477 呪石
エイミが容器を破壊して、囚われていたミールを救出した。しかし、目を覚ましたミールは何を思ったのか右手を突き立て、エイミの胸を貫いた。
「ヒッヒッヒッ、これでようやく揃いました。わざわざ運んできてくれたことを感謝いたしますよ」
エイミの胸から取り出したのは、黒く染まった手の平サイズの石のようなモノだ。何だアレは?
エイミの心臓というわけではない。
というかミールの口調がおかしい。
あの気味の悪い笑い方をするのは······。
「ミールじゃない、お前はダルクローアか······!!」
オレは残る一体の巨人を素早く斬り伏せ、ミールの姿をしたダルクローアからエイミを引き離した。
よく見たら顔付きもおかしい。
ミールはそんな不快な笑みをうかべたりしない。
「おや、ヒドイことを言いますね? 少なくとも、この身体は正真正銘、貴方の想い人だというのに」
身体は本物のミールで、ダルクローアが取り憑いているってことか?
いや、考えるのは後だ。
それよりもまずは胸を貫かれたエイミの容態だ。
胸を貫かれていたので不安だったが、心臓は逸れていたようで、酷い傷だが致命傷には至っていない。
すぐに特級ポーションと念の為、回復魔法をかけて治療した。
「ケホッ、ケホッ······あ、ありがとう、レイ君」
咽ながら喉に残っていた血を吐いたが、エイミは無事に回復した。
とりあえずは一安心だな。
「あなた方がここまで来るのは予想通りでしたよ。冥王が裏でコソコソと何かやっていたようですからね。冥王の力ならば、この守護者の間まで来ることは可能でしょう」
冥王の協力で、オレ達が最終階層まで来ることは想定内だったということか。
「厄介な女勇者や女エルフ、そしてデューラは迷宮の特殊階層にそれぞれ隔離していますからね。この場にやってくることは期待しない方がいいですよ」
アイラ姉やメアルさん達は分散して、この迷宮のどこかの階層にいるってことか。
いくらアイラ姉達が強くても、単身では迷宮攻略に時間がかかるだろうな。
コイツはアイラ姉達の強さを理解しているから、自分の目的を果たすまで足止めしてるのか。
オレ達がここまで来るのが想定内ってことは、アイラ姉達と違い、オレ達なら邪魔されてもどうにでもなると思われているのか。
舐められたものだな。
「エイミ、身体に異常はない?」
「うん。レイ君のおかげでもう大丈夫······」
ダルクローアがエイミの身体から何を抜き取ったのか、気になる。
傷は回復したし、とりあえずは異常はないようだが。
「ヒッヒッヒッ、なかなかに純農な魔力が凝縮されていますね。埋め込んだ時は小石程度の大きさでしたのに。ほんの数年でここまで成長しているとは、驚きです」
ダルクローアがエイミの身体から抜き取った黒い石を愉快そうに見つめる。
ミールの身体で、そんな笑い方をするな。
それにしても、あの石はなんだ?
「〝支配の呪石〟か。さっき、その子に解呪を施した時に違和感があったのはそれのせいだったノカ」
「隠蔽魔法はかけていましたからね。冥王といえど、少し見た程度では気付かないでしょう」
支配の呪石?
名前からして、魔虫のように対象を操るための魔道具か?
ということはミールも、その呪石で操っているのか。けど、なんでわざわざエイミの身体から、それを抜き取ったんだ?
「数年前にデューラの娘なら何かの役に立つかもと思い、念の為に仕込んでおいたのですが、まさかこんな重要な場で使える程とは思ってもみませんでしたよ。保険はかけておくものですね」
エイミから抜き取った呪石から、禍々しい魔力が溢れている。なんだ?
あの呪石で何をするつもりだ?
「そんな話、どうでもいいよ! それよりもミールの身体を返して!」
回復したエイミが立ち上がり、言う。
そうだな。コイツが何をするつもりか知らないが、問い質してる暇はないし、早くミールをダルクローアから解放してあげることが最優先だ。
「ヒッヒッヒッ、力ずくで奪い返せばいいじゃないですか? この身体を傷付けたければ、どうぞ存分に」
ミールの身体に取り憑いているから、オレ達は手を出せないと思って、余裕そうだ。
だが、確かにどうするべきか······。
取り憑いているダルクローアだけを、なんとか引き剥がす手段はあるか?
「レイ。上手いこと、あのエルフの子の肉体を傷付けずに、消耗させられるカイ? 隙さえ出来れば、僕が神将とエルフの子を引き離して見せるヨ」
冥王が小声で、そう提案してきた。
幽体系の王であるテュサメレーラなら、ミールからダルクローアを引き剥がすことは可能か?
「わかった。どうにかして隙を作ってみせるよ」
オレに良い案は浮かばないので、ここは冥王を信じてみよう。
今のオレならミールを傷付けることなく、ダルクローアを翻弄するくらい出来るはずだ。