500 戦い終わって平和な談笑?
ダルクローアの暗躍と世界樹の暴走によって、エルフの里はかなりの被害が出てしまったが、犠牲者が出ることは避けられたので、取り返しのつかない事態にはならずに済んだ。
他の皆と復興に協力しているので、それほど時間はかからずに元通りの日常を取り戻せそうだ。
「あなた達にも改めて礼を言わせてもらうよ。特にレイ、だったね? お前さんに娘達は惚れ込んでいるそうじゃないか」
「お、お母さん······!?」
メアルさんの言葉を聞いて、エイミが慌てた反応を見せる。
ミールは冷静な様子だが、少しだけ頬が緩んでいるように見える。
「さっきの戦い振りを見るに、デューラ並に見所ある男じゃないか。あたしの娘だけあって、見る目があるものだよ」
そうやって褒めてくれるのは嬉しいけど、どこか気まずくもある。
オレはまだ、ミールに告白されて返事をしていないのだから。
それと、エイミには告白されたわけじゃないんだけど、ミール同様にオレのことを想ってくれているのだろうか?
「けど、もし······あたしの娘達を泣かすようなことをしたら、タマ握り潰して使えなくするからね?」
最後にメアルさんが、笑顔でゾッとするような怖いことを言ってきた。
これは本当にミールへの返事は真剣に考えなくてはならないと、改めて思った。
「改めて礼を言わせてくれ。お前達がいなければ、俺はダルクローアの手中に収まったままだったかもしれない」
「礼には及ばない。こちらも、出来ることをしただけだ」
デューラさんも改めて、アイラ姉にお礼の言葉をかけていた。
アイラ姉もそれに応え、笑顔で握手を交わしていた。おや、デューラさんは幽体の身体でも、すり抜けることなくアイラ姉と握手出来ているな。
「一時は魔王の座に着く候補だった俺が、人族の勇者に助けられるとはな。冥王の使いにも世話になってしまったし、何が起きるか、わからんものだな」
デューラさんが自嘲気味にそう呟いていた。
ちなみに、メアルさんとデューラさんを消滅の危機から救ったフルフルは、他の幽体や傀儡兵達に守られるように休んでいる。
まるで女王のように扱われているな。
フルフル達は、後はエルフから世界樹の枝を受け取るだけなので、復興作業に干渉するつもりはないようだ。
「ふふっ、幽体となっても相変わらずそうね。デューラ、それにメアル」
聞き覚えがある声がしたので、反射的に振り返った。やはりというか、そこにいたのはメリッサとパールスの真の主である魔人族の神将トゥーレミシアだった。
パールスが傷付けられたことを知り、文句を言いに来るかもとは聞いていたが、いくらなんでも行動が早すぎじゃないか?
「トゥーレ、お前が何故ここにいる? まさか、ダルクローアと手を組んで、お前もエルフの里を······」
「嫌な誤解をしないでちょうだい、デューラ。私があんな奴と手を組むわけないでしょう」
デューラさんの疑問を、トゥーレミシアは心底嫌そうな顔で否定した。
ま、本当に手を組んでいたら、メリッサやパールス、それに他の人形達が、傀儡兵と共にエルフの里を攻めていたかもしれない。
そんなことになっていたら、勝つのは難しかっただろうな。
トゥーレミシアが多種族の領域への侵略に積極的ではないことと、ダルクローアに人徳がなくてよかった。
「今は旅する人族トゥーレよ。私はエルフの里を害する気はないから、安心してね」
どうやら、今は変装用の魔道具と認識阻害の魔法を駆使して、身分を隠しているらしい。
確かに、もともと人族に近い容姿だったけど、肌の色とか雰囲気も変わっていて、今のトゥーレミシアはただの人族にしか見えないな。
まあ、魔人族······それもダルクローアと同じ神将だと、エルフ達に知られてしまったら、それだけで大騒ぎになりかねないからな。
一応、エルフの里には観光目的などで、多種族も出入りしているので、騒ぎさえ起こさなければ、問題ないだろう。
「娘達と無事に再会出来てよかったわね。これでも、その子達のこと、気にかけていたのよ」
トゥーレミシアがエイミとミールに目を向けて言う。以前、二人に居場所がないなら魔人領に来ないかと誘っていたし、本当に気にかけていてくれたからな。
「気にかけてくれていたのは嬉しいが、お前の所の人形と娘達を一緒にするのは、別の心配が出てくるんだが······」
「あの人形達なら遊び半分で、娘達を解体しかねないからね」
「久しぶりに会ったというのに、ずいぶん言ってくれるわね。私の可愛い子達がそんなことするわけないじゃない」
