480 神将消滅?
メアルさんがダルクローアに取り憑かれているエイミに向かって、集中させていた力を解き放った。
エイミの身体ごと吹き飛ばしてしまうんじゃないかと心配になる程の迫力だが、メアルさんが自分の娘を傷付けることはないはずだ。
「ぐああっ······女エルフが! どこまでも私の邪魔をするつもりですか······」
「口を開くな、声を聞くだけで虫唾が走る! さっさと消え失せろ、くそド外道がッ!!!」
メアルさんの放った力によって、ダルクローアがエイミの身体から離れ、蒸発するように姿が消えていく。
このまま消えてくれればいいが、コイツがそう簡単にやられてくれるだろうか。
「これで終わったと、思わないことですね。······もう、すでに······」
「しつこいわっ、消え失せろっつってるんだよ!!」
「ぐああーーっ······!!?」
メアルさんがさらに大きな精霊の力を放って、ダルクローアを吹き飛ばし、奴の身体が完全に消え去った。
どっちが悪役かわからなくなる言葉の応酬だったな。これで終わったのか?
「うっ、くう······」
「エイミ······!」
オレは力が抜けたように倒れそうになったエイミを支えた。
(魔人化)の効果も消え、エイミの身体は元の姿に戻っていった。
かなり消耗しているが、異常はなさそうだ。
ひとまずは安心していいのかな。
「こっちの子も、もう心配なさそうダヨ。神将の気配は完全に消えているみたいダ」
向こうでは冥王が寝かせていたミールの容態を見ていた。
二人とも、ダルクローアから解放されたと見てよさそうだ。
「あたしの娘達は二人とも無事のようだね、よかったよ」
メアルさんがエイミとミールの無事を聞き、安堵の表情をうかべる。
「メアルさん、どうやって最終階層まで?」
メアルさん達が迷宮内で何をしていたのか気になっていたので聞いてみた。
ダルクローアもここまで来れるわけないと、メアルさんの登場に驚いていたが。
それとアイラ姉とデューラさんはどうしたのかな?
「精霊達があたしに協力してくれてね。幽体の身体は精霊達と今まで以上に意思疎通がやりやすくなっているから、あの外道の罠を抜け出して、ここまで来れたのさ」
つまりは冥王と同じような感じで、精霊の力で最終階層まで一気に来たってことか。
精霊ってオレが思っているよりも、ずっと凄い存在なのかもしれないな。
実体の無いという点では、幽体と精霊は同じようなものだし、メアルさんは幽体になったというより、精霊化したと言った方が正確なんじゃないか?
メアルさんは精霊の協力でここまで来れたが、アイラ姉とデューラさんは精霊の力を使えないし、メアルさんとは別の場所に隔離されているようなので、どうしているかはわからないそうだ。
まあ、アイラ姉達なら心配いらないと思うけど。
「エイミ、何か身体に違和感とかはない?」
ダルクローアが取り憑こうとしていたんだし、まだ何かあるかもしれないと思い、念の為、聞いてみた。
「わたしはもう大丈夫。ありがとう、レイ君、お母さん」
「おやオヤ、僕に対してはお礼の言葉はないのカイ?」
「え、え〜と······あ、あなたもその······力添え、ありがとうございます、冥王さん?」
「ああ、大いに感謝したまえヨ。エルフのお嬢ちゃン」
冗談ぽく言う冥王に戸惑いながら、エイミはお礼の言葉を言った。
冥王も満足そうにしている。
「この呪石は僕が預かっておくヨ。かなりの魔力が込められているし、我が神への良い土産になるかラネ」
冥王がエイミとミールの身体に埋め込まれていた、二つの呪石を両手にそれぞれ掲げて言う。
冥王に持たしちゃって大丈夫な物なのかな?
「まったく、あの外道が。あたしの娘達にどうやってそんな物を埋め込みやがったんだ······」
メアルさんが忌々し気に言う。
まあ、自分の娘達に変な物を埋め込まれたんだからな。怒って当然だろうけど。
「この呪石、もともとは大した効果も得られない、小粒程度の大きさだったんじゃないカナ? 短期間で急激に魔力を吸収した形跡が見られるかラネ」
冥王が言う。
今は手の平に乗るくらいの大きさだけど、二人に埋め込まれた時はもっと小さい物だったそうだ。
埋め込んだ、というより食べ物か何かに混ぜて、飲み込ませて寄生させたんじゃないかと冥王は推測した。
ずいぶん不確かな寄生のさせ方だが、ダルクローアにとっても、役に立つかわからない保険代わりとか言っていたし、アイツからすれば、寄生に成功しようが失敗しようがどうでもよかったんだろうとのこと。
それが今回、アイツにとって重要な物となってしまったということか。
短期間での魔力の吸収ってのは多分、オレが加護を与えたことや、アイラ姉によるレベリングで二人が急激に強くなったからじゃないかな?
初めて会った頃のレベルのままなら、ダルクローアが重要視するくらいの呪石には成長しなかったと思う。
まあ、それももう終わったことだ。
ダルクローアは消え、二人は呪石から解放された。一件落着と納得しておこう。