57 アルケミアの思惑②(※)
※(注)変態男が現れます。
下ネタが苦手な方はご注意ください。
(アルケミアside)
少々強引過ぎたかしら?
私はセーラさんに眠り薬を使い、屋敷まで連れて来ましたわ。
(聖なる守り)スキルの効果で状態異常には耐性があるはずなのでちょっと強力な薬にしましたわ。
今日はセーラさんが試練を行う満月の日。
今日を逃せばまた3ヶ月は試練を行えない。
だから今日1日だけセーラさんを私の屋敷に軟禁して邪魔することにしましたわ。
少し姑息でズルい手かもしれませんけど仕方ありませんわ。
やはり正式な聖女となる者は相応の心構えも必要なのですわ。
セーラさんでは荷が重いというものですわ。
「ん······んっ············」
あら、セーラさんが目を覚ましましたわ。
強力な眠り薬だったのですけどやはり耐性が高いようですね。
「お目覚めかしら? セーラさん」
「ア、アルケミアさん······ここは······」
私の顔を見てすぐに状況を察したようですわ。
「悪いのですけどセーラさんには今日1日この部屋で過ごしていただきますわ」
この部屋に窓はなく出口は一つだけ。
部屋全体に消音効果を付与しているのでどんなに大声を出しても外には届きませんわ。
とはいえ部屋自体はとてもいい部屋なので快適に過ごせるはずですわ。
「············私に試練を受けさせないつもりですか? アルケミアさん」
「その通りですわ。正式な聖女は一人で充分ですから」
「聖女は魔物や邪気の発生を抑え人々を護る存在です。聖女が多い程守れる人も増えるはずです」
「ええ、それも一理ありますわね。しかし聖女が複数いるからといってそれが必ずしも良い結果になるとは限りませんわ」
かつて複数の聖女が存在した時代もありましたがそれぞれの聖女の派閥が争って余計な混乱を招いたという話もありますしね。
「セーラさん、あなたの能力は認めますわ。しかし心構えはどうでしょうか? あなたは自分が聖女にふさわしいと胸を張れますか?」
「それは······」
「上に立つ者には相応の心構えも必要なのですわ。そんな半端な気持ちでは人々を導けません。あなたには聖女は多くの人の上に立つという自覚があるようには見えませんわ」
「私は······」
私の言葉にセーラさんは困惑顔でうつむいてしまいます。
この程度の言葉で何も言えなくなるのではどのみち聖女として人々を導くなんて無理ですわね。
しばらくはそっとしておいてあげましょう。
私は部屋から出ていきます。
鍵はかけましたけど、あの様子なら鍵をかけなくても抜け出すこともなさそうですわ。
神殿の方には適当な理由を伝えておきましょう。
ちなみに屋敷の者はセーラさんがここにいることは知りません。
知っているのは一緒に連れてきたスミレくらいですわ。
「セーラさん、食事を持ってきましたわ」
ちょっと時間が経った後、再び部屋に戻ってきます。私の言葉が効いているようでセーラさんは未だにうつむいていましたわ。
「············今はいりません」
「朝から何も食べていないでしょう? 無理はいけませんわ」
少し強く言い過ぎましたか?
しかし聖女たるものこんなことで落ち込むようではいけませんわ。
やはり彼女に聖女は無理なのでしょう。
そんなやり取りをしていた時、突然部屋中に、いえ屋敷中が霧に包まれました。
これは眠り効果のある魔法の霧?
それもかなりの高等な。
どうやら何者かがこの屋敷に魔法を放ったようですわ。
おそらくセーラさんの護衛騎士のリンの仕業でしょうね。
どうやってかは知りませんがここにセーラさんがいることを突き止めたのですわね。
(聖なる守り)のスキルで防げる程度の眠り効果ですわ。私もセーラさんにも効果はありません。
「セーラ様!」
しばらくするとリンが部屋に来ましたわ。
やはりリンの仕業でしたか。
しかしずいぶん来るのが早かったですわね。
外にはスミレを見張りに立たせていたはずですが、もしかしてスミレも眠ってしまったのでしょうか?
「リン······」
「セーラ様、ご無事でしたか!」
リンはセーラさんの顔を見るなりホッとした表情をしています。
「アルケミア様、どういうつもりですか!? 何故セーラ様があなたの屋敷に軟禁されているのです!?」
「あらあらリン、私はセーラさんを屋敷に招いてお話をしていただけですわよ?」
「とてもそうは見えないのですが······」
まあこんな話信じませんわよね。
試練を行う日に誰にも何も告げずにいなくなるなんておかしいことですし。
ですがウソだと断じる証拠はないですわよ。
「それならば連れて帰っても問題ありませんね!? セーラ様、帰りましょう! 今日は大事な儀式の日ですよ」
「······リン······私は······」
リンに手を引っ張られてもセーラさんの反応は鈍いですわ。先程の私の言葉が効いているようですわね。
そんな精神状態で儀式が行えるとは思えませんよ。
「セーラ様? ······アルケミア様! セーラ様に何をしたのですか!?」
「あら? 私は聖女としての心構えについて話しただけですわよ?」
ウソは言っていませんわ。
「先程も言いましたがセーラさんは聖女として上に立つ器ではありませんわ。中途半端な気持ちで聖女として活動されても困りますからね。いっそ聖女候補を降りるべきですわよ」
「な、何を言うのですか!? セーラ様は聖女にふさわしい方です! けして中途半端な気持ちではありませんよ!」
「············リン」
リンの言葉でセーラさんに少し元気が戻ったみたいですね。仕方ありませんわ、ここはもう一度キツく······。
そう口を開こうとした時、突然部屋の明かりがすべて消えました。
「「「キャッ!!?」」」
セーラさん、リン、そして私が揃って声を上げました。
この部屋は窓もなく外の光は入ってこないので明かりが消えると真っ暗でほとんど何も見えません。
············おかしいですわね。
魔導照明の魔力はまだ余裕があったと思ってたのですが。
そもそもすべての照明が一斉に消えるなんてあり得ないことですわ。
原因はともかく明かりをつけなくては······。
私は手探りで魔力充電装置を探します。
確かこのあたりに············。
―――――――ムニュッ
あら? なんでしょうか、手に何かやわらかい感触が······。
少し温かいもの············。
この部屋にこんな触り心地の物を置いてましたっけ?
しばらく触ってみても何かわかりませんわ。
「そこは違いますよ、アルケミア殿」
「え?」
誰の声ですか今のは?
そう思うのと同時にすべての明かりがつきました。
「魔力を込める道具はこちらです。そこは違います」
「······え? キャアアアアーーッ!!!??」
目の前に知らない男がいましたわ。
私は思わず叫んでしまいましたわ。
何故ならその男はこの屋敷にいるはずのない変態としか思えない格好をしていたのですから。