481 魔神の一部の復活
ダルクローアはメアルさんが放った精霊の力によって消滅した。
完全に消え去ったのかどうか正直怪しいが、周囲に気配はないので、とりあえずは大丈夫だろう。
だが、まだ問題は残っている。
「さてサテ、神将はいなくなったことダシ、後は楔の確認と、この迷宮を作り出しているダンジョンコアの回収ダネ」
冥王が言う。
確かに放って置くわけにはいかない問題だしな。楔ってのはどんなのかわからないけど、ダンジョンコアの回収くらいならオレも手伝えそうだ。
そういえばこの迷宮、守護者はいないのかな?
それらしい魔物はいないし、新たに何か出て来る様子もない。
さっきの複数いた魔神の残影とかいう巨人が迷宮の守護者だったのか?
「············ん、ここは? ワタシは一体何を······」
「ミール! 目が覚めたんだね」
気を失っていたミールが目を覚まし、エイミがいち早く反応した。
「姉さん? ここはどこですか? 状況がいまいち理解出来ないのですが······」
少し混乱しているけど、ダルクローアに取り憑かれていた後遺症などは見られず、ミールに異常はなさそうだ。
「そうだったのですか······。ワタシはあの魔人にいいように操られていたんですね。不覚でした······」
「もう二人に埋め込まれていた呪石も取り除いたし、ダルクローアもメアルさんが消滅させたから、心配ないと思うよ」
ミールに現状を簡単に説明した。
操られていた時のことは覚えていないみたいだけど、自分ではない何かが、意識を支配していた自覚はあるようで、すぐに現状を理解してくれた。
「改めて、ありがとうございます。レイさん、母様」
「あたしはあの外道にトドメを刺しただけだよ。その少年がアンタとエイミを助けようと頑張ってくれたおかげさ。レイ、だったね? なかなかに男前じゃないのさ。ミールが惚れるわけだよ」
「か、母様······!」
ミールが頭を下げ、メアルさんが茶化すようにそう返した。
二人を助けようと頑張ったのは事実だけど、改めて言われると気恥ずかしいな。
ミールも珍しく表情を変えて慌てている。
和やかな雰囲気になってきたけど、まだ安心していい状況でもない。
「父様とアイラさんの行方はまだわかっていないのですか······」
ミールが心配そうにつぶやく。
自分が操られていたために、こういう事態になってしまったという責任を感じているようだ。
悪いのはダルクローアで、ミールに責任はないと思うが。
「あのアイラ嬢ちゃんはあたしから見ても相当な実力者だったし、心配いらないだろうさ。もちろん、デューラもね」
メアルさんが豪快に笑いながら言って、ミールの不安を取り除いた。
メアルさんも最終階層まで来れたんだし、アイラ姉達もしばらくしたら自力で来るんじゃないかな?
まあ、その前にダンジョンコアを回収して、迷宮自体を消滅させちゃえば、自動的に全員脱出出来るだろうけど。
問題は、そのダンジョンコアがどこにあるかだが。最終階層のどこかにあると思うんだけど······。
―――――レイ殿、聞こえるでありますか!?
そんな時、外で待機しているルナシェアから念話が入った。
バグ空間では転移魔法や念話は封じられている状態だったけど、ここでは普通に通じるようだ。
いや、それよりもどうしたんだ?
ルナシェアの声が、なんだか慌てている感じに聞こえるが。
―――――ああ、聞こえてるよ。何かあったの?
―――――世界樹やその周辺から魔物が大量に湧き出てきたであります! 学園の地下迷宮から地上に魔物が現れた時と似たような状況であります!
マジか······。
ダルクローアは消えて、もう一安心と思ったが、そうはいかなかったか。
けど、どうしてそんな状況に?
迷宮の中は目に見える異常は特にないのだが。
―――――魔物の中には先ほど、レイ殿が倒した巨人と同じ姿の奴も何体かいるであります。シノブ殿達と協力して撃退しているでありますが、小生達だけでは厳しく······申し訳ないであります!
どうやら、普通の魔物だけでなく、あの魔神の残影と呼ばれる巨人も現れているらしい。
一体くらいなら、ルナシェアやシノブ達でも充分倒せる相手だと思うが、複数いるのはマズいな。
すぐに外に出て、ルナシェア達の助けに向かうべきか?
それともダンジョンコアを探し出して、この迷宮を掌握するべきか?
迷宮から湧き出た魔物ならば、ダンジョンコアを見つけ出せれば止めることも可能なはず。
――――――――――!!!!!
部屋全体を揺るがす、凄まじい振動が起きた。
今度はなんだ!?
「マズいネ、どうやら遅かったみたいダ」
楔とやらの確認に行っていた冥王が戻って来て、開口一番にそんなことを言い出した。
もう嫌な予感しかしないんだが。
「楔が抜けて、魔神の一部が解放されちゃったヨ」
やはりというか、最悪の事態に発展したようだ。