472 世界樹の裂け目
「おおっ、ついに師匠も(超越者)のスキルを獲得したでござるか!」
「元々強かったレイ殿が、さらに異次元の強さに至ったのでありますな」
オレがレベル1000に達してスキルを手に入れたことを話すと、シノブとルナシェアが称賛してくれた。
(超越者)
人の身の限界を超え神の領域に足を踏み入れた証。
全ステータス極限上昇。
全属性耐性極限上昇。
――――――???――――――
神の領域か······。
インフレここに極まれりってやつだな。
一番下の項目の???はクリックしても何も表示されない。
まだ隠された効果があるということか?
「本当なの、ソレ? (超越者)は冥王様の中でも〝闘〟と〝無〟の御二方しか至ってない特別な力なのよ?」
フルフルが信じられないモノを見る目をオレに向けた。〝闘〟と〝無〟ってのは多分、冥王の通称のことかな?
確か冥王は全部で六人いるんだったな。
学園地下迷宮に現れたアジュカンダスという冥王は〝腐〟、そしてテュサメレーラは〝透〟と呼ばれていたな。
(超越者)は冥王クラスの実力者でも持っているわけではない程のスキルなのか。
「ということはテュサメレーラは(超越者)のスキルを持っていないの?」
オレはフルフルに問いかけた。
そうなると仮の肉体ではない本体も、そこまで戦闘能力は高くないのかな?
「アンタ、ひょっとしてテュサ様を侮辱してるの? (超越者)に至っていなくても、テュサ様は他の冥王様にはない特別な力があるんだから、たとえアンタが本当に(超越者)に至ったんだとしても、足元にも及ばないわよ!!」
軽い気持ちで聞いたらフルフルに睨まれた。
まあ、オレも(超越者)なんて凄まじいスキルを手に入れて、調子に乗りかけていたかもしれない。
特別な力というのが気になるが、冥王と呼ばれるくらいなんだから(超越者)に匹敵するスキルを持っていても不思議じゃないか。
怒り心頭のフルフルを宥めて、現状の確認をすることにした。
元凶であるダルクローアはどこかに姿を消してしまい、行方不明。
探知魔法でも奴の反応は掴めないので、見つけるのは無理っぽいな。
そして世界樹に取り込まれたというアイラ姉達も姿を現す様子は、今のところない。
迷宮攻略に手間取っているだけで、そこまで心配ないとは思うが、それでも無事を確認したい。
「············ご主人様、アレ」
スミレが世界樹の幹部分を指差す。
そこには異次元に通じていそうな、人が通れるくらいの裂け目が存在していた。
あの巨人が出てきた時に出来たものかな?
あそこから世界樹の中に入り込めそうだ。
「皆、ここで待ってて。オレが入って中を確認してくる」
正直、あの次元の裂け目のような穴に入るのは勇気がいるが、他に入口は見当たらないからな。
何があるか、安全であるかもわからないから、いきなり全員で入るのも悪手だろう。
「大丈夫なのでありますか、レイ殿? 小生も一緒に······」
「拙者も行くでござるよ、師匠!」
「いや、気持ちはありがたいけど二人はここで待っててほしい」
ルナシェアとは離れていても念話で連絡を取り合えるし、転移魔法でいつでも皆を連れて安全な場所に行けるシノブも外にいた方がいい。
「私はアンタの指示は受けないわよ? テュサ様のサポートのためにも私は行くからね」
フルフルは外でおとなしく待っている気はさらさらないようだ。
まあ、オレはフルフルの行動をどうこう言う立場ではないから、無理には止めないけど大丈夫かな?
「わ、わたしも行くよ、レイ君! お母さん達もそうだけど特にミールが心配だし、何もしないで待ってられないよ!」
エイミも一緒に来ると言い出した。
世界樹にはアイラ姉の他にもメアルさんやデューラさん、そしてミールが取り込まれている。
せっかく再会した家族がピンチかもしれないのに、おとなしく待っていられないというのも理解出来る。
「わかったよ、エイミ。けど、あんまり無茶はしないでね」
「うん。レイ君の足手まといにならないように頑張るよ······!」
オレの言葉にエイミは嬉しそうにしながらも、すぐに表情を引き締めた。
あの世界樹の裂け目の先に何があるかわからないが、(超越者)のスキルを得てパワーアップしたし、もしもの時は全力でエイミを守ろう。
スミレも一緒に行きたそうにしていたが、連れて行くとなると結局全員で入ることになりそうなので、シノブ達と外で待機してもらうよう納得させた。
奈落の剣はまだ借りていくつもりなので、普段二刀流のスミレでは全力を出せないだろうしね。
そういうわけでオレとエイミ、そしてフルフルの三人であの裂け目に突入することにした。