488 エルフの里での最終決戦⑤
(ルナシェアside)
神将によって世界樹に神具が突き刺されたことで、大暴走を引き起こされたであります。
神具の力の影響で、世界樹はみるみる枯れていき、その苦しみによって暴れているように見えるであります。
早く、あの神具を世界樹から抜かなくては······!
「やってくれるネ、神将」
「ヒッヒッヒッ、早くしないと世界樹が枯れてしまいますよ? 楔を抜き、ただでさえ力を消耗していたのですから、あまり時間はありませんが」
冥王が忌々し気に神将を睨んだであります。
冥王の目的は、エルフと精霊の力が込められた世界樹の枝を手に入れることでありましたから、その世界樹が枯れてしまったら目的を果たせなくなるであります。
冥王は神具の排除に向かいたくとも、神将がそれを阻止しているという状況であります。
ここは小生達がなんとかするしかないであります!
「ルナシェア殿、「聖」なる力で世界樹の暴走を抑え込めるでござるか? 少しでも抑えられれば、拙者が世界樹に刺さっている、あの神具とやらを引き抜くでござる」
シノブ殿がそう提案してきたであります。
小生の聖女としての力を全力で使えば、少しくらいなら、世界樹の暴走を止められるはずであります。
神具は触れるどころか、近付くだけでも生命力を吸われてしまうでありますが、シノブ殿なら世界樹から抜くことは可能かもしれないであります。
「わかったであります。シノブ殿、お願いするであります!」
「任されたでござる!」
シノブ殿の提案に乗るであります。
小生は「聖」魔法を唱えるため、構えたであります。しかし、そこに暴走した世界樹の枝が襲いかかってきたであります。
「············ボクも力になる」
「にししっ、アチシ達のことも忘れないでよ!」
「――――――ウチらじゃ神具には触れられんし、シノブはん、よろしゅう頼んますわ〜」
スミレ殿、メリッサ殿、パールス殿がそれぞれ小生達の前に立ち、暴走する世界樹の攻撃を防いでくれたであります。
「世界樹がダメになったら私達も困るんだからね! 上手くやりなさいよ、アンタ達!」
さらにはフルフル殿も皆に協力して、力を貸してくれたであります。
この機を無駄にしないであります!
「ソウル·アセンション!!!」
小生の使える最高の「聖」魔法であります。
空より「聖」なる光が降りそそぎ、世界樹の力を弱めることに成功したであります。
やはり「聖」魔法なら、世界樹を傷付けることなく、上手く抑え込めたでありますな。
「今が好機、でござる!」
暴走が緩んだことで道が拓き、シノブ殿が世界樹に刺さる神具に向けて跳んだであります。
神将も冥王の相手に手いっぱいで、シノブ殿を止める余裕はないはずであります。
「おおっ、小さな勇者ちゃん、やるネ〜」
冥王が神将との戦いの最中、世界樹に向かうシノブ殿を横目に見て、そうつぶやくのが聞こえたであります。
世界樹まで跳んだシノブ殿は上手く神具を掴み、力を込めて抜こうとしたであります。
しかし、神具はビクともしない様子であります。
「ヒッヒッヒッ、無駄ですよ。勇者といえど、我が神具を扱うなど出来るはずありません」
神将は神具を掴むシノブ殿を見ても余裕そうな様子であります。
シノブ殿は幼いながら、決して非力ではないであります。それどころか、この場の誰よりも力が強いはずであります。
そんなシノブ殿でも、神具を引き抜くことが出来ないでありますか······!?
「くううっ······まだ、でござる! 拙者は、諦めないでござるよ······!!」
さらに力を込めるシノブ殿。
すると、神具が僅かに動いたであります。
「バ、バカな、何故抜ける······!? そもそも、神具に触れて無事でいられるはずが!? くっ、これ以上、好きにはさせませんよ······!」
シノブ殿が神具を抜きそうになったのが、相当な衝撃であったようでありますな。
神将の余裕が崩れ、周囲に魔力を撒き散らすように解放したであります。
それによって世界樹の暴走が、より激しくなったであります。
「聖」魔法でも抑え切れないほどに······。
「うっ、しまったでござる······!?」
暴走する世界樹が激しく揺れ、シノブ殿を振り落としたであります。
さらには上からは枝、地中からは根が、シノブ殿を追撃したであります。
「············これ以上は、ボクの力でも······」
こちらでは、スミレ殿達に対する世界樹の攻撃も苛烈さを増し、抑え切れなくなっているであります。
メリッサ殿とパールス殿も地中からの根に巻き付かれ、身動き取れない状態になったであります。
小生も一度、放出している「聖」魔法を解き、迎撃の準備を······。
――――――!!!
しまったであります!?
世界樹の根に足を取られ、バランスを崩したであります。そんな小生の隙を逃さず、上からは無数の枝が迫ってきたであります。
世界樹の枝の先は、鋭利な刃物のようになっていて、今の状態では避けることが出来ず、このままでは串刺しになるであります。
――――――――――!!!!!
死を覚悟したでありますが、不思議と貫かれた衝撃が来ないであります······?
おそるおそる、顔を上げて見ると······。
「間一髪だったな······。怪我はない、ルナシェア?」
目の前にはレイ殿が立っていて、迫る枝をすべて撃退してくれていたであります!
あまりに頼もしい姿に安心し、思わず目から涙がこぼれてしまったであります。