493 エルフの里での最終決戦⑩
オレは奈落の剣を構えて、ダルクローアに向かって駆け出した。
ダルクローアや魔物化した神具は攻撃をアイラ姉達に集中しているので、オレの存在に気付いていないみたいだから今がチャンスだ。
「神魔斬衝剣!!!」
不意打ち気味にオレは(神聖剣術)でダルクローアに攻撃した。
全力での一撃だったが、奴の身体に弾かれ、貫くことは出来なかった。
「男の勇者の方も来ましたか。ですが、魔神様の力を得た今の私には到底、敵うはずありませんよ······!」
神具の刃の触手がこっちにも飛んできた。
オレは武器で弾き返したが、奴の猛攻は止まらない。一撃一撃がとんでもない威力で気が抜けない。
だが、フルフルに強化してもらった奈落の剣は、神具の攻撃にもなんとか耐えている。
「レイ、下がれ! 終の太刀、幻想無限桜!!」
アイラ姉の声が聞こえたので、オレは一度、神将から距離を取った。
それと同時にアイラ姉が自身のオリジナル奥義を奴に向けて放った。
神具はダルクローアの力を吸収して、自身を強化している。アイラ姉は、まずは奴と神具を切り離そうとしての攻撃だったが、神将の身体を斬れずに弾かれた。
そして、その衝撃でアイラ姉の持つ魔剣の刀身が砕け散った。
その隙を見逃さず、ダルクローアはアイラ姉に攻撃を仕掛けた。
「消えなさい、女勇者! 破滅的終焉!!」
神具が絡み付いていない方の手から、魔法を放ってきた。
あれは「闇」属性······いや、いくつもの属性が混ざり合った複合魔法か?
ともかく、高純度の魔力の塊がアイラ姉を押し潰そうと迫る。いくらアイラ姉でも、あれが直撃したらヤバい!
だが、攻撃態勢から回避に移るまでの時間が無さ過ぎる。あれでは避けられない······!?
――――――――――!!!!!
ダルクローアの攻撃が、アイラ姉に直撃した······と思ったが、違う!?
「そうそう、貴様の好きにはさせんぞ! ダルクローア」
「デューラ、貴様······!!? またも私の邪魔をするつもりですか」
デューラさんがアイラ姉の前に立ち、奴の魔法を防いでいた。今更だが、デューラさんの武器······並の性能じゃないな。
アイラ姉がスキルで強化した魔剣以上だ。
「世界樹の精霊よ、お前達が敬愛するメアルとエルフ達を守るためだ。今こそ俺に力を貸してくれ······!」
「デューラ殿、そのまま緩めるな······!」
デューラさんが剣を持つ手に力を込める。
デューラさんの剣には、精霊の力も宿っているのか。それでも、ダルクローアの魔法を完全に弾き切れていない。
アイラ姉も体勢を立て直して、デューラさんに力を貸した。
「ギィイイイイッ!!!」
そんなアイラ姉達に、魔物化した神具が無数の触手を伸ばし、追い打ちをかけてきた。
もう少しで奴の魔法を弾き返せそうだったところに、神具の追い打ちはマズい!
――――――――!!!
神具の触手は、アイラ姉達を襲う前に止まった。
神具を止めようとオレも動いていたが、それよりも早く動いた存在がいた。
「世界樹、か」
「どうやら世界樹自身が私達を味方してくれたようだな」
アイラ姉達が言うように、世界樹の枝や根が、迫る神具の攻撃を防いでいた。
やはりというか、今更だが世界樹は自分の意思を持っているのか。
暴走していた時は無差別に襲いかかってきていたが、神具から解放されて正気に戻ったのかな?
ところどころ枯れているけど、世界樹の力は神具の攻撃を受け止められるほどに強い。
「世界樹が······まだ、そんな力が残っていたのですか。ならば、ひと思いにトドメを刺して差し上げましょうか!」
ダルクローアが今、吸収されている分に加え、さらに神具に力を与えている。
それによって神具の形状がまたも変化し、三叉の槍となった。そして三叉槍となった神具を世界樹に向けて、突き立てた。
――――――――――!!!!!
「おっと、僕の存在を忘れないでくれヨ?」
冥王が世界樹と神将の間に現れ、神具での攻撃をその身で止めていた。
冥王の半透明の身体が神具に貫かれているが、そのおかげで世界樹にはギリギリ届いていない。
「冥王、身を持って世界樹を守りますか。なかなかに似つかわしくないことをしますね······」
「僕だってこんなこと、らしくないと思うけどネ。ま、世界樹を失うわけにはいかないかラネ」
「ならば、そのまま消え失せなさい!」
神具での攻撃は幽体である冥王にも効いているらしく、冥王の身体から徐々に力が失われていくのが見て取れる。
さらにダルクローアが神具に魔力を流し込み、冥王に追い打ちをかけた。
それが致命傷になってしまったようで、かろうじて形を保っていた冥王の身体が霧散していく。
「あア、この仮の肉体もここまでか······。お前ごときにやられるなンテ、一生の恥になるネ」
「口だけは、よく回りますね。冥王といえど、分体もどきでは何も出来ないのですよ」
自嘲気味に冥王が口を開く。
それを聞き、ダルクローアは鼻で笑うように言う。
「何も出来ない、か······。なら、僕の最期の嫌がらせを受け取りナヨ。どうせ、このまま消えるくらいナラ、残された全魔力をお前にくれてやるヨ」
「なっ!? き、貴様······待ちなさ――――」
霧のように消えかけていた冥王が、ダルクローアの全身に纏わりついた。
ダルクローアは引き剥がそうとするが、幽体の身体は物理的に触れられず、対応が一歩遅れた。
次の瞬間、冥王が自身の持つ全魔力を解放した。