494 エルフの里での最終決戦⑪
神具による攻撃を受けて、消滅しかけていた冥王が、霧状となってダルクローアの全身に纏わりつき、全魔力を解放した。
「ギィイイイイッッ!!??」
冥王の解放した魔力が、ダルクローアと一体化している神具に流れ込んでいる。
魔物化している神具は苦しげな叫び声をあげた。
「め、冥王······貴様、やめろ······!!」
ダルクローアが自身に纏わりついている、霧状の冥王を振り払った。
だが神具は未だ苦しみ、暴れている。
「よそ見をするとは余裕だな、ダルクローア!」
「デューラ殿、一気に行くぞ!」
そのタイミングでデューラさんとアイラ姉が、抑え込んでいたダルクローアの魔法をそのまま奴に弾き返した。
「なっ、ぐ······ああーーーーっ!!?」
神具の暴走に気を取られていたダルクローアは、避けることも出来ずに直撃した。
奴の放った魔力の塊は、かなりの力が込められていた。さすがに無事には済まないはずだ。
「テュサ様!?」
消えかけている冥王に、フルフルが駆け寄る。
神具の攻撃に貫かれ、残っていた全魔力も解き放ってしまったので、もう冥王の身体は形を保つこともままならない状態だ。
「フルフル、見ての通り僕はこのざまダ。わかっていると思うケド、僕の本体は忙しくて手が離せナイ。後のことは任せたヨ」
そう言うと冥王がフルフルに何かを渡した。
あれは、エイミとミールに埋め込まれていた呪石か。
「その呪石と世界樹の枝を、必ず持ち帰ってくるんダヨ。期待しているかラネ、フルフル」
「はい、お任せください! 万が一、エルフ達が約束を違えようものなら、里ごと根絶やしにしますから!」
冥王の言葉に、フルフルは物騒な返答をする。
エルフと精霊が力を込めた世界樹の枝を使って、何をするつもりなのか、少しばかし不安もあるが、冥王がエルフ達のために力を尽くしてくれたのも事実。
エルフ側も、冥王と敵対するような対応は取らないだろう。
「レイも、後は頑張ってくれヨ? 仮の肉体とはいえ、僕がここまでやったンダ。神将ごときに遅れを取らないでくれヨ」
冥王がオレの方にも目を向けて、そう言ってきた。言われなくても、これ以上奴の好きにさせるつもりはない。
「ああ、ここまで協力してくれて感謝するよ」
「ちょっと、アンタ! テュサ様に馴れ馴れし過ぎるのよ!」
オレが冥王の言葉に答えたら、横でフルフルが文句言ってきた。怒り心頭のフルフルを、冥王が宥めた。
「構わないサ、フルフル。レイ、万が一死んでしまっても、フルフルの力があれば僕達の仲間になれるだけだから、安心していいからネ〜······――――」
そんな言葉を残して、冥王は消えていった。
死んだら幽体になれるってか?
メアルさんやデューラさんを見るに、幽体もそんなにイヤな存在ではなさそうだが、死ぬのなんてどちらにしろ御免だ。
「お、おのれ冥王······! いずれ必ず、冥界に赴き、この手で本体を討ち滅ぼしてやりますよ······!」
ダルクローアが立ち上がり、忌々し気に口を開く。さすがに無傷ではないが致命傷には至っていないか。
だが、腕に一体化している神具はもうボロボロで使い物になるようには見えない。
冥王の後押しで、かなり追い詰めることが出来たな。
「それは無理だな、ダルクローア。貴様はここで滅びる。もう何者も、貴様の目的の犠牲にはさせん」
デューラさんが剣を構え、ダルクローアの前に立つ。アイラ姉もデューラさんと共に、油断なくダルクローアを見据えている。
「くっ······ヒッヒッヒッ、私を滅ぼす? 残念ながら、私は滅びませんよ。滅びるのは、あなた方なのですから!」
不気味に笑うと、ダルクローアは地面に神具を突き刺した。神具で周囲の力を少しでも吸収して、回復を図っているのか?
「ギ、ギィィ············」
魔物化した神具は弱々しい声を出している。
やはり冥王の最後の攻撃が相当に効いているみたいだな。そんな神具を、ダルクローアは無理矢理に扱っている。
「ヒッヒッヒッ、もう世界樹もエルフも必要ありません。勇者ともども、全て滅びてしまいなさい!」
壊れそうな神具の様子などお構い無しに、ダルクローアは吸収した力を解放させた。
奴を中心に、全方位に高威力の魔法攻撃が放たれる。本気で自分以外の存在を排除する気だな。
オレはシノブ達と協力して、自身と世界樹を守るように魔法障壁を張った。
メリッサやパールス、そしてルナシェアも力を貸してくれている。
フルフルや配下の幽体達も、オレ達の張った障壁に隠れて凌いでいる。
アイラ姉とデューラさんなら、自力でなんとか出来るだろう。二人に余計な心配をさせないように、周囲の安全はオレ達が守ろう。