デューラさんとメアルさんの言葉を、トゥーレミシアが否定している。
いや、オレもデューラさん達がそう危惧するのは正しいと思うけどな。
悪い子達じゃないんだけど、無邪気さ故の危なっかしさがあるし。
それにしても、トゥーレミシアとメアルさん達はかなり親しげな感じなんだな。
そんな感じに三人は平和(?)な会話を楽しんでいた。
「あっ、やっぱりトゥーレだ!」
「――――――創造主の気配するな〜、思うたけど、ほんまに来てたんか〜」
向こうの方でシノブ達と談笑していたメリッサとパールスが、トゥーレミシアが来たのに気付いて、こちらに走ってきた。
「さあ、パールス。一度帰るわよ? 〝核〟を傷付けられたのだから、ちゃんと精密検査をしないとね」
トゥーレミシアがエルフの里を訪れた目的は、パールスを連れ帰ることだったようだ。
オレに対して、何か文句を言ってくるかと身構えていたけど、結局特に何も言って来なかった。
「――――――え〜、ウチは大丈夫やて。心配あらへんで、創造主」
「そんなことわからないわよ。あの男に傷付けられたのだから、何か仕組まれている可能性もあるわ」
トゥーレミシアは相当にダルクローアのことを信用していないようだな。
まあ、トゥーレミシアの言いたいこともわかる。
傀儡兵ように、魔虫や何か特殊な物を植え付けたりしていても不思議ではない。
「――――――いやや〜、マスターはんから離れとうない〜」
「我儘言わないの! どのみち、近い内に全員招集するつもりなんだから、一足先に帰るだけと思いなさい。サフィルスとヴェルデも、今度連れ帰るわよ」
駄々をこねるようなパールスにトゥーレミシアが一喝する。
親子みたいで微笑ましいけど、気になることも言ったな。
「近い内に全員招集するって、何かあるの?」
オレは思い切って聞いてみた。
パールス達は殺戮人形と呼ばれ、高い戦闘能力を持っている。
殺戮人形は全部で11体いて、全員がレベル900を超えるほどの強さだ。
そんな彼女達を全員集めるって、穏やかじゃないんだが。
「ま、隠すほどのことじゃないし、教えてあげるわ。とある場所に天使族に由来する遺跡を見つけたのよ。そこの調査をするためよ」
ちょっと考えていたが、トゥーレミシアは割りかし、あっさり答えてくれた。
天使族って······確か、はるか昔に神をも超える力を手に入れたと言われる種族で、本当にいたかどうかもわからないし、存在してたにしても、すでに滅びたって聞いた覚えがあるな。
遺跡の調査って、トゥーレミシアは考古学にでも精通しているのだろうか?
「何が起きるかわからないから、私の持つ最高戦力で調査に向かうつもりなのよ」
それで高い戦闘能力を持つ人形を護衛代わりにするつもりなのか。
悪巧みをしているとかではなさそうだけど、天使族由来の遺跡に何があるのか、気になるな。
「ねえ、トゥーレ。アチシはアチシは?」
「あなたはお留守番よ。今まで通り、ここで過ごしていていいわよ」
メリッサが遺跡の調査と聞いて、興味を示していたが、トゥーレミシアは連れて行かないつもりらしい。
「ええー、天使って、すっごい力を持ってるらしいじゃん。アチシも戦ってみたい〜!」
「ただの調査よ。何が起きるかわからないって言ったでしょ? 悪いけど、あなたじゃ力不足よ。それにまだ下調べ段階で、本当に天使族の遺跡かもわかっていないのよ」
今度はメリッサが駄々をこねていて、トゥーレミシアが優しく諭している。
パールスもまだ納得してなさそうだし、トゥーレミシアも説得に苦労しそうだ。
「そういえば、アーテルとアルブスはこっちに来てないのよね?」
トゥーレミシアが、オレにそんなことを聞いてきた。アーテルとアルブスって、確か黒髪と白髪の子達のことだよな。
「いや、知らないけど」
「あの子達も、勝手にどこかに出掛けちゃったのよね。感覚共有も遮断してるから、行き先を掴めないし。認めたくないけど、あの子達もあなたのことを気に入っていたから、てっきり、こっちに来てると思ったのだけど」
トゥーレミシアがそう言うが、オレは本当に何も知らないぞ。
「ま、強制招集をかければいいだけだから、しばらくは自由にさせてもいいのだけど」
どうやら、どこに行ったかわからなくても強制的に連れ戻すことが出来るらしい。
人形達の意思を尊重して、なるべくやりたくないみたいだけど。
ていうか、パールス達もそうだけど、自分の人形を自由にさせすぎじゃないか?
それにしてもアーテルとアルブスが行方不明か。
ちょっと、騒動が起きるかもしれない、そんな不安がよぎった。