには少しずつ人族の常識を教えていった方がいいだろう。
というわけで、オレはのんびり一人で入らせてもらおう。
幸いにも男湯の方は、今の時間帯は誰もいなく、オレの貸し切り状態だった。
そうしてオレは一人でのんびり入っていたのだが、しばらくしたら女湯の方が騒がしくなってきた。
やっぱり、あのメンバーで静かに入るのは無理だったのかな?
――――――――――バッシャアアーーン
そう考えていたら、男湯と女湯を隔てている壁の隙間から、ヴェルデが現れて、湯船に浸かっていたオレ目掛けて突っ込んできた。
以前も、あの隙間からルナシェアと霊獣のフェルが飛び込んできたことがあったな。
「――――――主人、ヴェルデ主人と一緒に入る!」
いつものようなパターンだと、もしかしたら誰かが男湯に乱入して来るかなと思っていたが、本当に来るとは······。
ヴェルデは裸でバスタオルすら身に付けていない格好だ。当然、オレも裸だが、ヴェルデは気にした様子もない。
「ヴェルデ、こっちは男湯だから入っちゃダメだと言われているだろ?」
「――――――やだ、主人と一緒がいい! 主人の側だと安心できる。また、あの怪人が現れたら怖い!」
一応、宥めてみたが、ヴェルデは戻ろうとしない。その怪人って多分、例の仮面男のことだよな?
その正体はオレなんだけど、いいのだろうか?
「勝手に入っちゃダメですです!」
「おとなしく戻りなさい」
ディリーとアトリもヴェルデを追って、壁の隙間から入ってきた。
当然のことながら、二人ともヴェルデと同じく裸だ。このパターンだと、おそらくは······。
「「――――――メイド長達が先に入っていったのなら、あたし(アタシ)達もこちらに来ても問題ない(ですよね)?」」
「――――――それなら、私も主人と共にします」
やはり、アーテルとアルブスもやってきて、さらにその後を追ってサフィルスも入ってきた。
静かだった男湯が一気に騒がしくなってしまった。
せめてバスタオルくらい巻いて身体を隠してくれないだろうか?
人形娘といっても、見た目は普通の人間と何も変わらないんだから。
全員、恥じらいもなく身体を曝け出しているので、本気で目のやり場に困る。
ディリーとアトリが、オレに貼り付いていたヴェルデを強引に離した。
「――――――ヴェルデ、暴れるとまた主······いえ、あの仮面の男が現れるかもしれませんよ?」
ヴェルデがさらに抵抗しようとしたが、サフィルスのその言葉で動きを止めた。
サフィルスには仮面の男の正体は誰にも話さないように言ってあるので、ヴェルデ相手にも隠してくれた。
正直、すごく助かる。
ヴェルデが仮面男の正体を知ってしまったら、どこで口を滑らせるかわからない。
ヴェルデは先ほどのことを思い出したのか、ガタガタ震えながら縮こまってしまった。
そんなヴェルデを他の人形娘とディリー達が慰めている。
あの様子のヴェルデを放置するのは悪いけど、今の内にこの場から脱出しようかな。
とりあえず、全員が裸になっているこの状況は色々とマズすぎる。
オレはこっそりと湯船から出て、風呂場から出ようとした············。
――――――――――!!!!!
今度は壁の隙間からではなく、風呂場の天井が崩れて、何かが降りてきた。
次々と一体何なんだ!?
現れたのは銀色の髪と翼を靡かせた見覚えのある人物で、サフィルス達と同じく、トゥーレミシアが従える殺戮人形の一人だった。
確かシルヴァラという名で、人形娘達のサブリーダー的存在だと聞いたな。
容姿もサフィルス達と似ているが、若干、年上っぽい見た目をしている。
「――――――やっと見つけた。アーテル、アルブス。勝手な行動は慎み、さっさと帰還しろ」
シルヴァラは二人を見るなり、そう言った。
もしかして、二人を連れ戻しに来たのかな?