478 乗り換え
オレはダルクローアに取り憑かれたミールを救うため、動いた。
ある程度、ミールの身体を消耗させれば、冥王の力でダルクローアを引き剥がすことが出来るらしい。
他力本願になるが、ここは冥王を信じてみよう。
[ミール] レベル830(状態:――――)
〈体力〉145000/183000
〈力〉105000〈敏捷〉116000〈魔力〉145000
〈スキル〉
(詠唱破棄)(同時詠唱)(神眼)
(魔力回復速度上昇〈極〉)
(森の精霊の加護〈大〉)
(異世界人の加護〈中〉)
これが今のミールのステータスだ。
エイミと同等のステータスだが、(魔人化)スキルを得ていないので、暴走して大幅なパワーアップはしないだろう。
仮に得て、今のステータスが数倍にアップしたとしても、(超越者)のスキルを手に入れたオレの方が上だ。
だが、読めないが何らかの状態異常を受けている表示があるな。
おそらくはダルクローアに取り憑かれている状態だからだろう。
ミールの〈体力〉はまだまだ余裕がある様子だ。
魔法などを上手く使わせて、体力と魔力を消耗させるか。
「ヒッヒッヒッ、この身体を傷付けるつもりですか? 貴方とこの娘が想い合っているのはわかっているんですよ。デューラのように、想い人を手に掛けるつもりですか?」
ミールの顔で、不快な笑みをうかべるな。
オレはミールを手に掛けるつもりは毛頭ない。
まずは奴の持っている、エイミから抜き取った支配の呪石とやらを奪ってしまおう。
あれで何をするつもりか知らないが、奪い取ってアイテムボックスに入れてしまえば、もう奴には手を出せなくなるはずだ。
「おっと、呪石が狙いですか。そうはいきませんよ」
素早く奴の懐まで潜り込んだが、奪い損ねた。
簡単にはいかないか。
だが、それならとオレはミールの身体を羽交い絞めにして、動けなくした。
「む、振り解けませんか。やはりこの身体は少々、貧弱過ぎますね」
ミールの〈力〉は10万を超えているから、貧弱ってことはないだろう?
元々のダルクローアの力は、それ以上ってことか。まあ、そんなことはどうでもいい。
「バーンフリーズ!!」
拘束された状態で魔法を放ってきた。
ミールの身体を中心に、周囲が氷漬けにされていく。オレの身体にも徐々に「氷」が侵蝕してきている。
だが、オレにはその程度の魔法は効かない。
オレは拘束の手を緩めず、奴の持つ呪石を奪おうと手を伸ばした。
「そうはさせませんよ」
しまった、足下も氷が侵蝕していて、奴自身がわざと足を滑らしてバランスを崩した。
それによって拘束が緩み、逃してしまった。
「いや、良いタイミングだネ。ここは僕に任せナヨ」
オレの拘束から抜け出したミールを、今度は冥王が捕らえた。黒い禍々しい魔力が、ミールの身体を縛り付けている。
なんだか、これはこれで心配になる光景に見えるのだが。
「さて神将。憑依は僕の十八番なんでネ。いい加減、その娘の身体から出て行ってもらうヨ」
「ちぃっ、冥王······貴様っ!!」
冥王が自身の透けた腕をミールの胸に突っ込み、さっきのエイミのように、ミールの身体から支配の呪石を取り出した。
ダルクローアが抜き取ったエイミの時と違い、ミールの身体には傷一つついていない。
幽体だから肉体をすり抜けて、呪石だけを取り出したのか。
呪石を抜き取られたミールは、糸が切れたように意識を失い、その場に倒れた。
オレはすぐにミールの身体を支え、容態を確認する。
ミールのステータス画面から、状態異常の表示が消えていた。身体の方も目立った外傷はなく、気を失っているだけのようだ。
これでダルクローアから解放されたのか?
「気を付けなよ、レイ。呪石を抜き取るのと同時に、その子の身体から神将は抜け出したカラ、まだこの辺りに潜んでいるはずダ」
どうやらミールは解放されたが、ダルクローアはまだ健在のようだ。奴は探知魔法でも引っかからないので、姿を消されると厄介だ。
また、違う誰かに取り憑くつもりじゃ······。
「うっ、あああっ······!!?」
「エイミ!?」
周囲を警戒していると、後ろからエイミの叫びが響いた。くっ、反応が遅れてしまった。
今度はエイミに取り憑く気か!?
「ヒッヒッヒッ、そんな出来損ないの片割れなど必要ありません。最初から、こちらが本命だったのですよ」
エイミの背後に幽体のように透けたダルクローアが姿を現した。
コイツも幽体の一種なのか?
ダルクローアは同化していくようにエイミの身体に入り込んでいった。