閑話⑱ 1 人形娘達のじゃれ合い合戦
トゥーレミシアはエルフの里で特に何かすることなく、メアルさん達と談笑し終えたら、パールスを連れて帰っていった。
パールスは最後まで残りたがっていたが、創造主には逆らえず、引きずられるように、お持ち帰りされていた。
「天使族の遺跡なんて面白そうな場所、アチシだって行きたいのに〜!!」
残されたメリッサも、こっちはこっちで少し不満そうにしていた。
近い内にトゥーレミシアと殺戮人形総出で、遺跡の調査をするとかで、メリッサだけはお留守番を命じられたからだ。
まあ、シノブやスミレに慰められているので、すぐに機嫌も直るだろう。
パールスやメリッサを見ていたら、王都の学園に残してきたサフィルスとヴェルデの様子が気になったので、転移魔法で戻ってみることにした。
グラムや他のメイドさん達は、学園長達とエルフの里の復興に協力しているので、まだこちらに残ってもらっている。
エンジェは、エルフの長老と面識があるらしく、何か色々と話をしていた。
龍人族の王とも面識あったり、顔が広いものだ。
「ではでは、マスターにお供するですです」
「騒ぎを起こしていたりすれば、わたしが責任持って溶かしますので、お任せください、マスター様」
まあ、というわけで、とりあえずはサフィルス達の教育係をしていたディリーとアトリの二人を連れて、王都に転移した。
メイドさん達をこちらに呼び寄せて、サフィルスとヴェルデの二人だけ残す形になってしまったが、グラムは今日の仕事はもう終わったと言っていたし、いくらあの二人でも騒ぎを起こしたりはしていないだろう。
――――――――――!!!!!
そう思っていた時期もありました。
転移した直後に、爆発音と思われる衝撃が飛んできた。学園のグラウンドの方からかな?
オレは急いで向かってみた。
グラウンドでは多くの生徒が集まっていた。
もう授業も終わり、放課後になる時間帯だ。
授業の一環ではなさそうだが······。
「レイさん〜、助けてくださいよ~!」
「今までどこ行ってたんだよ。こっちは今、大変な事になってんだぞ!」
オレを見るなり、そう言って寄ってきたのは、メイドさん達と一緒に学園の雑用を任せていた、魔人族のレニーと幻獣人族のユヅキだ。
何があったんだ、一体?
「急にメイドさん達がいなくなっちゃったんですよ〜! そうしたら、ヴェルデさんが皆、自分に内緒で遊びに行ったんだって騒ぎ出して······」
レニーの説明で、なんとなくだが情景が目に浮かんできた。
やはりというか、メイドさん達全員をエルフの里に喚び出したのはマズかったかな?
ということは、グラウンドで暴れているのはヴェルデなのか?
そう思って覗いてみると······。
「――――――サフィルス、早く言う」
「――――――ヴェルデ、早く答えなさい」
「「――――――貴女達が主人登録している、レイ様はどこに行った(のですか)?」」
黒髪と白髪の少女がサフィルスとヴェルデを相手に戦いを繰り広げていた。
一体どういう状況だ?
黒髪と白髪の少女は······アーテルとアルブスだ。
サフィルス達と同じ殺戮人形で、トゥーレミシアがどこかへ黙って出掛けたとか言っていたので、もしやと思っていたが、ここに来ていたのか。
「ヴェルデさんが暴れようとしていたところを、サフィルスさんや王女様達が止めようとしていたんです。そんな時に、あの黒髪と白髪のトゥーレミシア様の人形が現れて······」
レニーが説明を付け加えてくれた。
王女様というと、リイネさんのことか。
ヴェルデが騒ぎを起こしかけていたところに、アーテルとアルブスが現れて、さらにややこしいことになったと。
そして、どうやら会話の内容から、あの二人はオレのことを探しているみたいだ。
以前、別れの際に、また来ると言っていたからな。
けど、どうしてここがわかったんだ?
以前、会ったのはクラントールという、アルフィーネ王国とは違う国にある町だ。
この学園にいることは話していなかったはずだが。
殺戮人形達はお互いに気配を感じ、居場所がわかるらしいから、サフィルス達の気配を追って、ここに来たのかな?
いや、今はそんなことどうでもいいか。
それよりも、サフィルスとヴェルデ、アーテルとアルブスの戦いを止めるのが先だな。
かなり激しく戦っていたようで、グラウンドがボコボコになっていた。
冥王アジュカンダスと戦っていた時よりも、被害は甚大かもしれない。
リイネさんやキリシェさん、ロディン、そしてミウやユーリなど、高レベルの人達が周囲に被害が出ないように結界を張っているのが見える。
集まっている生徒達は、まるでお祭りのように楽しんで見学しているようだ。
一般生徒はサフィルス達をメイドさんの一員くらいにしか認識していないはずだし、催し物の一環とでも思っているのかな?
多分、リイネさん達が騒ぎを大きくしないために、そういうことにしてるんだと思う。
「マスター、ディリー達に任せるですです!」
「全員まとめて溶かしてまいります」
どうしようか考えていたら、ディリーとアトリが止める間もなく、突進していった。
これ以上、事態をややこしくするのは、やめてくれ。